ELYSION
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序:パンドラ
世界大戦が終わり、はや十数年。世界大戦による核兵器の使用は、人類の破滅という最悪のシナリオだけは回避した。
しかし、地球には今も放射能汚染により住むことができない場所も多く存在する。どこかで見た記事によると地球の半分以上は住むことができないらしい。
今は戦勝国と敗戦国の代表国で結成された地球合衆国(USE)の政策により、多くの移民が居住可能な国や地域へ押し寄せている。彼、ジョバーニ・メディチも、放射能により祖国を追いやられた人々のうちの一人であった。
そんな状況を解決するためにUSEは宇宙進出を大戦後本格化し、今では宇宙空間にコロニーと呼ばれる居住空間を一つ建設した。1000万人ほど生活できるそのコロニーには現在約100万人が生活しており、今後も移住者が増える予定である。それらを可能にする技術は皮肉にも世界大戦中の軍事開発や、戦後の好景気の後押しが存在したからであった。
また大戦中の月探査は大戦後も継続され、今では月に建設した拠点を経由し、火星への探査も活発になっている。更に月では地中の深くに水が発見され、火星では酸素の元となる物質が発見されたことは、人類の宇宙での生活に活路を開いた。
戦後職を失った人々の多くはコロニー建設へと従事し、ある意味失業者対策にもなっていた。ジョバーニもその一人であり、大学への入学費用を稼ぐため毎日働いていた。
「おいジョバーニ、お前は進学するらしいけど何か考えでもあんのかよ」
タイタンと呼ばれる建設機械の操縦席のスピーカーから、ルーカスの声が聞こえた。
ルーカスはこの仕事で出会ってから、今では一番の親友だ。
「大学でビジネスについて学びたいんだ。実はあるビジネスを考えててさ」
ジョバーニはタイタンを器用に操縦し、コロニー壁面の壁をバーナーで溶接しながら答えた。
「いったいどんなビジネスなんだよ」
ルーカスは暇つぶしに聞くような感じでジョバーニに聞いた。
「最近ようやく最初のコロニーが完成したろ?宇宙での暮らしが当たり前の時代になったんだよ」
ルーカスは作業を中断し、ジョバーニの話に集中した。
「ってことはさ、これからは宇宙に住む人達に様々な物を届けることになるんだよ。今は政府の軍が配達を担ってるけど、宇宙移民が増えていったらいずれ手に負えなくなると思わなかい?」
「確かになぁ。でもよ、そんなのは今地球でメジャーな運送業者がやればいいだけじゃないのか?」
ルーカスはこれとばかりに反論した。
「普通ならそう考えるよね。でも地球の運送会社は宇宙のことなんか全然知識ないし、新しく宇宙で事業始めるのもすげーカネかかんだよ」
「でもよぉ、それはお前も同じじゃないのか?」
ルーカスがジョバーニにいうと、ジョバー二はニヤリと笑った
「最近宇宙旅行者向けにできた旅行会社兼ホテルあるだろ?あそこちょうど地球とコロニーの間にあるし、旅行用の宇宙船とホテルもあるしさ、運送にもってこいなんだよ。しかも格安旅行会社に客取られて最近経営がやばいんだよ」
「そんな簡単にいくかなぁ?でもよ、あそこって一応は大手だろ?なかなか就職難しいんじゃねーの?」
ルーカスがまゆをしかめて言った。
「こればっかりは勉強頑張るしかないな」
ジョバーニが笑いながら言った。
その時工事現場の班長から無線が入った。
「03班聞こえるか?もうすぐ終わるのに申し訳ないが、43区画のスペースデブリを処理してきてくれないか?」
「え~、班長なんで俺らなンすか~」
ルーカスが気だるそうに言った。
「お前らが一番近いんだよ。それが終わったら帰っていいから、頼んだぞ」
二人はナビに送られてきた地図をみて43区画へと向かった。
そこにはいくつかのゴミが浮遊しており、ふたりはタイタンを使い回収を進めていた。
「ったく、宇宙にもこんなにゴミがあるとはな。どっから来たのやら」
ルーカスが呆れながら言う。
「世界大戦のときのゴミがほとんどだろうな」
ジョバーニが答えているとき、キラキラと光り宇宙空間を漂うものを見つけた。
「おいルーカス、俺が向いてる方カメラでズームしてみろよ」
ルーカスはパネルを操作し、キラキラと光る浮遊物へとズームした。
「何だこりゃ、えらい高価そうなゴミだな」
「もしかしたら金になるかもしれない。他のやつに気づかれる前に拾おう」
ジョバーニはそう言うと宇宙服に着替えた。タイタンのパネルを操作すると、プシュッと音を立てて全面の窓が上方向に開き、ジョバーニは外へ出た。
浮遊物は縦20センチ、横40センチ、厚みが20センチほどあり、すべての面に文字のようなものが書かれていた。また、側面には横に切れ目が入っており、開くことができそうであった。
金色にキラキラと輝いているが、下品な金色ではなく、品のある落ち着いた金色に感じられた。
「おいジョバー二!なにか分かったか?」
「分からない、ものをしまう箱っぽいけどこんな場所にあるわけないもんな…」
開けようと力を込めるがびくともしなかった。
その箱はきらびやかで見るものすべてを虜にする力があるように感じた。しかし同時に、触れてはいけない怖ろしさも伝わってきた…。
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