領域を統べる英雄譚
NoiR/ノワール
序章
序章 運命
元々この領域は緑が生い茂り、様々な動物も生息していたものの、何世紀も前に人が踏み入り開拓し、戦争によって色を奪われ、廃棄された結果ここまで荒れた様だ。大剣を背負うこの男も任務前の資料の確認時に知ったことだが。
今いるこの領域は地球ではない───正確にはもう一つの地球といっても違いない。彼の様な者が住む地球は別名『
本来ならば、ある程度緑が荒らされようと荒らされる前よりも根強く緑が生成されるのだが、生命の元とされるエーテルが領域全体で枯渇したことによって、緑が再生されなかったとされているが、真相は解明されていない。
そういった背景がある為、現在はここの調査が進められている。まあ、あまり進展はないようだが。
この領域に限った話では無いが、どの領域にも【領界種】と呼ばれる生物が存在する。【領界種】はエーテルと呼ばれる六つ目の元素が身体を巡っており、この生物と身体に五つ目の元素、魔力が巡っている【魔物】がいる限りは本来緑が枯れることはない。
この二種は自然界の味方ではあるが、彼ら人類にとっては天敵である。領域が繋がったことで彼ら側にもこの二種の生命体が侵攻してきたことにより、北海道帯広・釧路方面、東京都世田谷区、宮城県仙台市、沖縄県那覇市は特に深林化が進み、【魔物】や【領界種】が多く発生している。
「全く、ここは視界が悪過ぎる。エーテルと魔力の乱れも酷いな……。さっさと調査終わらせないと───っとぉ、
老緑色のコートを
その視線の先には数体の【領界種】と思しき黒いモヤがノソノソと蠢いていた。
───ギシャアァァァッ!!
けたたましい叫び声を轟かせ、先の動きとは比べ物にならない程のスピードで一斉に距離を詰め、襲い掛かった。
「【
その言葉に背負っていた大剣が反応し、蒼白く発光する。前へ突き出した腕を右へ払うと、背負ったままだった大剣が独りでに動きだし、その腕に倣うようにして右へ一閃。斬りつけられた【領界種】は結晶化し、その場に制止した。
男が開いていた右手を力強く握ると、結晶が【領界種】ごと砕けちり、エーテルとなり空気中に消失した。
「あれは……【
宙に浮く大剣を背負い直し、再び歩みを再開した。
【魔物】や【領界種】には闘級と呼ばれるレベルが制定されている。過去の事例や予測魔力・エーテル保持量を総合的に考え、E-からSSSまでの序列付けをされる。今回の領界種【
───そう、彼こそが【人類の守護者】の異名を与えられし者。
◆───◆
「理不尽だ」
自室で一人ぼやく。
ここは
ガサゴソと棚から机の引き出しと荒々しく物を取り出しては放り投げを繰り返して探し物をしている。
───くっそ、もう使わねぇと思って随分昔にしまったっきりだ......どこやったっけか
彼は最後の希望とばかりにクローゼットの中にあったダンボールを開ける。そこには少し埃が被り、黒色ベースに銀色の文字が刻まれた高級そうな見た目の一冊の本があった。刻まれている文字は『
「あったあった!捨ててなくてよかった~」
埃を手ではらってその本をそのまま黒いナップザックに入れ、部屋にある壁掛け時計に目をやる。針は一時三十分を指していた。
「っやべ、遅刻する」
今日は事前登校の日で十四時には教室にいなくてはならない。とはいえ自宅からそこまで距離があるわけでもなく、路面電車を使えばすぐ到着する距離だ。
彼はいそいそと身支度をして黒いナップザックを背負い自宅を後にした。
黒いワイヤレスイヤホンを耳に入れ、スマホで音楽を流す。今時のフリーBGMは馬鹿に出来ないレベルに良い物がゴロゴロと存在している。勿論、BGMに限った話ではないが。
今流れているのは、しゅろうという活動者がアップロードしている1℃という曲だ。ゆったりした曲調で冬の早朝の雰囲気を表現している。
見知った道を歩いて数分後、札幌の街中を走る路面電車の駅に到着した。土曜の昼間ということもあり街中の人の行き来は盛んだった。
電車に乗り込み、空いていた入り口付近の席に座った。ここからすすきの駅の隣の駅[第二領域探査学院前]で降りる。
電車内には私服ではあるがおそらく事前登校であろう人らがいた、彼らは友人同士なのだろうか。とはいえ、基本的には初等部(小学)、中等部(中学)、高等部(高校)、付属領星院(大学)と一貫校の為、彼の様に編入で高等部から入ってくる方が珍しい。
───帰ったらランニングにでも行くか
まあ、本人は呑気に構えているようだが。
自身の鞄からファイルを取り出して、合格通知と共に同封されていた一枚のプリントに目を向ける。そこに記載されているのは、今日の事前登校に関することと自身が配属されるクラスがどこなのかが載っており、彼のクラスは
───読みづれぇなあ、これ
この学園特有で学年の数字にそれぞれ違う国の読み方が割り振られている。例えば、初等部一年は英語で【ファースト】。中等部一年がフランス語で【プルミエ】と読み、高等部一年が【エーアスト】でドイツ語、付属領星院一年をイタリア語で【プリモ】と、どれも〝第一〟という意味で違いはない為、めんどうだと感じてしまうのも無理はない。
確認し鞄に仕舞い終えた所で丁度駅に到着した。薄い桃色と薄い黄色の模様が入ったICカードを使い支払いを済ませ降りる。
駅の目の前には、警備員が両サイドにいるかなり大きい門を通り学院の敷地に足を踏み入れた。
「ひっろぉ.......」
彼がそう溢してしまうのも無理はない程にこの学院は巨大だ。基本的な移動方法は動く歩道を使用して移動する。
制服を纏った在校生達が門から教室までの道案内を行っていた。その指示に従い歩を進める。その間、彼とすれ違った人達はヒソヒソと小声で何かを話すということが何度かあった。
指定された教室は広く、席は階段状になっており教卓が見易い仕様だ。すでにかなりの人数が揃っており、空いている席も教卓に近い席のみだった。
彼は入ってすぐの席に座り魔法学の本を開いて時間を待つ。
ガチャッと扉が開き、黒いスーツでオールバックの男性がタブレット端末を左手に入室してきた。途端、教室は静まり返り、微かな話し声が聞えだした。
「お、おい...あれって......」
「
この学園の学院長を務める彼、
「それでは、今から出席を取っていく」
そうして、順々に名前が呼ばれていき彼の名が呼ばれた。
「次────
「はい」
しっかりとした声で、だが彼からしてみれば少し面倒くさそうにも捉えられる発声。それでもしっかりと前を見据えている。
これは彼彼女らが『運命』と呼ばれる物に剣を向け、全てを繋いでいく物語。
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