バタフライ・エフェクト

水野惟吹

第1話

 6月6日木曜日。天気予報では晴れとなっていたが、外はまだ少し暗い。半目になりながら側にあるスマホを確認する。まだ、5時30分。最近、スマホの光調節で目が辛くなる。だから、スマホが勝手に画面を明るくしてくるのがうざい。周りからすれば便利なものだが、自分にとっては邪魔になるものは誰にも一つはあるはずだ。

 目を覚ますために、布団を大げさに捲り、伸びをする。これをしないと勝手に目が閉じて、二度寝してしまう。先月、二度寝をしてしまい、起きたのは午前10時。完全に遅刻してしまった。私たちに遅刻するなって言ってくるくせに自分は遅刻するんだ。しかも学校にきたのは11時過ぎ。ふ~ん。という目で生徒から見られ、その視線がとても痛かった。

 朝ごはんはご飯派だ。パンだと腹持ちが悪いので、絶対に食べない。子供の頃はよく「三十回は必ず噛んで食べなさい。」と、母親に言われていた。今も時々思い出すが、今はもうそんな事はしていない。面倒でしょ。「いただきます」なんて言葉なんて何年も口にしていない。昔、いただきます、の起源について聞かされた覚えがあるが、内容も、いつ聞かされたのかも思い出せない。

 朝ごはんを食べ終えた後、食器をシンクに置き、水に浸ける。スーツに着替えた後、ソファーの座りスマホを見る。ニュースをざっと見た後、天気を確認する。

「あれ、曇りに変わっている。」

 天気予報アプリの悪いところだ。昨日までは「今日は晴れ」の予報だったのに。当日の天気が予報と違っていたらしれっと変える。この、後出しじゃんけん戦法で高い的中率を謳っている。この前、「雨」と予報していなかったのに、正午を過ぎると突然雨が降ってきた時があった。嘘だろと思いながら近くのコンビニに駆け込み、スマホで天気予報アプリを見てみると、しれっと雨予報に変わっていた。ふざけんな、と思わず叫んだ。もちろん心の中で。

 だらだらとスマホを見ていると、時刻は7時を過ぎていた。コートを着て行こうかと悩んだ末、着て行くことにした。曇りだし。

 ドアを開け、鍵を閉め、歩き始めたときに、コートいらないな、と思うような温度だったが、このまま職場に向かうことにした。

 自宅から駅までの道で、一度大通りに出ると、そのまま真っすぐ行けば着く。自宅からその大通りまでの道ですれ違う人は、ジャケットを着ているだけで、コートをしている人は自分だけだった。

 今日は道が一つはずれたところから行くことにした。そこには、住宅の間を縫うようにして作られた細い路地がある。街灯の光が弱いので、夜にここを通る人はほとんどいない。そして両側が住宅を仕切るブロック塀に囲まれているので、圧迫感が凄い。加えて、少し不気味な雰囲気を漂わせているので、朝にこの路地を好んで通る人はいないだろう。今日はその方が好都合。好んでその道へ歩を進める。

 路地から抜け出したとき、ドッと後悔が押し寄せてきた。その路地に入るや否や、まずは干からびたミミズが数十匹、万遍なく散乱していた。その時点で、気分は落ち込んだ。その後、いつの間に現れた、黒猫がこちらを凝視してきた。というより、睨みつけてられた。最後には、大量のカラスが、頭の上スレスレを飛んできた。朝からブルーな気分で学校に向かった。

 僕、水野佑(みずのゆう)は、国立大学を卒業して、数学の教育免許を取得。すぐにこの高校に勤務することなった。

 今務めている私立高校は、結構きれいだし、年収も十分である。何より、夢だった「教師」に、なれたことが、人生の満足感を高めている。

 「おはようございます。」

 職員室の扉を開けると同時に、周りに聞こえるか聞こえないかの声でボソッと挨拶する。朝から大きな声を出す気分ではなかった。今はまだ、数人ポツポツいる程度だった。早く来すぎたかな。

 自席に着いて、軽く深呼吸して息を整えた後、途中で買ったコーヒー缶をそっと机に乗せる。

今日の授業準備、生徒の進路相談の資料作成、提出物のチェック。やることは山積み。残業が当たり前の教師という職業にとって必要なスキルの一つが、いかに効率よくタスクをこなすことができるかどうかである。教師はブラックだ、という世間からの目線を逃れるためには、教師自身が頑張る。教師に対して善良的で革命的な政策が施行されることなく、あくまでも残業は教師の責任ということになっている。


 ―キーンコーン

 腕時計を見ると、九時になっていた。なんとか、提出物のチェックを半分終わらすことができた。朝のホームルームの時間だ。職員室を出て、担任をしている3年A組の教室に向かう。


 ―ガラガラッ

「はーい。席に着いてー。」

 集まって話していたグループらが解散し、それぞれの席に着く。

「出席取るよー。秋吉さん。」

「はい。」

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