第5話  理想の結婚相手

「お父様、オアシスなんて田舎には、あたくしは絶対に嫁ぎませんことよ」


「カミーユ!!お前のせいで、ミレーユの婚礼まで遅くなったらどうするだ?」


「あの子は、結婚の拍を付けるとかで、今は光の神殿で修行中ですわ。当分帰ってきませんよ。そんなに簡単に聖典が暗唱できるものですか」


「いや、今夜来た手紙には、次の満月の時に三賢人の前で聖典を暗唱するそうだ。試験に受かれば、緋色の腰紐(中位の巫女)をもって、帰って来るぞ」


 お父様は、あたくしの顔をジッと見つめてきましたわ。

 本当の事のようですわ

 四歳違いのミレーユはあたくしと違って、お母様似の清楚な美人ですわ。

 王家の血を引くというお母様。

 ただ美しいというだけで、お父様に選ばれてしまった。

 しかも、跡取りが生めなかったからと、愛も覚めてしまって、お父様は絵師に走ってしまわれてる……

 王家に多く出るという、薄い茶色の髪と茶水晶のような瞳。

 それを映したような、ミレーユ。


 あたくしは、どこから見てもお父様似ですわね。

 金茶の巻き毛も、青色だか灰色だか分からない瞳の色も。

 ついでに、ほくろが左の眼の下にある事まで、完璧にコピーしてますわ。


 そうでしょう。

 ミレーユならば、直ぐに縁談がまとまって、婚礼を挙げれることでしょう。

 適齢期の18歳ですもの。


 でもそうなると、姉のあたくしが邪魔という事になりますわ。


「まさか、お父様!!それで水不足の小国にあたくしを追い出そうとしているのですか?」


「いや、国ではないそうだ。族長の弟だと言っておったぞ」


 あたくしは思い切り、お父様の頭を叩きましたわ。


「あたくしはこの大国、ヴィスティンの王家の血筋を引く伯爵令嬢なのです。

 なのに何故、国ですらないオアシスに嫁ぐ必要があるのです?」


「お前好みのイケメンだぞ」


 と言って、お父様が小振りの肖像画を出してきましたわ。


「これは……」


 肩に流れる淡い金髪、草のような緑の瞳。砂漠の民らしく露出の多い衣装ではありましたけど……エドワゥと張り合えますわね……


「持参金、最髙金貨300枚で第三夫人に向かえてくれるそうだ」


 持参金!?持って来いですって!!?第三夫人だあぁ!?


 あたくしは少しはぐらついた自分にも腹を立て、思い切り肖像画を粉砕しました。


「そんな貧乏人との結婚はお断りですわ!」


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