第15話 変わりゆく世界

第15話 変わりゆく世界


世界が変わる。

それは—————たった一つの言葉だけで。



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目にオレンジの光が、呼び覚ますように入り込んでくる。

その光は次第に強く……そして、逃げられないように睡眠の道を塞いでくる。


その時間が数秒間続いた時……耳の中によく知っている声が入ってくる。

その時……俺の目は徐々に開いていく、それに伴いオレンジは色濃くなる。

次に映るものは、俺にとっての宝物であった。


「あれどうしてって、何していたんだ?」


「目が覚めたのかな?おはよう、七星クン」


自身の眼前に映るものは、彼女だった。

その顔は心配してるように見えるが、どこかおかしいと感じてしまう。

無論、彼女を疑っているわけでもない。

そもそも、疑うことすら間違いだ。


だが、疑ってしまう。

悪い癖、というわけでも無いのに。


「あ、カエデさん、俺なにしていたんですか?」


「ああ、まぁ……ちょっと、頭痛そうにして、寝てたよ寝顔も可愛かったな」


彼女はそう口にした。

すると続けてこのようなことを、言い始めたのである。

その言葉は、独白のように聞こえたのであった。


「今回はキミに助けてもらったけど次からは、私なりに気をつけていくよ、またあんなことになったら、大変なことになっちゃうからね」


このようなとを口にして、空中につずっていた。

ゆっくりではなく、かなり早口で言っていたように俺は聞こえた、急かしているというものに近いだろうか。


俺は"彼女の言っていることが、全く理解できず…首を傾げる"だけだった。

その間が、数秒間もしくは数十秒間ほど続いた時には、俺は首を傾げることをやめた。

それでも、彼女の顔はずっと見ていた。


すると、その様子に彼女が気付いたのか、俺にその赤い眼を向ける。

その眼を見た時、不思議な感覚におちいった。


「いや、キミには伝わらないか、気にしなくていいよ、ただの“独り言”だから」


「ん」


喉から声が出る、それはなんとも寝ぼけているや相手を馬鹿にしているようなモノに該当すると、実感すると同時に理解した。


すると、唐突に彼女がこのようなことを切り出してきたのである。


「ねぇ、もうそろそろ、ご飯が冷えちゃうかもしれないから、食べたらダメかな?」


その台詞のおかげなのだろうか、俺の意識は一瞬にして覚めたのである。

正しくはもともと覚めていた意識が、完全に覚めたと言った方が正しい表現になる。


それはそうと、彼女が言ったことに対して返答がまだだった。

そんなことを思いながら、俺は閉ざされていた口を開いた。


「ご飯…カエデさんが、食べるというのなら食べますよ」


…正直なところこの発言は、女の子が提案してくれたものを、水底みなそこに捨てるような発言だと感じた。


だが彼女はこのことを全く、気にしていない様子であった。

むしろ笑顔になっていた、予想だが自身が決定権を手に入れような、そんな顔をしていた。


「じゃあ、ご飯…食べよ?」


すると喜びから一気に変じて、次は懇願するような口調へと変化した、一言で言うのならば俺が今まで聞いた中で、トップに入るくらい可愛い声を出してきた。


この子はどれだけ俺の“理性”を、再起不能にさせたいのだろう。

まぁ、彼女の性格的になにか、考えがあってしていることだろうと予想する。


「いいですけどなんで急に喋り方というか、声の出し方変わったんですか?」


すると彼女は少しだけ目を見開くと、すぐに笑い始める、その表情は今までと比べ物にならないほど可愛かった。


「ん?なんでもないよ♪」


「はぁ」


彼女はその笑顔を見せながらウィンクをすると、食事を置いている食卓へと向かった。

俺はその後ろ姿ですら、愛おしく見えたのである


それを見ながら脳内を真っ白にしながら、ボーッと微睡まどろんでいると、彼女から声をかけられた。


「どうしたの?早くご飯食べようよ!!」


「あ、ああ」


彼女から手を引きずられて、微睡から解放された。

解放されると彼女の柔らかく小さな手の感触が、自身の少しだけ傷ついた手に一瞬にして広がった。


彼女は小さな体を器用に動かして、椅子へと座った。

時間に換算すると、わずか数秒間だった。


そして後を追うかのように、俺も自分が座る席へと向かった。


歩く音と外で鳴く虫の鳴き声とが相まって、哀愁というものを自身の胸の内で感じ始めた。

だが身体はそれを認知することなく、足だけを淡々と動かすだけであった。

だが妙に足が重く感じる、ただの勘違いであると嬉しいが。


「ねーなんでずっと立ってるの、なーなーせークーン、早く食べようよー」


「すみません、少し考え事をしてました」


口から反射的に言葉が漏れ出す、とは言ってもその言葉は一瞬の思考によって作り出した、ただの幻想にして虚言である。

可愛らしく駄々をこねるような口調で、食事を促す彼女。


どうやら彼女から見ると、俺はぼーっと突っ立ていたらしい。

なぜだろう、自分の中では歩いていたつもりだったのだが、やっぱり疲れが表れている可能性が高いのかな。


「じゃあ、いただきまーす!!」


「いただきます」


彼女は子供のように大きな声を出す、非常に健気であり、すごく明るかった。

それに反しておれは、淡々として霜のように冷たい非常に低い声で、食事を始める合図を言い放つ。


早速、食事に手をつける。

白米がぎっしり詰められている、茶碗に手に持った箸を伸ばした。

まあ大体わかっていたが、白米はかなり冷え切っているのが理解できた。


冷えているためか、口に含むと


「おいしーい! ねぇ七星クンこれどうやって作ったの?」


すると彼女が歓喜の声をあげる、その時彼女を象徴するモノの一つである、白色の髪が一瞬大きく揺れた気がする。

プラスで彼女の頭の頂点に塔のごとく立っている、アホ毛がぴょこぴょこと揺れた気もする。


そんな状況を脳内で処理した俺をよそに、彼女は俺に対して言葉を述べ始める。


「どうやって作ったの? ねぇねぇ!!」


「ああ、分かりました……」


彼女に対して、彼女が言葉を俺に対して述べたように、俺も同じように彼女に対して言葉を述べ始める。


「いやちょっと異界幻像アナザー・ファントムで火を出してその後、鯖とかを焼いただけですけど」


「え? 待って、それだけで本当にできるの?」


「どうかはわからないですけど、自分はコレだけでできましたよ」


「本当?」


「ええ、本当ですけど……」


「本当かーー」


「?」


彼女の言っていることは理解できる。

だけどなぜそんなに、俺の料理に対して美味しいというのかが理解できなかった。


頭が混乱という二文字に支配される、記憶の海が混乱に書き換えられる。

そうなると、次に来るものは。


「おーーい、どうしたの七星クン?」


が、俺は彼女の声には反応しない。

聞こえてはいるものの、体が反応することは全くなかった。


意識はあるこれが疲れによるものかどうかなんて、水揚げされた水性生物のような状態の俺には全くわからない。


そもそも……今の自分は本当の自分かすら、理解できないし。

わからない。


すると唐突に肩に感覚が走る。

その感覚のおかげで、意識を覚ますことができた。

覚める時は止まらない雨が、急激に止み満天の青空が広がったような感覚であった。


「どうしたの体調でも悪いの? やっぱり、今日のことで疲れてたりする?」


その感覚を起こした正体が、今この一瞬という時間で判明した。

それは、彼女であった。


「ああすみませんなんでもないです、そして自分は全く疲れてないです」


ここで彼女が言った発言に対して、一気に息吹く暇もなく断言をした。

俺が一気に断言した言霊の残穢の影響なのか、彼女は少し驚いていた。


すると彼女は右手に持ってた箸と左手に持っていた茶碗をテーブルに置き、唇を少し揺らすとその小さな口を開いた。


「そっか、それなら良かった」


その口から出た言葉は非常に単調で、かつ非常に短いものであった。

それは俺がボーッとしていた時間よりも、圧倒的に短かった。


「すみませんカエデさんが心配してくれたのに、適当に回答してしまって、あの本当に———」


俺が懺悔と贖罪の言葉を彼女に詠していると、彼女は少し口角を上げた。

表情は、ニヤリという表現が正しいかもしれない。


そして俺が最後の締めの言葉を言おうとすると、それに割り込もうとせんばかりに、口を開き言葉をそこから漏らす。


「いいよ七星クン私は全く怒ってないし、キミに対して謝れなんて一言もってないよ」


「え?」


「どうしたの? キミさっきからおかしいよ、ずっと呆けていたり、急に話し始めたかと思うと謝りだすしさ」


「……」


その言葉に反論する気など、起きることすら絶対にない。

俺の言葉は硬直し、まるで氷に閉ざされたかのように四肢すらも動かない。


あるのは目の前の少女から指摘され、それに対して問題を解くかのように、思考を巡らせる頭だけだった。


その頭だけが、動力を得たかのように動いていたのであった。

もちろん頭が動力を得ても動きもしないし、音も鳴らしたりしない。

でも確かに、それは動いている。


「あ」


すると脳で巻き起こしていた思考に、決着がついた。

そこまでの経緯は自分でもわからない、それでも思考に終わりが来たのは明らかである。


そして俺は少女の膝に眠る前まで、自身の中に留めていた通常の意識システムを再度自身の中へと組み込んだ。


「やっぱり自分、おかしかったですね」


「うん」


さっきまでの自身のことも思い出した上に、それに対する嘲笑の言葉も出てきた。

だが、少女の解答はそれに対する答えのようなモノであった。


「じゃ、ご飯食べよ次は本当に冷えだすし」


「そうですね」


さっきと言動は変わらない、だけどはっきりと意識は戻ってきている。


俺も彼女に続くように、食事に手をつけた。


そして外には一瞬だけ、“黒色の影が見えた”。


だが俺は関心すら示さない、その影はこのあと起こる最悪の出来事を起こすとも知らずに。



第15話 終

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