アナザー・マジック・リベリオン

出雲・ツキ

第1話

第一話・プロローグ

 

 

 俺には守るべき人がいなかった、正確には守ろうとすればするほど足がすくんで動けないんだ、大切な人が消えていく瞬間を目の当たりにしに恐怖を抱いてしまう。

 だがある日の朝に俺の人生は簡単に思いもよらぬ方向に傾いていった、その原因はある一人の少女のせいだった。

 そして、この世界は魔法と魔術と工業が最先端になっている。

 1750年に今まで空想の産物と思われていた魔法が発見され後の1875に魔法の上位互換である魔術が発見された。

 これより始まる話はこの世界の理不尽と不平等を全て覆していくまでの、二人の魔術師の物語である。

 

 

本編開始



俺の名前は神崎[かんざき]七星[ななせ]・・・実の親から名付けられた名前らしいけど、今現在はいない。

「つまらない」

ネガティブな言葉を口ずさむ、実際友達もいないのでこう一人でいつも過ごしている。

教室に何人かがいるが、誰とも個人的な会話をしたことは全くない。

「暑いな、どこか涼しいところにでも移動しようか」

今は七月である、少しずつ気温も上昇していっているのが現状だ。

「確か今日風吹いてたよな」

この時一つの案を思いついた。

「そうだ廊下に出るか、多分窓ぐらいなら開けてもいいか」

そして座っていた椅子から立ち、少し歩いて教室から出る。

廊下には複数人が集まって、楽しく会話をしている真っ最中だった。

もちろん俺はその集団に混ざることはできない。

「やっぱり、廊下の窓から浴びる風は涼しいなぁ」

心地よい風が顔に当たる、少しかいた汗が風邪の影響で冷たい。

「…………」

何も言わずに風に当たり続ける、少しだけ自身の着ているTシャツがパタパタという音を出す。

すると後ろから誰かの足音が聞こえる、その足音はコツコツという音と共にスムーズに歩みを進める。

「誰か来たのか?」

その音源が近くなってきたので、目を向ける。

「あっ」

そこには一人の人物が立っていた、それは俺が好きな人だった。

その人物の名前は有宮[ありみや] カエデという名前である、見た目は白髪とまるで血液と思わせるほど赤い目が特徴である。

他には非常に高い知能と運動能力を持ちあわせている上に、美少女という欠点が見つからないスペックを持ち合わせている。

「相変わらず可愛いなあ」

 小声で呟くと、彼女から声をかけられた。

「あの、なにか用でも?」

 全身に電気が走り、心臓がドクッとした、体全体から汗が噴き出た、俺は猛獣に睨まれた小動物のように体が硬直していた。

 他人と一対一で話すのは実に数ヶ月ぶる。

 「い、いや、特に用は…無いです」

 感覚が麻痺したかと思った。

「そうですか、ではまた」

 そして彼女が離れようと、した時に小さい声で。

「放課後、廊下で待ってて…」

 ん?今なんて俺が混乱している時に、混乱している俺を覚ますように。

「カエデー!」

 廊下に響く声が聞こえた、声に驚いた俺は声がした方向を見た。

「ごめんね、じゃあ放課後で」

 本当に彼女が離れだした、そして声がした方向へ向かっていった。

 夢のような時間を経験した、ほんの数分にも満たない時間だったが俺には数時間にも感じた。

「遅いよカエデ、ほら行くよ」

 どうやら声の源は彼女の友達らしい、人数は五人くらいだった、そして彼女を呼んだのはその中の一人らしい。

「なんなんだ?」

 彼女の友達よりもっと気になったことがあった、それは彼女が廊下で待ってと言ったことが気になっていた。

 まさかの告白か……いやそんなことはない絶対にない、彼女とは話しても用事がある時以外話したことがなかったからだ。

「わけわからないなあ、とりあえず教室もどるか」

 そして、トコトコと教室へと歩み出す。

「みなさーん!席についてください!」

 異様に明るい教師の声が聞こえる、朝からあんな元気に腹から声を出せるなんて俺からは考えきれない。

「ではー、今日も一日頑張っていきましょー!!」

 どんだけテンションがバグってんだ、流石にうるさすぎないか?

 その後授業が終わり、昼休みになった。

「ねえ、君」

 いつものように廊下を出て、うたた寝に浸っていると自身の横から声が聞こえた。

「え、カエデさん?」

 そう朝話しかけてきた美少女だったのだ。

「あの、朝のことだけどC棟に来てくれない?」

 C棟って人があまりいないとこじゃないか?なんでそんなとこで。

「」

「そろそろかな?」

 朝に約束していた場所についた、そこは普段誰も使わないような廊下だった。

「とりあえず、壁に寄りかかるかあ」

 壁に寄りかかり夕日をバックに手にしていたスマホでSNSを確認する。

 一通りスマホを弄って軽く5分くらい経った。

「まだかなあ?」

 トイレに行きたくなったので、すぐそこにあったトイレに向かおうとしたその時だった。

「ごめんね、待たせて」

 声が聞こえた、それは孤独だった俺に光を与えてくれるような感じだった。

「あ、いや大丈夫ですよ」

 また朝の時のように震えながら言葉を発した。

「ねえ、私が何しに来たかわかる?」

 なんと答えれば良いだろうか?

「えっと、行事の話とか?」

 すると、彼女が少し睨んでくる。

「じゃあ、相談とか?」

 彼女が先ほどよりも睨み、そして頬をすこしプクッと膨らませる。

 一か八か言ってみるか?

「まさか、告白ですか」

 その瞬間に彼女の顔が喜びに満ちた、多分少し涙も流してた。

「ありがとう七星クン、そうだよ私は入学してから今日までずっと気になってたんだ…」

 彼女が俺に対して持っていた想いを話しはじめる。

「君ってさ、もう両親いないんでしょ」

「え、なんで知ってるの?」

 友達とかならばわかる話を、なんで他人が知っているんだ?

「それはぁ……まあいろいろね?」

 予想だけど彼女は俺が思っているより身分が高いらしい、多分富裕層などに近い身分だのだろうか?それとも市役所などの関係者か……そんな考察をしていると彼女が話しかけて来る。

「あ、あの、私の告白受け取ってくれる?」

「もちろんだよ、俺も大好きだから」

 彼女は言葉を言った後に顔が赤くなっていた、少し嬉しそうになっていたとも思う。

「七星クン……大好き」

 その時に大好きと言いながら抱きついてきた。

「え、あちょ」

 こんな体験は初めてだ、同じ年齢かつ学校でも他校でも話題になる美少女に抱きつかれている。

 俺はその時は夢を見ているんじゃないかと思っていた。

「ねえお願いがあるんだけど……」

「なに?言ってみな」

 俺は彼女の言葉を快く承諾した。

「私のものになってくれる?」

 え?私のものになれだと?

「どういうこと?」

「だから、私だけのものになってもらえない?」

 身長が低いので顔を見上げてくる。

 正直理性が無くなりそうだった。

「いやあ、流石に無理かなぁ…」

 すると彼女は抱きつくのをやめて、三メートルくらいの間隔をとる。

 そして話し出す。

「手荒な真似だけど、こうするしかないか」

 彼女はそういうと、指をパチっと鳴らす。

「え……」

 その瞬間に体に重みがかかる、その衝動で地面に崩れ落ちた。

「痛ッ…!」

 床に体全身が叩きつけられた、その時に痛みが襲ってきた。

 地面に崩れ落ち彼女の足元が眼前に映る。

「カ、エデ、さ、ん……」

 もがき苦しみながら、彼女の名を口にする。

「空気に刺激を与えて、重量を多くするように促したんだけど、七星クン死んじゃうかな?」

 普通のことだと言っているような、目で見つめてくる。

「とりあえず解除」

 すると痛みが一気に和らいだ、まるで先程のことがなかったかのように。

「あっ…」

 痛みが抑まってすぐなので、呼吸が乱れる。

「で?どうするの?」

 そんなこと気にする必要はないという顔で見てくる。

 そして俺ははぁはぁと乱れた息を整えながら立ち上がる。

 冷静さを取り戻してから、口を開く。

「なんで、カエデさんのものにならないといけないんですか?」

 彼女は先ほどの殺意を消し、俺に理由を語る。

「一言でいえば君の母親に研究された、実験体だからかな」

 母親?実験体?わけの分からないことを言われ脳の処理が追いつかず混乱する。

「私はね異界魔術アナザー・マジックっていう、すごく特異な魔術を埋め込む実験に参加させられたいわば被験者ってやつかな」

 彼女は俗世では使わない単語を、日常的に使っているようにすらすらと話す。

「その、異界魔術っていうのはどういうものなの?」

 質問をする、カエデは少しの間を開けて口を開く。

「分かりやすく言うなら、この世界の法則が通じないモノかな」

 言っている意味は理解できない、実際なんだ?この世界の法則が通じないなんて、それは最早人類には計り知れない力を持っているんじゃないのか?

 ……それより先に重要なことがあった、なぜカエデが俺を自分のものにしたがるのかそれを聞いてからにするとしよう。

「じゃあなんで俺を自分のものにしたいんだ」

 理由を聞き、再度聞き直す。

「君があの事件の唯一の生き残りだからかな、とはいっても私が君のことが好きなのもあるけどね♪」

 カエデは少し頬を赤らめて笑顔になる。

 この時のことを正直に言えば、さっきの殺意を出した時とデレた時の変わり様が凄すぎる。

「事件の生き残り?」

 彼女の好意はよく伝わったが、事件というワードが聞こえたので質問してみる。

「あーちょっとねえ君がショックを受ける可能性もあるから、話しにくいんだよね」

 少し苦笑いをするこの顔もかなり可愛い、正直言ってカエデの頬を触りたい。

 あと俺はロリコンではない。

「ショックを受けるほどの話なのか?その事件は」

 気を取り直して言おう、まずショックを受けるということは俺の人生に非常に関わっているということだと思う。

「七星クンが自己責任でというなら、聞かせてやってもいいよ」

 さっきまで苦笑いだった表情は神妙な顔になる、俺が朝まで見ていた表情と同じだった。

「事件の当日、私はいつものように実験に参加させられていた何も変哲もない殺風景で無機質な壁と天井、そして私は毎日飽きるほど繰り返した魔術の行使を研究者たちの指令を聞きながら、何百回も繰り返していた何をしたいのか全くわからない私を研究者たちは宝石を見るような輝かしい目で見ていた」

 淡々と語るその日あった出来事を、一文一句言葉で表して聞かせてくる。

「でもその時は来てしまった実験施設に張り巡らされたセキュリティシステムが警報を発したんだ、その実験施設は部外者以外は入れないようなほぼ完全なる閉鎖空間だったから研究者たちはただの機械の誤作動と考えた、そんなことよりもという感情を露わにしながら研究者たちは私の実験を続けた、だけどその後に研究棟が爆発した理由は魔力制御が出来ずに暴走してしまったらしい」

 話を聞いていく内にこの世界の真実に辿り着きそうな予感がしてきた実験施設は鳥かごのような場所だったということ、そしてカエデは推測だがかなり非道な実験に付き合わされていたと。

「その実験施設に、俺の出生とかに関わっていたものがあるのか」

「もちろんあるよだってその実験施設に君もいたからね、とはいっても君が実験に直接関わったことはないよ」

 ちょっと待て今聞き捨てならない事を聞いたぞ、俺もその実験施設にいたということか?

「ちょっと待ってなんで、俺が実験施設にいたって知ってるの?」

 だってカエデは、ほぼ毎日同じ部屋に拘束されていたと仮定したら俺に会う機会なんてないと思っているのだが。

「知っている理由?」

 カエデは少し笑みを浮かべると、すぐに口を開き理由を語ってくれた。

「それは君の両親に合ったことがあるからだよ」

 俺の両親に会ったことがあるだって?

 じゃあ何故覚えていないのだろうか?

 普通なら覚えていてもいいはずなのにな…

「まあ、七星クンもう遅いだろうし…学校でようか」

 すっかり忘れていたとりあえずスマホを確認する、そして画面上に映し出されたのは16:47という数字だった。

「ああー確かに遅いから出ようか」

 その瞬間カエデが手を繋いできた、心臓の心拍が急激に上がった。

「ねえもう私たち恋人関係だし一緒に帰ろ」

 脳が今の状況を己の処理能力の限界まで利用して処理している。

「え、あ、ちょっと」

 焦って手を離してしまう。

「え?」

 カエデは疑問を浮かべた顔になる。

「いやまだそんな関係は、まだ早いと思う…」

 だがカエデは怒りを覚えることはなく、また不敵な笑みを浮かべる。

「そんなこといいから、一緒に帰ろ!」

 そして俺の手を強く握り、無理やり手を引っ張る。

「力強ッ!」

 思わず口に出してしまう、いやだって本当に力強いんだから。

「こう見えて私力強いんだよ」

 体の大きさに合わないくらいの力を平然と出しているので、異常だとこの時点で察した。

「はあ、はあ、はあ」

 その後彼女の足の速さが速すぎたため、絶賛体力の限界を迎えたのでした。

「大丈夫?」

 ははは、当人から話しかける神崎でしたとさ…

「いや大丈夫少し休憩したら」

 とはいっても隠しきれていないのが現実である。

「じゃあこうしようか」

 すると唐突に俺に対して、お姫様抱っこをしだしたのだ。

「これならすぐに帰れるよね」

 そして走り出す軽く自動車と、同じと思わせる速度で走る。

「えええええ!?」

 規格外の速度を見てしまった俺は、半分意識が遠のきそうに何回もなった。

「大丈夫落ちたりしないから、最低でも七星クンが死ぬことはないよ」

 涼しい顔でいう彼女を見て、俺の意識は完全に暗闇に落ちた。

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