第24話 情けは味方

サナーガの裏切りで商業都市キィドは陥落し、10万の民はことごとく虐殺された……おかっぱ頭を頭頂部でしばり革鎧をまとせいは、姉 華桃かとう紀礼女きれいじょを探す為に多くのしかばねで埋め尽くされた戦場せんじょうを泣きながら彷徨さまよっていた。


華桃かとうお姉さーん!!紀礼女きれいじょさーん!!…うぐっ」


華桃かとう紀礼女きれいじょは 敵の大将であるサナーガ王 沙馬駄しゃばだを討つ為、乾坤一擲けんこんいってきの勝負に臨み 特攻したが多くの影武者にはばまれ失敗に終わり生死は不明であった。


「返事してよー!!!!…うう」


しかし…目の前に横たわる多数のしかばねせいの呼びかけに答える事は無かった。


「お姉さんも…ヴァルもいない……」


やがて戦場せんじょうには 死肉に群がるカラスが頭上を埋め尽くそうとしていた。


「こんな所に…二人を置いておけない……」


せいは 一人一人のしかばねを確認した…目に涙を浮かべながら……


「いない…もしかして…生きて……」


「せ…い……」


不意にせいの耳に聞き慣れた声が聞こえた。


「お姉さん!?何処どこ!!??」


周囲を注意深く見渡すと 踊り子風の衣装をまとい横たわる女性を見付けた。


「お姉さん!!??」

「せ…い…なの……」

「お姉さん!!生きてる!!うわ~ん!!良かった!!」

「せ…い…置いて…死ぬ…わ…け…無いよ…」

「酷い怪我…しゃべらないで!!」


せいは夢中で華桃かとうかついだ。とにかく人のいる所へ…辺りは暗くなり、足元が見えなくなっても歩き続けた。いつも助けてくれる姉を今度は自分が助けるんだと言う強い気持ちで……すると せいの願いが通じたのか 森の中に明かりが見えた。


「明かりが!!お姉さん!!人がいます!!」

「……………」

「お姉さん!?しっかり!!お姉さん!!??」

「ま…だ…生きてる…よ…」

「お姉さん……うぐっ…」


「おやおや…騒がしいと思ったら 大変ですねん?」


目の前には 羽扇うせんを持った美女が立っていた。


「助けて下さい!!わたしの姉なんです!!」

「こちらへ来るのねん」


美女に導かれるまま 明かりのある方へ進むと古びた草庵そうあんがあった。


「中へ入るのねん」


草庵そうあんの中は外見とは異なり割と綺麗で立派だったが 中には不思議な雰囲気の小さな女の子がいた。


「先生!!死体を連れて来ては迷惑ぞよ!?」

「マァル まだ生きてるのねん多分」

「ほう?」


マァルと呼ばれた不思議な雰囲気の女の子は 飛び跳ねる様に近づいてくると、せいが担いでいる華桃かとうの脈を調べ顔色を物色した。


「あの…」

「ふむふむ まだ生きておるのう 先生?救う気か?」

「お願いします!!姉を助けて下さい!!」

「情けは味方ですねん 此方こちらに寝かせるねん」

「わらわは薬を用意するぞよ 小僧は井戸で水を汲んで湯をかせ」

「え?は…はい!!」


羽扇うせんを持つ美女と不思議な雰囲気の女の子が治療をしてくれたお陰で、華桃かとうは命を取り留め翌朝 目を覚ました。


「お姉さん!!目を覚ました!!うわ~ん!!」

せい…痛っ……ここは…」

「親切な方と出会い 助けていただいたのです!!」


華桃かとうが目覚めたのに気付き 不思議な雰囲気の女の子が近寄ちかよって来た。


「目覚めおったか?先生の薬のお陰とはいえ 強靭きょうじんな体力じゃのう?」

「この子は……」

「わらわは子供では無い!!これでも大人じゃ!!かなりのな!!」


騒ぎを聞き 奥の部屋から羽扇うせんを持った美女が出て来た。


「あららら〜?お目覚めですわねん 良かったですねん」

「この方々が助けてくれたのです」

「それは…うぐっ!!」

「無理をしちゃダメですねん しばらくは安静ですねん」


羽扇うせんを持った美女は そう言うと華桃かとうに薬の様なものを飲ませ眠らせた。


「これで目覚めた時は もっと楽になってるねん」

「改めて姉を救っていただき ありがとうございます!!」

「情けは味方ですねん 持ちつ持たれつですねん」

「小僧 運が良かったのう 先生がたまたまこの地に興味があって足を踏み入れたお陰だぞ」


せいは改めて羽扇うせんを持った美女と、不思議な雰囲気の女の子の前でひざまずき深く拝礼した。


「申し遅れました。わたしはせい、姉は華桃かとうと申します。この御恩は一生忘れません…」

「ウフフフ、きちんと挨拶が出来る良い子ですねん 私は童傾国どうけいこくですねん」

「わらわはマァルじゃ しかし余計な仕事が増えたせいで先生の帰国が遅れるぞよ?あ奴がうるさいのう?」

「情けは味方 華桃かとうさんの容体が安定するまで ここにいるわよん」

「仕方がないのう…小僧 とりあえずめしを作るから手伝え」

「え?料理ですか…」

「その剣で肉や野菜は切れるであろう?」

「はあ…剣で肉や野菜を……」


その頃…リョーブの首都ルーフェイには サナーガの大軍が迫っていたが、守備隊はわずか数百で10万を超える敵軍を前に初めから勝負はついていた。


「父上~!!うわ~ん!!」


ルーフェイの政庁にある玉座の前では リョーブの王 傾国進けいこくしんが横たわり、筆頭大臣の香秦こうしんと まだ4歳の太子 傾国公けいこくこうが寄り添っていた。


「太子…泣いてはなりませぬ…お父上のご無念は姫様と共に晴らすのです…」

「うぐっ…だって…うう…姉上は何処どこ?……」

只今ただいまこちらへ向かっております…」


傾国進けいこくしんは キィドの虐殺とサナーガの大軍がルーフェイに迫ると聞き、重い病身ながら剣を取ろうとしたが大量に吐血をした後 最後に玉座までい「沙馬駄しゃばだめ!!末代まで呪ってやる!!」と言葉をいて亡くなったと言う。


「太子 ここを離れるのです…身を隠し いつの日か……」

「うぐっ…何処どこに行くの?」

「この香秦こうしんにお任せ下さい…太子…これを肌身離さず決して無くさぬ様に……」


大臣の香秦こうしんは 太子 傾国公けいこくこうに黄金の印を手渡し、傾国進けいこくしんしかばねに立派な鎧を着せ玉座に座らせ深く拝礼した……


「大王…太子の事は この香秦こうしんが……姫…お命を大切に…」


香秦こうしんは幼い太子 傾国公けいこくこうを連れ、側近や息子達と共に北の隣国へと亡命した。

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