第14話 新たな道

傭兵集団 華烈団かれつだんは リョーブの姫 傾国廉けいこくれんに認められ国に仕官する事となり、華桃かとうは傭兵達が良く訪れる宿屋「飢えた狼亭」で仲間の門出の為に宴を開いた。


「皆の未来に乾杯!!」

「か…乾杯……」


踊り子風の衣装をまとう美女 華桃かとうは、団員達を見送る為に宴を開いたが、皆 浮かない表情で杯を手にしていた。


「どうしたのよ?皆テンション低いわね?」

「いや…その…華桃姐かとうねえさん…本当に仕官しないのですか?……」


金髪色黒の美女(大人しくしてたら)の紀礼女きれいじょは、寂しそうな顔で華桃かとうの顔を見ていた。


「その話はもう…って!?プククッ!!」

「な…何ですか!?急に笑ったりして!?」

「だって紀礼女きれいじょってば、大人しくしてたら ちゃんと美人なんだもん」

「か…からかわないで下さい!!アタイは!!……」

「ウフフフ、ごめんね~」


紀礼女きれいじょは 顔を真っ赤にしならがら杯を手に取り一気に飲み干し、プハ~ッと息を吐き大男の超風ちょうふうの顔を見て言った。


超風ちょうふう…せっかくねえさんが席を用意してくれたんだから、今日はとことん飲もう?」

「け…けどよ……」


大酒飲みの超風ちょうふうまでしょげ返ってるのを見て、華桃かとうはヤレヤレと言った感じで背中をたたいた。


「皆これから国の為に戦う将軍様になろうってのに情けないわよ!?戦場いくさばで大暴れしてたみたいにシャキッとしなさい!!」


そう言い放つと華桃かとうは 手にした杯の酒を自ら飲み干した。


「さあ飲もう!!料理だってこんなに用意したんだから食べて!!」

「そうだね…コレでサヨナラって訳じゃ無いし……」

「だな…よっしゃー!!飲むぞ!!!!」


そうさけぶと超風ちょうふうはあっという間に盃を空にして盛り上がり始め、目が見えているのか疑問なほど前髪の長い呉鋭ごえいに酒の入った杯を手渡した。


呉鋭ごえい!!テメーもジュースばかり飲んでーねで飲め!!」

(あ~あ…俺ちゃん 下戸げこなんだけどな~)


酒の飲めない呉鋭ごえいはジュースを飲んでいたが、華桃かとうの酒だと言う事で仕方なく飲んだものの即テーブルに突っ伏しダウンした。


「ガハハハ!!情けねー野郎だぜ!!燕姫えんき!!オメーも飲め!!!!」


テーブルで豪華な料理を旨そうに頬張ほおばる全身黒ずくめの衣装で猫耳フードをかぶ燕姫えんきは、酒の入った杯を勧められたが 超風ちょうふうの首筋に短剣を突き付け寡黙に言った。


「未成年…飲めない……」

「お…おい!!…酒の席で物騒な物を突き付けんじゃねー!!!!」

「へへへ、そいじゃあ そいつはアッシが飲みやしょう」


しゃくれあごで垂れ目の関単数かんたんすう超風ちょうふうの手から杯を取り上げると水を飲むかのように飲み干した。


関単数かんたんすう?結構強いのね?」

華桃姐かとうあねさん アッシはコレでも酒には強い方でさあ、若い頃は酒蔵で働いてた事もあるんでさあな」

「お酒を造ってたの?」


関単数かんたんすうは 自慢?の しゃくれあごをさすりながら ドヤ顔で語った。


「そうでさあ 〜もっとも99回 失敗してクビにされちゃいましたがね〜」

「アハハハ……」

「どうやらアッシの場合はこの通り飲み専門でさあ」


そう言うとおもむろに杯に酒をぎ 何事も無いかの様に軽く飲み干したので、紀礼女きれいじょ超風ちょうふうも続いた。


「あ…アタイだって!!」

「俺様だって飲むぞ!!!!」

「改めて皆の未来に乾杯~!!」

「乾杯~!!」


その夜…華烈団かれつだんの団員達は 最後の宴を楽しんだ。これからは立場は違えども、共に命を預け合った傭兵としての絆は失われる事は無い……誰もがそう信じつつ翌朝をむかえた。


「皆いなくなりましたね……」


おかっぱ頭を頭頂部でしばり皮鎧をまとう パッと見は男の子だが女の子であるせいが、華烈団かれつだんの皆がたむろしていた「飢えた狼亭」の一角を眺め 華桃かとうにそっとつぶやいた。


「何?寂しいの?」

「え?いや…別に…その…ちょっとだけ……」


華桃かとうせいの頭を優しく撫でた。


「だよね…命を預け合った仲だし、そう簡単には割り切れないよね……」

「お姉さん……」

「でもさ~コレ見て~」


空っぽの財布をせいに振って見せ、華桃かとうはテヘペロした。


「は?それって…ナニ?…」

「宴を開く為に奮発しちゃってさ、財布の中身がすっからかんなんだよね〜」

「自腹だったんですか!!??」

「だってさ~最後くらい恰好かっこつけたいじゃない?これでも一応 団長だったんだしね~アハハハ~」


華桃かとうは照れ笑いしながら空っぽの財布を振っていたが、突然キリっと真顔になりせいの両肩をつかみ真剣な眼差しで言った。


「あの…お姉さん?どうしたの?」

「さしあたって大事な話があります……」

「え?…さ…さしあたって?」

「無一文なのよ」

「お金無いんですか!?」


華桃かとうは後ろを向くと、振り返り再びテヘペロしながら言った。


「そうなのよ~アハハハ~」

「どうするんですか……」

「う~ん…とりあえず今晩の宿賃は稼がなきゃ野宿だね?」

「野宿!?それって不味まずいですよ!!??」


ここ商業都市キィドでは治安維持の為、浮浪者の取り締まりが厳しく野宿をしようものなら問答無用で憲兵隊に捕まり牢屋に入れられるのだ。


「傭兵家業はしまいだし、これから ど〜しようかな?」

「え?お姉さん もう傭兵はしないの?」

「昨日仲間だった人達と明日は殺し合う世界はもう充分かな?大事なせいを死なせる訳にはいかないしね〜」

「お姉さん まさか…わたしの為に傭兵辞めるの?」

「違うわよ お姉さんだって思う所はあるわ それにね……」

「それに?」


華桃かとうは突然 慈愛?に満ちた表情でせいを見つめた。


「実は…せい…貴女は私の子供なのよ……」

「え!?」

「親が子の事を考えるの当然の事…オヨヨヨヨ〜」


両手で顔をふさぎ わざとらしく泣き出す?華桃かとうを、せいあきれ顔で見つめた。


「わたし生まれた時 お姉さんは まだ7歳ですよ?どうやって産むんですか?」

「アハ〜バレた?さあ!!よ!!姉の胸に飛び込んで来なさい!!」

「嫌です……って言うか…今 って言った??」

「いやいや〜ちゃんとって言ったわよ?可愛いよ?」

「……………」

「あれ?せい?怒った?」


せいには分かっていた。姉が滅茶苦茶なテンションの時は 一人で何かをかかえている時なのだと言う事を……そばにいる事しか出来ない自分がもどかしく泣いたが、そんなせい華桃かとうは優しくきしめた。


「大丈夫…お姉さんがついてるよ……」

「うぐっ……うう…」


その姿を見ていた宿屋の女将おかみさんが 涙を流し近づいて来た。


「アンタ達…何てとおといものを見せてくれるんだい……そんなの見たら何もしてあげない訳にはいかないじゃないか……」

「え?女将おかみさん?」

「そうだろう?アンタ!?」


カウンターの奥で料理の仕込みをしている宿屋の主人も、震えながら涙を流しつつ親指を立てていた。


「知り合いの商家が用心棒を募集しているのさ、紹介状を書いてあげるからダァル商会って所を訪ねてみると良い」

「ダァル商会?……何か聞いた事が…」

「うちの宿にはタダでいても構わないから頑張んな」

「あの…でも…お金が……」

「若い女が しみったれた事を言うんじゃ無い!!そうだろう?アンタ!?」


宿屋の主人は感動したのかあふれる涙をこらえながら親指を立てていた。


「暇な時は宿の給仕でもしてくれりゃ大助かりだ。アンタは とびっきりの美人だからね、アハハハハ〜!!そうだろう?アンタ!?」


宿屋の主人は顔を赤らめ親指を立てたが…女将おかみさんがスリッパで頭をバシッ!!と…はたいた。


「アンタ!!そこはお前の方が美人だと言うだろう!?」

「……………」


華桃かとうせいは早速 宿屋の女将おかみさんの紹介でダァル商会を訪れたが、予想以上に立派な建物だったので二人は驚いた。


「こりゃ…並の商家じゃ無いわね……」

「お待たせしました…旦那様が お会いになりますのでこちらへ……」


二人は店の奥にある応接室のような部屋に通され、しばらくすると恰幅かっぷくの良い立派な服装で善人そうな顔をした中年男性が現れた。


「初めまして 私がダァル商会のダァルです」

「あの…私は華桃かとう、こっちは妹のせいです…こちらで用心棒をお探しと聞き……」

(あれ?この人の雰囲気って…何処どこかで……)


せいはダァルと名乗る商人の雰囲気が、とても親しい誰かにていると感じた。


女将おかみの手紙に事情は書いておりましたよ、団員の未来の為に傭兵団を解散されたとか?…うぐっ……私…年甲斐としがいもなく感動しました…」


ダァルが突然泣き始めたので二人はオロオロしたが、ぐにキリっとした表情になり本題に入った……流石さすがは多くの商談をまとめる商人だけあり切り替えの速さは大したものである。


「実は…このキィドは華やかな見かけながら、決して善人ばかりではございません…無論悪人も多いのですが……」

「つまり悪人退治ですか?」

「このところガラの悪い客が数人やって来ては、他のお客様を威圧したり商品にケチを付けたりして来るのです……」

「そいつらをたたきのめせば良いのですね?お手の物です」

「そう思い以前 用心棒を雇ってたたきのめして貰ったのですが、客に暴力を働いたと難癖なんくせを付けて慰謝料を請求されたり、挙句あげくには従業員にまで嫌がらせをして来る始末…少々手に負えんのです」

たちの悪い小者ですね、わかりました。私達にお任せ下さい」

「お姉さん?私達?ってもしかして…わたしも?」

「当り前よ 女将おかみさんが紹介してくれた仕事なのよ?タダで宿に泊まれないでしょう?ちゃんと働いてお金を返さなきゃ」

「はあ……」


翌日 華桃かとうせいは ガラの悪い男が現れると言う店におもむいたが、ここも想像以上に立派な店舗で圧倒された。


「うわ~…こりゃ大きな店だ…妨害したくなるのもわかるわ…」

「お姉さん?どうしてこんな格好を……恥ずかしいよ…」

「仕方ないでしょう?客をよそおうには、ちゃんとした格好をしないとダメなんだから我慢しなさい」

「でも…お姉さんは似合うから良いけど…わたしは……」


二人は普通にお洒落しゃれな服を着て客をよそおい 店に潜入せんにゅうしようとしていた。せいは可愛い服を着せられて 所謂いわゆる女の子らしい格好だ…


「まあ、女装したくない気持ちはわかるけどね」

「女装?ってか初めから女なんですけど!?」


そうこうしているうちに 店の前をガラの悪い妖しげな風体ふうていの男が数人現れ、店内の様子を物色しながら入って行った。


「きっとあの連中ね?行くわよせい、ちゃんと女の子しなさいよ?」

「だから最初から女の子ですって!!」


店に入った二人は 店内の華やかさと品揃えには驚いたが、早速さっそく店内の客にからむガラの悪い男が目についた。


「何するんですか!?辞めて下さい!!」

「あ~ん!?俺はこの商品が見て〜だけだろうが!?」

「お…お客様…他のお客様にご迷惑が……」

「何だと!?テメー!?客に難癖なんくせつける気か??」


(うわ…ホントに小者ね……)


からまれた客は店を去りガラの悪い男達は、我が者顔で店を物色しては客や商品にケチをつけ回っていた。


「お姉さん?どうするんですか?」

「とにかく 連中がこっちに来たらせいは物珍しげに商品を手に取り、私におねだりしなさい」


そして 店内の客がガラの悪い男達を恐れ少なくなって来た頃、二人のそばに近づいて来たので華桃かとうせいに目で合図をした。


「うわ〜お姉さん わたしこの髪飾りが欲しいよ~買って~」

「あら 貴女にぴったりね?お姉さんが見てあげるわ(って…よりにもよってなんて派手で豪華なのを手に取る!?どう見てもせいの頭には付けられないよ……)」

「おい!!見ろよこのガキ!?男の癖に髪飾りが欲しいんだとよ!!」

「女装までして馬鹿なガキだぜ!!」

「じょ…女装??わたし女です!!」

「ギャハハハ~!!こんな男みてーな女いる訳ねーだろ!!」


ガラの悪い男はせいを馬鹿にして せいの頭に手を乗せた瞬間、華桃かとうはキレて男の手をつかんだ……


「ちょっと!?私のを馬鹿にして触れるのは辞めてくれない!!??」

「何だ?このアマ?…って…痛てててて!!」

「おい!?どうしたんだよ!?」

「て…て…手が!!手が!!砕ける!!??」


男の手は バキボキベキ!!と鈍い音を立て凄まじい悲鳴を上げた。華桃かとうが他のガラの悪い男共をにらみつけると青い顔をして逃げ去った。


「さてと 私の可愛いをからかったお礼がその程度で済むと思ってないわよね?」


華桃かとうは 手を握り潰され指がとんでもない方向を向いて震える男に対して拳をボキボキと鳴らしすごんだ。


「ひ〜っ!!ゆ…許して下さい!!命令されただけなんです!!!!」

「命令?誰に?洗いざらい吐かないなら どうなるかわかるわよね?」

老商会ろうしょうかいの使いと名乗る男だ!!妨害して店の売上を落とせと命じられただけなんだ!!」

「なっ!?老商会ろうしょうかい!?」


店の奥で聞いていた店主のダァルが その名を聞き驚いた。


「ダァル様?知ってるのですか?」

「知ってるも何も…ここ最近入り込んで来た商会で 大層な資金力を持ちまたたく間にキィドでは1・2を争う商家になりました…噂ではサナーガに繋がりがあるとか……」

「サナーガ!?」

「どうやらこの件は複雑な事情もありそうです…姫様の指示をあおいだ方が良さそうですね……」

「え?ダァル様は姫様を!?」

傾国廉けいこくれん様には贔屓ひいきにさせていただいております」

「人のえにしって深いわね…ここで姫様の名が出てくるなんて……」


傾国廉けいこくれんの名が出て来て、手が潰れたガラの悪い男は慌ててさけびながら逃げた。


「き…キィドの英雄姫が御用達だって!?聞いてねーぞ!!こんな奴ら相手に出来るか!!!!」

「お姉さん!?逃げましたよ??」

「これで良いのよせい 今の話が伝わればキィドに住む者なら、悪人でもこの店には手出し出来ないわ」

「そう言うものですか…って…お姉さん!?」

「何?」

「さっきって言ったよね!?」

「聞き間違いよ?最初はって言ったでしょう?」

「嘘つき!!」

「とにかく 黒幕がわかりました。その髪飾りはせいさんに差し上げます」


ダァルはせいが手に取った豪華な髪飾りを進呈しんていしたが、何処どこからどう見てもせいの頭には付けれられそうに無く二人は悩んだ……

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