第109話 第二回作戦会議
旧校舎、ロザリー派作戦本部。
「遅いっ!」
オズが扉を開けた途端、一冊のノートが飛んできた。
オズは首を捻ってそれを躱し、後ろから来たロロの顔にクリーンヒットする。
「あぎゃっ!」
「あっ、ごめんロロ。避けると思って……角、だったね?」
ノートの角が直撃したロロの額が、一点だけだけ赤くなっている。
ロロが不満げに言った。
「カリカリしないでくださいよ、ラナさん」
「そうだぜ。ウィリアス勧誘して、その足で戻ったんだ。遅くはない」
オズが定位置の一番奥のソファに座る。
ロロは額を擦りながら、ラナの対面に座った。
「一人で待ってると時間が経つの遅いんだよ? 留守番させられる身にもなってほしいなあ」
そう口を尖らせていたラナだったが、二人の顔を見て目が輝きだす。
「その顔――成功したのね?」
途端、ロロとオズの顔がほころぶ。
「一時は無理かと思いましたが」
「あれが効いたな、『あなたが必要なの』」
「ええ、ええ!」
「へー、ロザリーがそんな台詞を? なんか意外! そんな口説き文句みたいなこと言うなんて」
「実際、あれで落ちたんだと思いますよ? ウィリアス君、身体を震わせていましたから」
「俺、笑いそうになったぜ? ウィリアス、お前なんで震えてんだよって!」
「私はよーく気持ちがわかります。ウィリアス君はロザリーさんに対して、強烈な敗北感と軽い嫉妬心を持っているんですよ。これらの感情って、ある意味で憧れの裏返しなんです。そんな相手から必要だと言われたら、心が震えて当然だと思います」
オズが耳をほじりながら言葉を返す。
「ふーん。よくわかんね」
ロロは呆れた顔で言った。
「オズ君は敗北感が仕事してなさそうですもんねえ」
「どういう意味だよ、ロロ」
「そのままの意味ですけど」
「まあまあ、二人とも。で、そのロザリーは?」
「表で待ってる。ウィリアスを連れてくるつもりだったんだが、あいつその前に用があるって言ってな」
「そっか。誰かが待ってなきゃ、この部屋入り方わからないもんね」
そうこう話しているうちに、扉の向こうから人の気配がした。
何人かの話し声が聞こえ、それから扉が開く。
「ロザリ~、おっかえり~」
「ただいま、ラナ。いい子にしてた?」
「してたしてた!」
「嘘だぞ、ロザリー。こいつノート投げまくってたからな」
「オズ! 一冊だけじゃん!」
ロザリーは苦笑いを浮かべ、扉を振り返った。
「騒がしくてごめんね。さ、入って」
部屋に入ってきたのはウィリアス――それと男子生徒がもう一人。
二人とも部屋に入るなり、その豪華絢爛な様子に呆然とした。
「あの絵の扉の奥がこんな……嘘だろ……」
「これが
ロザリーはタイミングを見て、口を開いた。
「あー、一応、紹介するね。ラナ――」
ウィリアスは我に返り、ラナに歩み寄った。
「――ラナ=アローズ。ウィリアスだ、よろしく頼む」
そう言って笑顔で手を差し出し、ラナがその手を握る。
「よろしく、ウィリアス」
「こっちも紹介する。俺と一緒にロザリー派に入る、ルークだ」
「ちっすちっす」
ルークは小柄で、はしっこいクラスメイトだ。森に住む小動物を連想させるキャラクターをしている。
ウィリアスの用事とは、ルークを連れてくることだった。
ロロがルークに問う。
「ルーク君も入ってくれるんですか?」
「とーぜん。ウィリアスが入るんならね」
「てっきりウィリアス君を団長にしたいものだとばかり」
「それはそーだけど。ウィリアスがやる気出してくれるなら何でもいいのさ。じゃなきゃつまんねーもん」
「なるほど」
「で。早速だが――」
ウィリアスがロザリー派の面々を見回した。
「――作戦会議をしたい。構わないか?」
六人となったロザリー派メンバーが、ソファに腰かけ顔を突き合わせる。
まずウィリアスが口を開いた。
「俺の役目は人を集めること、特に、赤のクラスから多く引き込むことだと理解してる。それでいいな?」
ロザリーたちが神妙な顔で頷く。
「ならまず、状況を確認したい。うちのクラスはどのくらいジュノー派に取り込まれているのか。ルークも調べていたんだが――オズ、お前も調べたんだよな?」
オズは頷き、前屈みになって話し出した。
「確実なのはギリアムだ。一緒にいたのは、いつもつるんでるバカ三人。だが、今はもっと増えてるかもしれないな」
ウィリアスは頷き、今度はルークに話を振った。
「ルークはどうだ?」
「んー。俺のは確実とは言えないけど、ベルはジュノー派だと思うよー」
ロザリー、ロロ、オズの顔色が曇る。
「ベルが?」「参りましたね」「まじかー」
ラナがロロに尋ねた。
「ベルって?」
「うちのクラスの女子のまとめ役です。人気のないギリアム君と違って大ダメージですよ」
「そうなんだ。じゃあ、そのベルって子に女子――クラスの半分持ってかれるかも?」
「女子丸ごと連れていかれたら、半分では済みません。うちのクラスって女子のほうが多いですから」
「あー、魔
「……それは関係あるのかわかりませんが」
ロザリーがルークに問う。
「確実とは言えないって前置きしてたけど、信憑性はどんな感じ? 噂レベルの話なの?」
「噂といえば噂だけど――ジュノー派に行かないか、って話が女子の中で回ってるんだよね。でも話の出元がはっきりしなくてさ。よくよく調べてみると、同時に複数の女子が話を回してるってわかった」
「なーるほど。その複数の女子がベルの取り巻きなわけね?」
「そそ。彼女って用心深いから自分ではジュノー派の話を一切しないんだけど、逆にベルだけがその話に加わってなくてね。彼女が出元で間違いないと思う」
「そっか。……んー、女子は厳しいかもねぇ」
ロザリーが大きく伸びをしながらそう言うと、ルークもそれに応じて頷いた。
だが、ウィリアスが首を横に振る。
「それはやり方次第だ。頭から女子をあきらめたら、多くを引き込むなんてできはしない」
「やり方、ね――」
ロザリーがソファに背をもたれる。
「――どうやる気なの、ウィリアス?」
「筆記テスト期間に入る前に勝負をかけたい」
ロザリーが眉を寄せる。
「それ、あと一週間しかなくない?」
「一週間もあると考えよう。おそらくここが最大のチャンスだ。……そして最後のチャンスかもしれない」
そしてウィリアスは、前屈みになって五人を見回した。
「時間はジュノーの味方だ。意味はわかるか?」
五人はそれぞれに思案した。
まず口を開いたのはオズ。
「今朝のジュノー派の集会は、揺さぶりだ。勢力を見せつけられたほうは焦る。
ロザリーが続く。
「団結を強める目的もあるんじゃないかな。自分たちは強い! って認識するため。――今朝、何人かに絡まれたんだ。そのときはなんでいまさら? って思ったけど、あいつらがジュノー派なら説明がつく。自分たちの勢力の大きさを目にして、気も大きくなったんだよ。で、その勢いのまま私に絡んだ。これからジュノー派は、自信たっぷりに振る舞うはず。そうなると、ますますあっちに靡く人も多くなるわ」
次にルークが話し出す。
「時間があれば、ベルは女子をガッチリ固めるだろーね。ただ慎重なぶん、まとめるのは遅い。切り崩すなら早いほうがいーね」
ラナが口を開く。
「女子寮の掲示板に『筆記テスト期間中は自室以外の部屋の行き来を禁じる』って張り紙してあった。そうなると動きづらくなるから、ウィリアスは早く勝負をかけたいんじゃない?」
ロロが手を打つ。
「そうでした! 筆記テスト期間は自室に籠る時間が多くなります。チームの決まっていない人はただでさえ焦っているのに、周囲から隔絶されて悶々とすることになるでしょう。こうしていていいのか? 早く多数派に入っておくべきではないのか? と。プレッシャーをかけるには、今朝の集会はこれ以上ないタイミングです。狙ってたんですね、ジュノーさん……」
五人の答えを聞き、ウィリアスは満足げに頷いた。
「この一週間で勝負をかけることに異論はないな?」
五人はそれぞれに頷く。
「でも」
ロザリーがウィリアスに問う。
「具体的に何をするの?」
「とりあえず、俺とルークは勝負の日までここには来ない」
「なぜ?」
「ロザリー派に入ったとバレたくないからさ」
「ん? どういうこと?」
不思議がるロザリーに、オズが囁く。
「決まってんだろ。お前に付くのが恥ずかしいからだよ」
「オズ、黙って」
ウィリアスは苦笑し、それから真っ直ぐにロザリーを見つめた。
「
ロザリーは彼の眼差しを見て、すぐに心を決めた。
「ウィリアス、あなたに任せる」
ウィリアスは笑みを浮かべて頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます