ガチャで未来を創り出せ!
ニ光 美徳
第1話
仲良しというか、去年廃校になった
4月から舞和小学校へ通って4ヶ月弱ほど経って、今は夏休みに入ったところ。
新しい小学校では、元々ある小学校に少人数の子が仲間入りさせてもらったという感じで、まだまだ肩身が狭い。夏休みに入って、少しホッとした気分だ。
今4人が集まっているのは、巣形小学校の元図書室。
廃校になったけど、まだ次の使い道が決まってないこともあり、巣形校下の人たちが、何か活用できたらと、公民館のような感じで使用できるように、市にお願いして開放してもらっている。
大人達は1回いくらかの使用料を払ってるみたいだけど、元在校生の子供たちは入り口に名前を書けば、卒業する年度まで自由に使っていいことになっている。
今も図書はそのまま置いてあって、自由に閲覧してもいい。
夏休みの読書感想文を書くのにうってつけの場所だ。
本当は静かにしなきゃいけない部屋だけど、今日は自分達しかいないので、久しぶりに気の置けない仲間達だけでワイワイと話が盛り上がる。
ちゆり「なんかさ、クラスの人数多いと、息苦しくない?」
ナナ「分かる!前も後ろも近くてさ、イスをガッと引けないし、周りにすごく気を使ってる。」
ゲンキ「まだクラスの人、全員覚えられないよ、オレ。」
秋幸「俺は割とすぐ馴れたよ。元々そんなに自分の可動域を広く取ってないし。」
ゲンキ「カドウイキって何だ?」
秋幸「自分が動く範囲のこと。ゲンキ、そろそろ難しい本とかも読んでいった方がいいよ。」
ゲンキ「えー?小さい字の本てことだろ?めっちゃ苦手。
オレ、頭で勝負しないからいいんだ。サッカーでプロになりたいんだ!」
秋幸「サッカーでプロになる夢はいいけどさ、そんなハードなスポーツは一生できないからな。引退した後のことを考えると、勉強はちゃんとしといた方がいいよ。」
ゲンキ「その後は◯チューバーだろ!それなら勉強いらなくね?」
秋幸「◯チューバーにしたって、発想と独創性と継続する力がいるよ。それから折れないハートもね。本からはいろんなアイデアを貰えるし、知識があれば何にでも活用できる。勉強が分かるようになるまで何度もトライすればハートだって鍛えられるかも。
どんなことだって、勉強が要らないと言えるものは無いんだよ。」
ちゆり「秋幸は何になりたいの?」
秋幸「俺は官僚か研究者か教授ってとこかな。」
ゲンキ「どれも全く分からん。何だそれ?」
ちゆり「すっごい頭のいい人がめっちゃ勉強を頑張っても、就けるか分からない仕事なんでしょ?」
秋幸「そうだね。官僚は国を動かすし、研究者は分からない事を分かるようにする人だし、教授は頭のいい人相手に教える先生だから、めっちゃ努力しないとなれないね。」
ゲンキ「子どもでそんなのになりたいって言うやつ、他にいるのかね?秋幸って違う意味で面白いよな。真面目過ぎて逆に。」
ナナ「面白い?そんな風に思ったことないなー。ただ真面目…ってごめん、いい意味で。」
秋幸「気にしないよ。ちゆりとナナは?将来の夢。」
ちゆり「私はね、パティシエ。お菓子作るの大好きだから、なれたらいいなー。」
ナナ「私ね…、実は…、アイドルになりたいの!」
ゲンキ「アイドル⁉︎こんな田舎で?ハハハ絶対ムリだよ!」
ナナ「何よ!笑うなんて酷い!いいじゃない、夢なんだもの。」
ゲンキ「ごめん、ごめん!だって、せめて東京に住んでるんだったらアリだけど、こんな山の中でどうやってなるんだよ?
やっぱ◯チューバーか?」
ナナ「入り口はそれでもいいんだけど、やっぱり普通の、昔からの、テレビに出て歌って踊るアイドルがいいんだ。バラエティにも出るような。」
秋幸「夢って自分の想いだからさ、誰に何言われても信じて突き進めば、いいんじゃない?なれてる人がいるわけだし、絶対ムリってことは無いよ。
いいと思うよ、アイドル。」
ナナ「ありがとう!頑張るよ!」
ゲンキ「でも皆さ、夢叶えるためにはどうしたらいいかって分かってる?
オレはサッカーのレギュラーになってとか、サッカーずっと続けてればその道に向かうけど、他って想像できないな。」
ちゆり「確かにねー。なんか、そんな本とかあるかな?」
ナナ「ねえ、コレは?『いろんな仕事って、どうやってなる?』って、良さそうじゃない?」
秋幸「すごいね、まんまのタイトルだ。しかもすぐ見つけたんだ。」
ナナ「フッと見たらここにあった。丁度よく。」
ゲンキ「じゃあ見てみようぜ!」
ナナが最初のページをめくる。
すると本から光が伸びてきて、目の前に映像が広がる。
店によく置いてある、ガチャガチャの機械のようだ。
ゲンキ「うっわ何これ⁉︎飛び出す絵本の最新版か?」
ナナ「すごいね、どんな仕掛けなんだろうね?」
秋幸「じゃあ俺が読むね、
『この本は、いろんなお仕事に就くまでの過程を体験できる本です。
なりたい仕事に就くためには、その目標に向かう過程において努力や経験が必要です。選択肢もいろいろあります。そして何より〝運〟も大事。
この本の世界ではいろんなことをガチャで決めます。
ゲームでクリアか、ポイントを貯めてガチャに挑戦。さてどんな未来が待っているかな?』
だって。」
ゲンキ「んー、全然分かんない。」
ちゆり「私も。本なのにゲーム?あ、ルールブックってこと?」
ナナ「本に書いてあるゲームしたら経験値貯まるの?」
秋幸「どうかな?続き読むね、
『ルール:
①参加する場合は、図書貸し出しカードに名前と、貸出図書名の欄に体験したい職業を書いて、本の表紙と最初のページの間に挟む。
②ガチャをして、出て来た指示に従う。
③ゲームクリアかポイントが貯まるとガチャが引ける。
④“敵”として先生が出てきたら逃げよう。
捕まると叱られ、ポイントが減る。
⑤時間になったら家に帰ろう。途中ストップする時は本からカードを抜く。
⑥リタイアする場合も本からカードを抜いて、“終了”と書く。』
だって。」
ゲンキ「先生もいるの?」
秋幸「分かんないけどそうかな?
あと“注意”も書いてある。
『ガチャ次第では、目的の職業を体験できるとは限りません。』
だって。」
ナナ「面白そうじゃない?やろうよ!」
ゲンキは“サッカー選手”
秋幸は“官僚”
ちゆりは“パティシエ”
ナナは“アイドル”
と書いた。
4人はそれぞれ図書貸出カードに名前を書いて本に挟む。
すると、本が開いて勝手にパラパラとページが捲れる。
そして最初と同じ映像が浮かび上がる。
『ようこそ!
それでは“仕事道”の世界へ出発しよう!』
スクロールで文字が表示され、それが終わった後、辺りが光に包まれ、光が消えたらガチャの機械がリアルに出現する。
ガチャの前には4枚のコインが置かれている。
ゲンキ「何でリアル⁉︎どういう仕掛け?」
秋幸「さっぱり分からないけど、最近はこんな技術もできたのかな?」
ちゆり「なんか、本の世界に入ってしまったみたいだね。」
ナナ「まあ、ヤバいと思ったらカードを抜けば大丈夫でしょ。」
4人は順番にコインを入れてガチャを回す。
全員が回し終わったら、皆で同時にカプセルを開けて中の紙を取り出す。
ゲンキ『指示書:体育館へ行って課題をクリアする。
クリアできなければ終了。』
秋幸『指示書:理科室へ行って課題をクリアする。
クリアできなければ終了。』
ちゆり『指示書:調理室へ行って課題をクリアする。
クリアできなければ終了。』
ナナ『指示書:音楽室へ行って課題をクリアする。
クリアできなければ終了。』
ちゆり「えー、1人で行くの?なんか怖い。」
ナナ「私も。ねえ、皆で順番に行ったらダメかな?」
秋幸「別に制限時間とか無いからいいんじゃない?」
ゲンキ「じゃあ、そうしよう!順番に皆で行こう!ここから一番近いのは、理科室か。」
秋幸「じゃあ俺が最初だな。いいよ、行こう!」
4人で揃って理科室に移動して入り口の戸を開ける。
黒板に何か書いてある。
『この部屋に動物が隠れています。捕まえて先生の机の上にある檻に入れてください。動物は5匹です。
制限時間は3分。』
秋幸「動物かぁ。こんな所に?本物かな?」
ゲンキ「一緒に探してみようか?」
秋幸「いや、これは俺への指示だから、自分で探すよ。もう始まってるのかな?」
そう言っていると、壁掛けの時計から音がする。
『プッ、プッ、プッ、ポーン』
ちゆり「これがスタートの合図だよ!」
秋幸は急いで動物を探す。辺りを見回して、最初にオープン式のロッカーの中でじっとしてるウサギを見つける。
秋幸「これ、本物の動物っぽいよ⁉︎何で?こんなとこに本物?」
秋幸は少しパニックになりながら、そっとウサギを両手で持って捕まえ、檻の中に入れる。
秋幸「動かなくて大人しいけどさ、感触は本物。苦手な動物だったらイヤだなー。」
そう言いながら次の動物を探す。
窓辺のカーテンの隙間から見えるところにネコがいる。
秋幸「良かった。ネコ可愛い。」
ネコも捕まえて檻へ入れる。
3匹目は実験道具が入っていた戸棚の中に隠れていたイグアナだ。
秋幸「何この爬虫類⁉︎触って大丈夫なのかな⁉︎」
ゲンキ「それはイグアナだよ!そっと優しく持てば、だ、大丈夫…きっと…、頑張れ!」
秋幸「お、おう!」
秋幸は顔を逸らし、両手を伸ばしてへっぴり腰でイグアナをそっと掴んで運ぶ。
イグアナも動かず大人しくしてくれてるので、なんとか無事に檻に確保した。
4匹目は人体骨格模型の肋骨の裏にモモンガがくっついている。飛ぶ時に広げる膜の部分をどう持てばいいか、持つ時迷ったけど、ちゃんと捕まえられた。
ここまでは全部大人しくて動かなかったけど、最後の動物がハムスターで、床を走って逃げ回るのでなかなか捕まえられない。
他の3人が追い込むのを手伝ってくれたので、なんとか時間内に捕まえることができた。
秋幸「やった!クリアだ!」
その瞬間、動物の入っている檻がボンと軽く煙を立てて消える。煙が消えるとガチャの機械とコインが代わりに現れた。
秋幸はガチャを回す。
出てきたカプセルを開けると『学習塾へ通う、プラス100ポイント』と書いてある。
すると、理科室が一瞬で学習塾の部屋に変わり、見たことない先生が授業をしてる。
先生「おい松多、なにボーッと突っ立ってるんだ?早く座りなさい。」
秋幸「あ、はい、すみません。」
秋幸は素直に空いてる席に座る。
周りをキョロキョロ見回して他の3人を探すけど見当たらない。
先生「はーい、じゃあ授業再開するよー。
国語の読解問題では、まず文の成り立ちを見ます。各段落の最初の言葉、“まず”、“次に”、“しかし”、“だから”。それから、文中の接続詞。で、最後の結び。これだけみても、何となく前の文の、順接の文か逆接の文か、想像つくよね。
それから、“こそあど”の指示詞が何を示しているかが大事だよねーー。」
…なんか、実戦的で面白い。
他の3人のことも気になるけど、ついつい先生の授業に集中してしまい、今自分が何をしていたかすら忘れてしまう。
10分程授業に参加したところでパッと場面が変わり、元の理科室に戻った。
他の3人はハッとした感じの顔で秋幸を見る。
秋幸「あれ?俺、何してたんだっけ?
ああ、ここでガチャしたのか…。」
ゲンキ「秋幸、大丈夫か?なんかさ、一瞬消えてまた現れたからびっくりした。」
秋幸「俺さ、10分程塾に行ってたんだ。国語の授業受けてた。」
ちゆり「消えたのは一瞬だったけど?」
ナナ「なんか不思議だね。どうなってるのか全然分かんないね。」
4人は首をかしげながら、次の音楽室へ移動する。
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