第28話 最後の条件
とうとう約束の日…。
とある森の中にかかる中々ボロボロの吊り橋の対岸に私は予め別ルートで移動して回り込み橋の向こうにいるジークフリート様を遠くに見る。
ジークフリート様の近くには最近護衛になった中年のおっさんがやつれた顔で見守っていた。
心配しなくともこのボロボロの吊り橋はそんなに高くない。もし万が一に足を踏み外しても絶対に死なない高さである。
落ちても足が着く!
怪我をしたら直ぐに運べるよう馬車も担架も医者も薬も密かに準備万端で用意させてある!
私はとりあえず対岸へ手を振り合図を送る!!一応下の川に落ちたらクリア出来ない事としている。落ちたらと言うか足が水に着き濡れたら程度だけど。低いから。
それでもジークフリート様は慎重にボロボロの橋をゆっくり進んだ。
ギシギシと吊り橋が嫌な音を立てる。落ちて川底の石で擦りむいたら大変と私も内心ハラハラする。
ロープも切れそうなくらい老朽化している。ジークフリート様は一歩一歩こちらにやってくる。
これが最後の…条件。橋を渡り切ったら…婚約破棄!
そうしてジークフリート様が何とか真ん中まで来た時…板がぼこりと一枚外れた!!
「わっ!!」
ジークフリート様は何とか端のロープに足をかけて落ちるのを…直ぐそこの水に濡れないよう耐えた!
それからまたゆっくりとこちらにロープを伝い慎重にゆっくりと動き出す。
どうしよう、このままではこちらに着いちゃうわ。
こんなあっさりと。もっと難しい条件にしておけば…。と切なくなる。しかしジークフリート様をこれ以上長いこと困らせるのもなんだか可哀想だし…。
でもこのまま…婚約破棄されるのが…もう気軽にジークフリート様とこうして話せなくなると思うと…
私はもはや覚悟を決めた。
もうすぐ渡り切ってしまう!私は咄嗟に走り出し心を鬼にして橋を揺らし始めた!
「うわあっ!マリアンネ様っ!?」
と揺れる橋に捕まるジークフリート様。ごめんなさい!ジークフリート様!私やっぱり無理よ!婚約破棄なんてしたくないわ!落ちて!!
「ごめんなさい!!ジークフリート様!!どうかこのまま落ちて!」
「わあわあ!やめてください!マリアンネ様ああ!!」
必死でしがみつくジークフリート様に私は揺らし続け、板が何枚か落ちた!
「ひいっ!!」
とジークフリート様はボロボロの切れそうなロープに足をかけるしかなく揺れながらもこちらに来ようとした。
「なんで…そんなに…必死に」
どうしてそんなに渡り切ろうと…!
やはり私の他に好きな令嬢がいるんだわ!きっとそうよ!どこの女よ!ジークフリート様を惑わす魔性の女は!!許さん!!本当に許さん!!
そしてゼェハァしながらとうとうジークフリート様はこちらに何とか辿り着いてしまった!!
「ううう…」
とうめき、
「はあ!足が着く橋とは言え途中で本当に壊れるかと思いましたよ…これでクリアですね!!」
とジークフリート様は嬉しそうに言った。私はムスンとした。
「…約束は約束!これで最後の条件もクリアされましたわ…」
私は悔しそうにシモンに婚約破棄書を持って来させた。
私は名前を書いて渡した。動揺しないようサラサラと丁寧な文字できちんと書いた。内心は…
ああ、終わった…。私の恋も何もかも。これで…ここで全部終わるのね。
ジークフリート様も名前を書き終えた。
「これで婚約破棄は成立しましたね」
とにこりと言い
「そうね、今までありがとうございましたわ…。ジークフリート様。悪魔令嬢の私と婚約だなんてさぞお嫌だったでしょう?今度は素敵な方と幸せになってくださいね……」
私は最後まで泣かないよう唇を噛み締めて我慢した!!
「……マリアンネ様…」
するとジークフリート様は何を思ったかその婚約破棄者を目の前でビリビリと破いて川に捨てた!
え!?
私は驚いた!!
「な、何を……!?」
と言うとジークフリート様は
「ええと…あの…僕…僕と改めて婚約してほしいのです!マリアンネ様!」
と懐をゴソゴソしてなんと新しい婚約契約書を出してきた!!
そこにはジークフリート様の名前がある。
「は!?い、今捨てたあれは!?」
と言うと
「ええとその…何と言いますか…僕…最初は恐れ多いと思っていたのですが…条件をクリアするうちにマリアンネ様のことを意識し出して……僕の心も頭の中もマリアンネ様で埋まってしまいました!」
と言う?え?どういうこと?
「つつつまり…!マリアンネ様のことを愛してしまいました!!」
とジークフリート様は真っ赤になりながらも一生聞くことないだろうと思っていた言葉を聞いて私は再び石になりかけた!
パチパチと言う拍手と共にシモンが
「おお!これで後でしっかりお嬢様に踏んづけてもらえる!!おめでとうございます!」
と祝福された!!
「あっ…マリアンネ様がお嫌なら……僕は…諦めるしかないのですけど…」
と言うジークフリート様に私はとうとう涙腺が崩壊した!!目から滝の様な涙が!
今度はジークフリート様が驚き
「えええええ!?なっ、泣いた!!」
と私が泣くところなんか初めて見たジークフリート様は困惑しそしてハッとして近寄り私をその胸に押し付け抱きしめた!!
きゃあああああ!ジークフリート様の香りが!服越しの薄い胸板が!酔うわ!ジークフリート様酔いする!!
「マリアンネ様ごめんなさい!!まさか泣くなんて思っておらず!!本当に本当にすみません!…僕の話を聞いてください!!」
と言われてシモンが
「お嬢様、ジークフリート様。お話ならあちらに使っていない山小屋がありますのでそちらでお話をごゆっくりどうぞ!」
と指差した。
そして私はその山小屋でこれまでジークフリート様が何故婚約破棄を持ちかけたのかの理由を聞いたのだった。
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