第8話 罪悪感と逆ときめき(ジーク)

 僕はコンスタンティン先生からもらった薬を劇場が暗くなり飲み物が運ばれて劇に夢中になっているマリアンネ様の目を盗みさっと挿れてしまった!


 後はこれを飲ますだけ!

 そう、こんな事早く済ませてキュンとして貰いクリアするんだ!グレゴールの為にも!友情の為にも!頑張れ僕!

 ああ、でも悪い事しようとしてるなぁ、不正だし。でも、先生は不正してもいいって言ったし…。グレゴールもこの事は把握してくれてる。


 いい、一瞬だけだ!

 と僕は意を決してマリアンネ様に飲み物を勧めることにした。


「のの喉渇きませんか??」

 と言う。


「そうですわね」

 と受け取りとりあえず渡した時に手袋越しに指が触れた。


 マリアンネ様が飲み物を飲み干すのを確認した。


「……」

 マリアンネ様は不思議そうに見ている。どこか異常は…薬はどのくらいで効くのかな?経過を待つ。

 するとほんのりとマリアンネ様が赤くなってきた様な…?


「あ、あの…だ、大丈夫ですか??」

 と聞くと


「え?な、な何がですの?」


「あのえっと…」

 と言い淀んだ。


「マリアンネ…様?ご気分は?」

 なんだか罪悪感が凄い。僕はなんてことを!と思っているといきなりマリアンネ様にガシっと手を掴まれた!

 よく見るとマリアンネ様の目はハートになり顔は赤くなり普段の彼女とは別人になっている!?


「んもう!ジークしゃまったら!何か入れましたわねっ!?」


「ひえっ!!」

 だ、誰この人!?もはやマリアンネ様なのか疑わしい!!しかもこんなでも僕のしでかしたことに気付いている!!

 正気に戻ったら殺されるかも!と青ざめた。


「あ、ああああのごめ、なさ!」

 と何とか謝ろうとした。しかし


「ゆーるさーなーい!こんな卑怯な真似してっ!こんな…私をキュンキュンさせて殺そうとなさるなんて!」

 ととうとうマリアンネ様はキュンという言葉を発した!!


「い、今キュンと言いましたね!?や、やった!!第一条件クリア!!」

 と僕は達成感に安堵して喜んだ!しかしそこで


「酷いですわ!不正ですわあ!ひえん…ぐすん!!」

 となんと言うことか僕はマリアンネ様の涙を初めて見た!慌ててハンカチを出し渡す。


「ご、ごめんなさい!!その…ベッケル先生が持っていけと…」

 ととっさに言い訳がましく白状すると


「くうっ!マリアンネ!不覚ですわぁ!」

 と言いフラリとマリアンネ様が僕にもたれかかった!薬のせいかなんか暑そう…。


「マリアンネ様!大丈夫ですか?外の空気吸います?」

 と流石に外へ出ようと促すと


「いやいや…!折角…ジークしゃまと二人きり…なのにぃ…もっといたいぃーー!」

 となんかとてつもなく可愛いことを言われた!!


「えっ!?」


「ジークしゃまのこと好きぃー!好き好き好きですわぁ!」

 とマリアンネ様が僕なんかのことを好きって言った!


「ふえええっ!!?」

 薬の効果ってわかっていてもこんな美人で今は物凄く可愛くなっているマリアンネ様に好きとか連発していたら男なら誰でもおかしくなっちゃうよ!!

 僕は不覚にもグレゴールの事を一瞬忘れて逆にマリアンネ様にキュンとした!!

 僕は薬を飲んで無いけど全身熱くなる。暗くて良かった。


 結局薬の効果が切れるまでマリアンネ様にもたれかかられ劇ではなくずうっと僕の顔を見てくるマリアンネ様が可愛くて仕方ない!僕はおろおろしていた。


 劇が終わる頃ようやく薬の効果が薄れたのかマリアンネ様がバッと離れた。顔を背け怒りで震えている!?どどどうしよう!とんでもないことしちゃった!


「あ、あの…ごめんなさい…ででも先生が不正のことは条件に書かれて無かったって言ってその…でも本当にごめんなさい……」

 と僕は誠心誠意謝る。

 ようやくいつものマリアンネ様に戻った様で


「……そうですね。条件に書いておかなかった私が悪いのですわ!気になさないで!今回はクリアとしますわ!良かったですわね!私と何度もデートする機会は無くなりましたわね!!」

 と言われズキっとした。そう。僕が不正したから悪いんだから当然のことなのに。でももうデートはできないんだなって思うと苦しい…?え?何これ?


「あ、あ…そうですね…ごめんなさい」

 とまた謝った。


「今度からは不正は無しですよ」


「は、はい!!次の条件お待ちしてます!」


「劇も終わったしデートもクリアしましたし…お先に帰っていいですわよ?うちの者も控えていますし、ジークフリート様も護衛の方がお待ちでしょう?」

 と言われた。せめて不正をしたお詫びをしなくてはと思ったので


「あ!あの!失礼ながら!不正をしたお詫びに!お食事でもご馳走を…」

 と勇気を出して誘ってみたが


「結構よ!!そんな気を遣っていただくことはないわ!私が怒りを我慢してる間に消えてくださらないかしら?次の条件はまた考えておきますわ!」

 と後ろを向かれた!めめめめちゃくちゃ怒ってるー!食事とか無理だー!!


「わ、わかりました!!ししし失礼します!!」

 結局逃げる様に僕は去った。


 そして後悔しながらグレゴールの所に行くと彼は心配そうに


「ジーク大丈夫か?なんか早かったな?うまく行った?」


「あ、ああ!クリアしたよ…。その先生の薬凄いね!」

 と言うとグレゴールは嬉しそうに


「そっか!やったな!これで婚約破棄に一歩前進したな!後9つの条件クリアしたら俺は晴れてマリアンネ様に告白するぜ!」

 と意気込んでいてズキーとする!

 痛い!心が!僕は友人の恋を応援する立場だ!こんな事…許されない!


 友情は大切にしないと!!

 今日のことはもう忘れようと決め次の条件を待つことにしたら

 数日後、マリアンネ様の執事さんがやってきた。いつもきっちりした人で紺色髪と琥珀色の瞳で顔も結構いい!

 確かシモン・デ・ペッチさんだ。

 この人とマリアンネ様いつも一緒にいるんだ。となんかモヤモヤしてると


「ジークフリート様!お嬢様から第二の条件を書いたお手紙をお持ちしましたのでご確認ください」

 と手紙を渡されて中身を見るととんでもない事が書かれてた!!


「う、あ、あのこれ!本当に…その…でも!」

 と言うとシモンさんはにこりと笑い


「うちのお嬢様はこの間のデートで大変コンスタンティン先生に恨みを買いまして…だって不正を貴方様に唆したのは彼でございましょう?ベッケル家の者にカウン家が負けるわけにはいきませんしお嬢様の気も晴れないままでございます。


 ジークフリート様も無理矢理お嬢様に薬を飲ませたのですからここは一つ責任を取りきっちりと仕返しとデートのやり直しをしたいとお嬢様は申しております」

 とシモンさんに言われ僕は


「わわわ…わかりました………」

 そう言うしかなかった。

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