第9話 崇めよ
…――人類滅亡、一切、待ったなし。
あたしの告白を聞いて下さいィッ!?
お願い。
人類は、このままいくとなんだよぅ。
ごめん。
いきなり、こんな事を言われても、都市伝説好きの常套句だとしか思えないよね。
いや、そう思われてもいいの。むしろ人類滅亡は冗談であって欲しいくらいだわ。
ごめん。そんな困った顔をしないで。
でもね。
この世界は、もはや人類が生きていく為の機能が失われつつあるの。たとえば酸素。これらは、すでに汚染が極限まで達してる。その酸素を浄化する樹木も壊滅的に数を減らしててさ。知ってるよね。あ、環境の面だけが問題なんじゃないよ。うん。
昨今の拝金主義的な思想面でも人類は自滅の道を歩みつつあってさ。
詳しくは考えたくもないから割愛する。ごめんね。
ただ幸せは豊かさだけでは成りたたないの。仮に、今、君とあたしが付き合ったとして、少なくとも、あたしは幸せ。でも、付き合うのを決心する事自体に、お金はかからないよね。幸せって、そんなもの。でも、みんな、豊かさだけを求めてる。
豊かになるこそが、幸せをもたらすって信じてる。
でも、実際は、……自殺率が、うなぎ登りなんだ。
それには目を向けようとせず、臭いものには蓋で。
そして、戦争と格差。
加えて、監視社会化による歪んだ正義の台頭によって息苦しいくなる日常生活。
その積み重なるストレスが、また自殺率をあげる。
魔王がいて勇者がいる。そして世界征服を狙う魔王。この世が、そんな単純なものだったら、どれだけ救われたか。だって人類を救う為に必要な事は魔王を倒す事だけでいいんだからね。それに比べ、今の、この世界の窮地を回復する為には……、
こなさなければならない課題は多岐に渡りソレらは複雑に絡み合っているのよ。
つまり、
解決する問題は、数多にあり、その上で一つを解決すれば、一つが消えるのではなく、消えた問題の代わりに新たなる問題が生まれるというパラドクスを孕んでいるのが今なわけ。だから、もはや手の打ちようがないとさえも言える。哀しいけど。
だからといって本当にこのままでいいのかとも思うから。だから聞いて欲しくて。
もちろん私個人は無力。私には何の手も打てない。
いや、無力で手を打てないというよりは打たない。
だって、
私は、単なる傍観者。
いや、むしろ傍観者というよりは犠牲者なのかも。一番の犠牲者よ。
だって、
私が作った、この世界。私が作った地球という星。私が作った人類。
それらが、消滅するという事は……、
うん。小説を書く君は小説の世界の神だよね。そんな君にも分かりやすく喩えるならば小説内の登場人物達が具現化して完成した作品のデータ全てを勝手に消すようなもの。もしくはデータが記憶されている媒体を彼らに燃やされるようなもの。
私と同じく世界を創造している君ならば、……きっと共感してもらえると思うわ。
もちろん、私の場合は世界創造とは創作などではなく現実なんだけど。リアルよ。
そうなの。私は神なの。神なんです。
こんな、あたしを愛してくれますか?
愛してくれないなら、こんな世界、消しちゃうぞぅ♡
原稿にGペンを走らせて独り言が出てくる海猫さん。
うふふ。
おらおら、好きになれや、イケメン。
最高で至上なる愛の告白だろうがッ!
てかッ!
称えよ。
敬えッ!
崇めよ。
そうしたら人類は滅亡から救われるのだぁぁッ!!
なんだか、厭らしい顔をし、せせら笑う海猫さん。
「そうだよ。ワシが作った、この世界の神はワシだ」
うふふ。
とヤバげな目つきでヤバげな事を言っております。
無論、いつものように原稿用紙に向かっているのですが、端から見ている小生にも分かるくらいな邪悪な顔つきであります。仮にでですが、今の海猫さんに世界の命運を任せたら一瞬で滅びそうな悪魔的な笑いです。悪、ここに極まりなのです。
というかですね。今、海猫さんが嗤いながら描いている作品は少女漫画なんです。
お目々キラキラ系で、ほんわかな効果を多用しているソレなのです。
しかも、
想い人であるイケメンさんが好きになるハーレム上等な主人公(♀)は、どうやら海猫さん自身がモデルなんでしょうね。だって、いつもより100倍増し増しで感情移入していますから(※飽くまで当社比)。自分をモデルにしているのかと。
というか、今の海猫さんが創造神の世界って……。
一秒と持たず滅びてしまいそうです。
世界観が成り立たずに。いやいや、それ以外にも色んな意味でです。
むしろ、この世界観で少女漫画という時点で滅んだ方がいいですが。
では、お後が、よろしいような、よろしくないような、そんな感じでチャオです。
と誤魔化して、また。
てか、この世界は、まだまだ滅びませんよ。一応、念の為にですが。
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