第6話 悲しむ人もいる、確かに
「あ、おはよう、小生くん」
皆の心配をよそに普通に生き返った海猫さん。
というか、死ぬないで下さい、ちょいちょい気軽に、こっちも大変なんですから。
海猫さんに霊感が在る事は前にも、このエッセイで書きましたよね?
その霊感の類いと言ってもいいのでしょうか、そんなものに幽体離脱があります。
その幽体離脱とは魂と呼ばれる霊魂を肉体的な体から抜き出す事が出来る力です。
そんな能力を持つ海猫さんは、ちょいちょい、お気楽に死ぬのです。ちょっと嫌な事が在ると死んでしまう。そして普通に生き還る。だからこそ第5話での小生のテンションは間違っていなかったわけです。ある意味、迷惑とさえ言えるのですから。
そんな小生が死んでいた海猫さんに、おはよう、と言われしまい、ムッとします。
というか、……死んでいる海猫さんを見て、毎回、今度のはマジか?
と心配になるからですね。
心労半端ないんです、実際。海猫さんは分かっているのでしょうか?
ただ、同時に、いつもの幽体離脱だろうという気持ちもありますから、とりあえずは、あのテンションに落ち着くわけです。もちろん彼氏さんも慣れたもので顔に白い布をかけて枕元で線香を焚きます。そして、チーンとりんを鳴らして……。
そのまま死んでろ、海猫。
今晩の飯は抜きだからな。
阿呆が。
と吐き捨てられるのがデフォとなっています。
まあ、少なからず小生や彼氏さんに心配をかけているわけですから彼氏さんの言い分は、よく分かります。同時に、さっさと帰ってこいっていう意味もあると思うので彼氏さんは彼氏さんで海猫さんを想っているのだと小生は考えていますよ。
そんな海猫さん、一回だけ本当に死にかけた事があります。
いや、むしろ、その時、幽体離脱という力が開眼した節があります。
それは、
漫画の新人賞の締め切りに間に合わせようと原稿に向かい、正味、1週間も寝なかった時です。その間、ご飯も3食全てカロリーメイトをかじるだけで済ませておりまして、みるみる痩せこけて、目の下にもヤバげなクマが出来てしまい……、
端から見ていた小生も、さすがにヤバいんじゃないかと。
ハラハラしていたら……、
8日目の朝、完成した原稿に突っ伏したまま、あの世へGOで、死んでいました。
この時、海猫さんの死は初めてだったわけで、
小生も、いつものアレだな、なんて思う事もありません。
それどころか寝耳に水でした。海猫さんの死。無論、日に日に弱ってゆく海猫さんを、この目で見ていたから余計にです。彼氏さんとて平常心ではいられなかったようで、海猫さんの体を必死で揺すっていました。目の端から涙を零さぬよう。
ウケ狙いで死んでも、おもろないぞ、さっさとドッキリでしたとでも言えや、と。
少女漫画家になる夢、ここで終わりなのかッ?
まだまだやれるだろうが。
アホが。
と……。
当の海猫さんは、それでも真っ白な顔をして静かに眠っていました。
そして、
生まれて初めて小生と彼氏さんは海猫さんの為に泣きはらしました。
大声で。
近所迷惑さえ気にせずに。
ただ、まあ、今、彼女は生きていますから、その時でさえも生還したわけですが。
それでも、あの時の悲しみは半端なく、日常の全てが灰色がかって見えたのです。
普通に海猫さんがいてバカを言い合い、弄って笑い合って、たまには一緒に泣き。
……と、それらの全てが亡くなってしまうと考えてしまってです。本当に寂しくて哀しかったんです。だからこそ言いたいのです。気軽に死ぬな。海猫さんみたいな阿呆だろうと死んでしまえば悲しむ人間もいるんだぞ、と強く言いたいわけです。
残されてしまった方の身になってみろとです。
多分、人が死ぬって、……そういう事なんだと思います。
だから、おはようとか言われると余計に腹が立つのです。
今回は、海猫さんの話なのですが、もし仮に、このエッセイを読んでいる方の隣の方が死んだら同じ気持ちになるのではないかと思います。だから気軽に死ぬとか言うな、と、そう言いたいわけです。そうですね。そう言った思いを込めて……、
てか、生きてて良かったよ、海猫さん、もう死ぬなよッ!
と、力一杯、彼女の後ろ頭を叩いておきます。
スッパーンと胸のすくような音を立ててです。
では、また何かがあれば書かせて頂きますね。
チャオ。
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