第4話 よんはしとも読む
…――ほら、ほら、ホラー。
なんて、鼻歌まじりに言っております、海猫さん。
小生、恐い話とか、もの凄く苦手なのであります。
というか、海猫さんほどホラーが似合わない女の子はおりません。
いや、女の子と海猫さんを表現するとホラーになるくらいホラーが似合いません。
……が、どうやら当の海猫さん、ホラー漫画を描こうと画策しているようです。彼氏さんと夏といえばなんて連想ゲームを始めまして、その果てホラーに行き着いたようです。というか、真剣な顔をしている海猫さんの顔面がホラーなんですがね。
Gペンを右手に持って……、
左手で右裾をまくり上げてから、やっちゃるけんのう、なんて言っておりますよ。
というか、彼氏さん、小生がいるのに気にもせずに、海猫さんに抱きつきました。
きゃー。
目のやり場に困りますぞぅ。
「愛してる。だから漫画止めろ。俺が食わせてやるから……、な?」
「うっさい。芸人になってでしょ? それこそ、あたしの漫画の方が芽があるッス」
なんて、いつも恒例の痴話げんかを始めましたぞ。
「よし。今は追い詰めないでおいてやる。その代わり、そのホラー漫画を全力で仕上げろ。その結果を見て決めようぜ。お前が漫画を止めるか、俺が芸人をやめるか」
うおっ。
恐ろしくも、漫画レベルが低い海猫さんに、それを言いますかッ。
おっかないほどのホラー的展開。うむっ。異論は認めませんぞッ。
兎に角、
そう言って彼氏さん、漫画が完成するまで、どこかで時間を潰すようです。車のキーにつくキーホルダーに在る輪っか部分を右人差し指に指し込んでクルクルとさせて、どこかに出て行きました。残された小生、どうすればいいのでしょうか。
無視されたような形にもなって、少し寂しいです。
「ふふふ。あたしにはとっておきがあるもん。今度こそ、あいつに認めさせてやる」
そそっ。
海猫さん、実は霊感体質でして、ホラー的な経験は、そりゃしょっちゅうなんですよね。まあ、ベタな話ですが、小生と彼氏さん、海猫さんで食事をしている時でも、一つ多くコップが運ばれてくるなんてデフォです。その時の彼女の反応は、
何事もなかったかのように残ったコップに入った水を飲み干して、
不味い、もう一杯ッ! なんてベタベタな行動に出るんですがね。
というか、海猫さんがホラーを描いているのに、あやかって今回の当エッセイはホラーでいこうと決めたのですが、彼女を主人公にエッセイを書くと、ホラーは、もはや、どこにいった? となってしまうのが、小生には超ホラーにも感じます。
ホラーを超えたホラーです。
というか、今、ふっと思ったのでありますが、夏から連想してホラーが浮かぶ時点でベタ過ぎて、それもホラーに感じます。いけませんね。このままでは当初の予定であるホラーが本当にどこかにいってしまいそうです。はい。コメディです、これ。
ちょっとだけ軌道修正です。
ぬうっ。
ぱんっ!
小生、気合いを入れ直す為、両頬を思いっきり両手で叩きました。
軌道を修正する為に、です。
無論、海猫さんの両頬です。
はいっ。
叩かれた海猫さん、ヤバいくらい恐い顔つきで、こちらをギッと睨んでおります。
まあ、小生、海猫さんに睨まれるのは慣れておりますから、むしろ再び両手で彼女の頬を叩きました。小生の気合いを入れ直す為だけにです。そうしたら、さっきとは違う殺気が、ムラムラ、ボンと小生を襲ってきます。はい。こんな時はですね。
さっさと逃げるに限ります。
まあ、これも慣れているんです。海猫さんの殺気などね。フフフ。
一応、もう一回だけ、小生の両手を使って海猫さんの両頬を叩いておきましょう。
ぱんっ。
鬼の形相な海猫さんであります。慣れてます。慣れてます。はい。
その後、
ソクトンバリなのであります。あっ、ソクトンバリの意味は各自で調べて下さい。
小生、昭和生まれではないのですが、昭和のワードは好きでして。
ソクトンバリは、そんな感じな古めかしワードであります。はい。
兎に角、
小生の逃げ足を知る海猫さん、追うの諦めたようです。その上で原稿用紙に恨みをぶつけます。あ、ぶつけるとは小生の想像なのですが、これも慣れですね。海猫さん、小生が逃げたあと、いつも、そうしていますから。簡単に予想できます。
そして。
小一時間もすれば、海猫さんの怒りは、大抵の場合、収まります。
なので、時間を潰してから小生も様子をうかがうべく帰るのです。
今回も、適当にぶらぶらとで時間を潰して戻りました。慣れです。
これも。
相変わらず、ホラー漫画を描くべく(※あ、もちろん少女漫画としてのホラーですよ。念の為)、原稿に向かっています、海猫さん。小生、そろりそろりと、抜き足、差し足で海猫さんの原稿をのぞき見ます。うむ。恐ろしく漫画レベルが低い。
まあ、改めて確認するまでもありませんが、……海猫さんは努力の天才ですから。
残念。このままでは彼氏さんに漫画を止めろと言われるのは目に見えてきました。
はて、さて、どうするのでしょうか。海猫さんは。
およっ?
海猫さん、小生が忍び寄った事、気づいていたようです。原稿の端にお帰りって。
あとで消せるよう鉛筆で描き描きしてくれました。
小生の似顔絵というか全身のカトゥーンも一緒に。
泣かせるじゃありませんか、小生を待っていてくれたわけですね。
あれっ?
でも、ちょっと待って下さいよ。そのカトゥーン、なんだか変じゃありませんか?
足がありませんよ。全身も透けていますし。およ?
と、……バーンと軽い音を立て扉が開きます。彼氏さんが帰ってきたようですよ。
「海猫さん、こんちは。今日も海猫さんを観察させてもらいますよ。小生のエッセイの為にネタを提供して下さいな。よろしくです。……あ、彼氏さん、いないの?」
おへっ?
小生が、もう一人、現れましたぞ。どういう事ッ?
また、海猫さんが原稿の端に鉛筆で描き描きです。
まあ、今回はホラーだからね。これで満足しなッ。
あ、はい。……じゃ、また。
小生、これにて失礼します。
小生って……、そうっだったの。それを鉛筆で漫画に描き足して。
ああ、なるほど。理解しました。それではサラバ。
ドロン。
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