第2話 負けんもん
…――なあ、そんなに頑張っても漫画家にはなれねぇぞ。
うっさい。やってやるもんッ!
海猫さん、彼氏がいるんです。
だから諦めろってッ。それがお前の為だって。
いまだにペンの線が汚ねぇしよ。才能ないって。お前は諦めて普通に生きろって。
うっさい。やってやるもんッ!
ただし、
その彼氏さんとは、いつも、こんな調子です。
あ、武将女なんて書いてしまって勘違いしている方もいるやもしれませんが、海猫さん、それなりに可愛いんですよ。まあ、美少女や美女かと言われれば、ううん? と首をひねるしかありませんが、それでも、それなりにはなんですよ。はい。
だから彼氏がいます。普通に。
その彼氏さん、お笑い芸人の卵で小さな劇場なんかでネタを披露してたりします。
あ、この話を書いている小生は海猫さんの幼なじみで、長い事、一緒にいて……。
もはやそういった感情はありませんので悪しからずです。
兎も角です。芸人の卵である彼氏さん、劇場に出ているので卵というのは、微妙かもしれません。多分、本人に卵云々と言ってしまうと怒り出すかと。それでも、ここでは分かりやすく卵という事にしておきます。で、その彼氏さんなんですが……、
芸人なんて浮世離れした職業を選んでいるわりには超現実主義なワケです。はい。
石橋をも叩いて渡る派と言えば分かりやすいでしょうか。
だから、
自分が目指している芸人というものが、どんなもので、目指すとは、どんな意味を持っているのか、それすらも痛感している節があります。ともすれば普通に生きた方が幸せなんじゃないのかとさえ考えているのかもです。それでも諦めきれない夢。
それこそが彼氏さんにとっての芸人なのかもしれません。
なので、
言うまでもありませんが、お笑いでのポジションはツッコミです。ボケが浮世離れした発言をしたところに現実的な言葉を指し込むツッコミ担当ですね。そんな人ですから海猫さんが少女漫画家を目指している事に難色を示しています。
特に海猫さんの漫画レベルが恐ろしくも低いので余計にといった感じでしょうか。
そんな、でこぼこな二人は、同棲しています。
なので顔を合わせる度に漫画を止めろ、漫画家になりたいと喧嘩になるわけです。
もちろん、彼氏さんも、お笑い芸人の卵ですから大きな事は言えないはずなのですが、ツッコミ気質というのか、ツッコミの適正というべきか、口が上手く、且つ、手厳しく有無を言わせず海猫さんを言いくるめるわけです。更に悪い事にですね。
海猫さんのコミュ力は平凡以下なので余計に、やられ続けるわけです。
そして、やり込められた後は。
「ふんッ。あたしは少女漫画家になる為に生まれてきたの。それ以外、ないしょッ」
と……、半べそで漫画を描き描き、ある意味、現実逃避で現実直視するわけです。
「ワシ、負けんもん。負けんよ」
とGペンを走らせるわけです。
そう言えば……、こんな事も、ありましたね。
海猫さんが彼氏さんにペンで描いた線が汚いと言われた際、意固地になって漫画原稿用紙一杯に掛け網という凄く細かい網の目のような模様をびっしりと描きました。実は、これってペンで線を描く事に慣れる為の一番の近道な練習法なんですよ。
ただし、
普通は原稿用紙一杯になんて描きません。いえ、描けません。普通に。
大体、掛け網を一つ描くのに、線を、20本以上、描かねばなりません。それを何千という、いや、下手をすれば万の単位で描かねば原稿用紙一杯は埋まりません。掛け網、一つで、そこは線が交わって、ほぼ黒くなってしまうくらいですから。
つまり、
原稿用紙一杯に掛け網を描き敷くという事は、
線を引く事だけで、紙を真っ黒にする事にも似た作業となるワケです。
それをB4の紙でやるわけですから途方もない作業量なのです。はい。
それでも、やってのけた、海猫さん。小生も、そこは素直に凄いなって思います。
「ワシ、負けん。自分に負けん。やつにも認めさせてやるもん。絶対に」
まあ、これ以上は蛇足ですね。
とにかく海猫さんは、それだけ真剣に少女漫画家を目指しているワケです。だからこそ思うのです。彼氏さんは、それを分かっているからこそと。そして下手にツッコミなんてやっているからこそと。だって。そうは思いません? 皆さんもねぇ?
普通に漫画に携わってない人が、ペンの線が汚いなんて言えます……?
線が汚いとか綺麗とか、やっぱり漫画を、しっかりと見てないと……。
だから大丈夫って思うんです。
海猫さんと彼氏さん。この二人はね。少なくとも小生はそう思います。
では、また機会があれば、海猫さんについてを書かせてもらいますね。
チャオ。
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