第1章 14 「…………酷いことしたんだよ、私」
……………………。
…………………………。
「そっか、わかった」
溜息交じりに道瑠が言う。
「……と言うのは私の心の底からの超絶個人的な願望です」
「えっ?」
「だから、あるてさんの前に現れないで欲しいと言うのはただの私の願望ってだけです」
「えっと、それはつまり――」
「貴方のハッタリに免じ正直に申し上げましょう。あるてさんから話を聞けませんでした。いいえ、諦めました。私が」
道瑠は灯夜の言うことに、疑問が増幅するばかりだった。
「お話しましょうか。昨日、どうして私が諦めたのか」
帰りのホームルームが終わった後。普段からまず人の出入りが無く、美術部の活動もこの日は無かったため美術準備室であるてと灯夜は話すことにした。
「じゃ、話を聞くよー」
「…………酷いことしたんだよ、私」
「……うん?」
灯夜が思っていたのとは違う切り出し方だったが、一応想定の範囲内ではあった。
「前置きはしてくれて大袈裟だなって思ったんだけど、想像以上にショックなこと言われて……それで感情的になっちゃって、あの人の前髪掴んで、それで『消えろ』って言っちゃったんだ。それでその場から――あっ」
「? どうしたの?」
「……ごめん、ぴよ。また私逃げちゃった。何があっても逃げないでって言われてたのに」
「いやーそれは、何を言われたのかはこれから訊くとして、相当なこと言われたなら当然の反応じゃないかなぁ」
本当は道瑠から聞いて一応詳細は知っている灯夜だが、知らないフリを貫く。
「だから逃げちゃったのは今回は例外。ノーカンだし、私に謝ることでもないよ。で、一体何を言わ――」
「私、あの後我に返ったら罪悪感と申し訳無さでいっぱいになって、それで、それで……」
灯夜が本題を尋ねようとするも、あるての話に遮られる。
その声は間違い無く震えていて――
「この前ぴよが言った『興味無い』って話。それって考えることをやめるってことじゃないかって解釈してて、あの人のことも考えないでおこうって考えもしたんだけど、結局悔やむのも恨むのもあの人のことを考えてるってことじゃない」
その頬は明らかに赤くなっていて――
「今日もぴよがあの人を悪役と例えた時、よくわからない何かが胸に込み上げて来て……」
その目は明らかに――
「ぴよ……っ。私、どうすればいいのか……わかんない。っく……、謝りたい、けど、怖い……」
涙で満ちていた。
「……あるちゃん」
灯夜は部屋の隅からパイプ椅子を持ち運び、あるての後ろに設置した。
「取り敢えず座ろっか。立ってるより落ち着くと思うよ?」
「ん……」
言われるがまま、あるてはパイプ椅子に座る。
「よいしょ!」
そして向かい合う形で灯夜があるての両腿の上に跨って座り、あるてに胸を貸した。それと同時にあるての頭も撫でる。
「よしよーし、いいこいいこー。ごめんね? 私ちっちゃいからこうでもしないと胸貸せなくて」
本当は立った状態で抱き締めたかったが、158cmのあるてに対し、灯夜は144cmと身長的に不可能だった。
「私も悪かったよ。親友と言っても無関係な私がさあ話せとか、ちょっと酷かった」
「……ごめん、ぴよ」
「んー? どしてー?」
「脚が重い……」
「あ、それはごめん……。よいしょっと」
灯夜があるての上から離れる。
「あるちゃんは優し過ぎるよ。何があったのかはもう聞かないけど、ちょっとその道瑠さんって人は印象が悪いな。あ、私にとってね?」
「………………」
「私の主観になるけど、そんな印象悪い人のためにあるちゃん泣くんだもん」
「そんなこと言われても……」
「…………よし、この話は終わりにしよう。色々一方的になっちゃってごめんね? 私も頭冷やしたいし、今日は別々で帰ろっか」
「……わかった」
「うん。それじゃ、また明日。あるちゃんも落ち着いたら出てね?」
そう言うと灯夜が先に、美術準備室を後にした。
(うーん、参ったな……)
昇降口へと向かう道中、灯夜は心の中でこう思った。
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