第1章 06 「は!? 漬物石さんいたぞ!?」

(挿絵)

https://kakuyomu.jp/users/ankm_aaua/news/16817139558808902547



 誰一人としていない寂れた研究所。誰もいないはずの所内で足音が聞こえる。

 狐面を着けた、灰色のボディのマネキン。その頭上には「ひょうご」と書かれた文字が浮かんでいる。ひょうごが電気室の中に入ると、黄色いボディをした、同じ型と思われるマネキンが壊された状態で床に転がっていた。その傍に立ったひょうごは全員を招集した。



 建物のあちこちを動き回っては修繕するマネキンと、それに扮してマネキンを破壊するマネキラーに別れ、議論の攻防により時にマネキラーを炙り出し、時にマネキンを騙すオンライン人狼ゲーム『MANE DE KILLマネデキル』。

 数ある人狼ゲームの中でも人気と知名度は高く、これは数ある中の1つの村――集まりでの話。



 招集が掛かると、生存しているマネキン全員……黄色のマネキンの漬物石以外の9人が通話で繋がる。

 時速150kmキロ、ひょうご、クロエ、パンぬか、アイツ、acchangあっちゃん、料理長、やさしいおじさん、蹴部けるべロスの9人だ。

「は!? 漬物石さんいたぞ!?」

 真っ先に頭にトマホークが刺さり、ボロ布を着た青のマネキンのアイツが驚いた様子で発言する。

「待ってアイツさん、残骸発見したひょうごさんから。何処で発見?」

 そしてそれを頭に自転車のカゴを乗せた金色のマネキン――やや高めの男声の時速150kmが制し、ひょうごに残骸となったマネキンの所在を尋ねる。

「はいはい、電気室で漬物石さんが壊されてましたー」

 それに対し、軽いノリの男声をしたひょうごが答える。

「で、聞きたいんだけど宿直室でカメラ見てたのは?」

「はい、ロスでーす」

 続けて行ったひょうごの質問に、マネキンの頭を乗せて胸元にも頭が付いている、茶色の蹴部ロスが答える。2Dの身体を有した配信者で、その声は低めの女声だ。

「うん、そうだよね。じゃあロスさん。僕が薬品庫から十字路に出たのは見えてるー?」

「見えてますねぇ」

 電気室は所内で一番右の部屋。その前は十字路になっていて、向かいに監視カメラを見れる宿直室、通路の上が薬品庫、下は廊下が続いている。

「じゃあオレンジ、料理長良いですか? 通信障害が起きてすぐの発見なんで直近のキルだと思うんですが、私とパン糠さんは一緒にテラスにいたのでここは無理です」

「パン糠からも料理長さんと白(※)が取れます」(※人狼ゲームに於ける村人サイド。ここではマネキンを指す。逆に狼サイドのマネキラーは黒と称される)

 コック帽に白スーツのオレンジ色の料理長と、ラーメン丼ぶりを被った藤色のパン糠が互いに今回の事件への不関与を明言する。

 そして通信障害とはマネキラーが起こすことの出来る3つの妨害の内の1つで、全員のいる位置のわかる所在確認と監視カメラを見れなくするものだ。一番左のサーバールームで直すことが出来る。

「わかった。アイツさん。最初に漬物石さん電気室にいたって言ってたけど詳しく良い?」

 時速150kmがアイツに最初の発言の詳細を促す。

「まず電気室には俺とおじさん、そして漬物石さんがいて、2人を残して薬品庫に向かいました。その時に十字路の上側でひょうごさんと擦れ違ってます。後のことは知らないので、ひょうごさんのセルフ通報かおじさんのどっちかだと思います」

「まあ疑い位置ですよね。しかし拙僧、その後に漬物石さんを残して十字路の下に抜けてひょうごさんとも擦れ違いました」

 アイツが答えた後、追ってやさしいおじさんが発言する。

「んー? 僕はおじさんとは視認が無いんだけどなー」

 しかし、ひょうごはやさしいおじさんとの視認のみを否定して続ける。

「そうなると僕はアイツさんとおじさんのライン(※)を疑っちゃうね」(※マネキラー同士の繋がり)

「それはおかしい。拙僧、ちゃんと擦れ違いましたよ?」

 ひょうごに反論するやさしいおじさん。しかしひょうごは変わらぬ調子で返す。

「まー僕が壊して即通報って線もわかるけど。僕はカメラでロスさんに見られてるから白と見てもらいたいし、念のため電気室に入ったら漬物石さんの残骸だけが転がっていたから、どっちかが壊した後、おじさんはアイツさんに罪をなするために下の通気孔から逃げたんじゃないかな?」

「実は所在確認してたんだけどさ、ひょうごさんの言ってること正しいんよ。電気室の人数が3、2、1と減って、薬品庫が入れ違いで1だったし。やっぱりおじさんが通気孔で逃げたと思う」

 ひょうごの発言に時速150kmが補足する。

「なるほど。情報の後出しが怪しいし、これ時速さんとひょうごさんのラインか。拙僧を吊っても良いけどひょうごさんも吊って欲しい」

 疑われ続けているやさしいおじさんが追放を受け入れ、投票結果も一番多く票が集まり追放されてダストシュートに放り込まれてしまった。


 間もなくしてひょうごが緊急招集を行った。時速150kmと蹴部ロスによるひょうごの白出しもあり、ひょうごではなくアイツがローラー(※)されることとなった。(※特定の範囲の人を順番に追放していくこと)

 これでマネキラーは全滅、終わり……と思ったが、ゲームはまだ続行された。

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