プロローグ 04 「でも、悪くない。ありがと」

「それじゃ、ご馳走様でした」

 ちゃっかり道瑠に奢ってもらったあるては、喫茶店を出てすぐに礼を言う。外は既に陽が沈みかけ、迫る夕闇が冷たい風を連れてくる。

「さっむ」

「大丈夫?」

「仕方ないよ。冬は寒いものだから」

 ……会話が止まる。

「それじゃあ――」

「帰りますか」

「だね。今度は僕が言おうとしてたの取られちゃった。あ、その前に……」

「――っ!?」

 道瑠はあの大きなバッグからマフラーを取り出し、あるての首に巻いた。そのために近付いた距離にあるては一瞬ドキッとした。

「ごめんね、これで多少は寒さ凌げないかなって。大きなお世話だったらごめんね?」

「そんなこと無い、けど、ちょっとびっくり……ってか、返すためにまた会うための口実でしょ? 魂胆見え見えだよ」

「あ、ははは……」

「でも、悪くない。ありがと」

 あるては自分の口元が緩んでいることに気付き、巻かれたマフラーを整えながら口元を道瑠に見られまいと隠した。

「えーと、その、連絡先も交換したし、また連絡するから。それじゃ、僕はこっちだから。気を付けてね?」

「そっちも。それじゃ……また」

 道瑠が去って行くのを数秒見送った後、あるても踵を返す。

(帰ろう)

 歩き出す前に、更に暗くなった空を仰いだ。

「…………あったか」

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