第二部 狩人エット
1 森の防人
私の名はエット。森人 (エルフ)だ。生まれた時から今日まで70年、このアグアイヨの森で暮らしている。私の一族は代々この森を守り続けてきた。だから私もそれに倣い、森とともに生きている。それしか生き方を知らぬ故、この森で最後のエルフとなってしまった以上、私はこの森と運命を共にする他ないのだ。
「ムー!」
人語ならざる鳴き声を発しながら飛んできたのは、我が友。木精霊 (ドリアード)のトポだ。彼らの言語は、森の加護を持つ種族にしか解らない。
「どうしたのだ、トポよ?」
普段大人しいトポが、いつにない剣幕で私の元を訪れるそれは森を脅かす何かがあった時だ。
「ムー!ムムー!!」
「何!?森とニューリンゲン国の境で戦をしている者たちがいるだと!?」
私は愛用の弓矢を携えると、急いでそこへ向かう。旅人がこの森を通るのは勝手だ。無事に通り抜けようが、モンスターに襲われ餌食になろうが、それを返り討とうが、それもまたその者の運命。だが、徒に森を荒らす事は罷りならん。ならず者を排除するのは森の防人たるこの私の役目なのだ。
トポの案内の元、我々はそこへ辿り着いた。まず目に飛び込んで来たのは剣戟による戦闘を繰り広げる二人の男。方や白銀の鎧を纏った長身黒髪の男。 少し反った片刃の長剣を把持している。もう一人は茶髪の小柄な男。どちらも
「我は魔剣ヌル・アハト!!」
「違うな。貴様はただの盗賊!ウノ・サルビンだ!!」
男達が言葉を交わした後、己が持つ剣の刃をぶつけ合う。ウノと呼ばれた小男が大剣を大きく回転させるように水平に振ると、斬撃で周囲の木々がたちまち切り倒された。
「ムムムー!!」
仲間である木々を
「トポ、あの者たちは確かに看過できん。 この森から排除する。手伝ってくれ!」
「ムーッ!」
私の呼び掛けに応えたトポは、近くにある大木に自らの手を添える。すると大木の根が地中から盛り上がり、私達の体を枝の上へと押し上げる。 木村であるトポは植物に語り掛け、操る事が出来るのだ。
「よし、位置取りは充分」
高所の枝に陣取った私は弓を構えると、矢を番えた。
「森を荒らす不届き者め、抜きを受けよ!!」
私が引いた手を離すと、銀の鏃を備えた矢が放たれる。
「うがっ!?」
背後から心臓を貫かれた小男は、把持していた大剣を手から落とすと、前のめりに倒れた。
「次!!」
もう一人の男にも矢を放つ。 こちらはプレートアーマーを着込 んでいる為、 鎧に守られていない前腕部を狙う。 標的も小さく、致 命傷にはならない為、鏃はポイズンニュートの毒を塗ったものを用いる。
「!!?」
毒矢を受けたもう一人の男もその場に倒れる。 私たちは彼らが動かなくなった事を確認し、倒れた男達に近づいてゆく。
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