8 愛にすべてを
一夜明け、鳥のさえずりで目を覚ました俺は辺りを見回す。場所は天幕の中。財布も、ヌル・アハトも含め持ち物は全てそこにある。が、何も身に着けてはいない。 俺も、すぐ傍で寝ているドスもだ。
危険を伴う野営で熟睡してしまうとは、冒険者として迂闊だった。ただでさえ疲れていた上に、更に疲れる様な事をしてしまったのだ。寝込みをモンスターに襲われたり、万が一つにも騎士団や懸賞金目当ての冒険者に見付かれば終わりじゃないか。
「もしかして、お前が守ってくれたのか……?なんてな」
俺は赤い刀身を微かに光らせるヌル・アハトの柄をそっと撫でる。
「ドス、起きろ。もう外は明るいぞ」
剣の柄を撫でたその手で、寝息を立てているドスの右肩を叩く。
「あれぇ?ウノさんも私も何で裸……?あー、そういえば昨晩、えっちしてそのまま寝ちゃったんでしたね」
一糸纏わぬ白い肌を隠すことなく、笑いながら言う。見た目は綺麗なエルフなのに、言動に恥じらいが全く無い。そんな仕草を見る度に、彼女の実年齢が俺の倍ある事を実感させられた。
「いいから服を着ろって!」
俺はドスに背を向け、自分の服を着始める……
「何ぁに恥ずかしがってるんですか~?というかウノさん、自分からは殆ど攻めて来なかったし、あんまり経験無いんでしょ?入れてる間は殆ど私が上だったs」
そして、ドスの服を彼女の顔に投げて寄越した。
野営の片付けを済まし、再び森の中をニューリンゲン目指して歩き出した。背中に負った赤い大剣は重くて邪魔臭いが、こいつがあれば何にでも勝てる気がする。お前を売るのは止めだ。俺はドスと、このヌル・アハトとともに最後まで生き抜いてやる。そう意気込んで森を抜け出たその時だった……
「罪人ウノ・サルビン及び共犯者ドロシー・ルース!投降せよ!!」
銀色の鎧を纏った騎士が10人、団長のレイ・ブランカを筆頭に、開けた原っぱに待ち受けていた。
「なぜここに?…って顔をしてるね、坊や」
俺の心を見透かしたかのように、一人の騎士が言う。 騎士達の中では一番小柄で、フルフェイスの兜で頭部を、体を全身鎧で覆っているが、その矮躯と高い声から察するに女であろう事は間違いない。
「シェンテ、兜を取ってもいいぞ」
レイが言うと、全身鎧の女は兜を脱いだ。銀色のショートヘア、浅黒い肌、そしてドスと同じく長い耳、整った顔の鋭い眼差しは俺たちを睨む。
「ダークエルフ!?」
驚いたのはドスだった。そういえば、エルフからシティエルフが分かれるよりも遙か前に、文明社会に触れたエルフ達がいたとは聞いた事があった。それがこのダークエルフという種族なのだろう。好戦的な彼らが、太古の昔に只人や亜人達の戦争に参加し、武功を上げ貴族になっていたとしても何らおかしくはないだろう。
「『森人の加護』を持っているのが、お前達だけだと思ったら大間違いだよ。森の中を探すより、一つしか無い出口へ先行し待ち構えていた方が確実だった……それだけの事さ!」
ダークエルフの女騎士・シェンテはそう言うと、再び兜を被り直した。
「逃げ場は無いぞ、ウノ。貴様の処刑は免れんが、女は投降すれば命は保証しよう。それなりの刑罰は科せられるがな!」
レイは再度、俺たちに警告する。
「捕まる気はありません!私は最後まで、ウノさんと一緒です!!」
ドスは杖を構える。いつでも術を放てるという意思の表れだ。
「そうか。ならば話し合いは終わりだ。……シンコ、やれ!!」
レイが命じると、
ドン!という音が響いた刹那、火薬と硝煙の匂いが鼻腔を突き、そして、俺の傍で杖を構えていたドスが真後ろへと倒れた。シンコと呼ばれたトカゲの騎士が持っていたのは、狙撃銃だった。
「おい!ドス!」
すぐさま俺は、ドスの傍らに駆け寄り上半身を抱きかかえる。彼女の撃たれた胸からは、おびただしい量の血が溢れ出し、着ている服と、白い肌を赤く染めてゆく。
「ウノ…さん……」
「しゃべらなくていい!死なないでくれ!ドロシー!」
そう願うも、心臓を撃ち抜かれて助かるわけがないという現実が、絶望となり、俺の心を黒く塗りつぶすように蝕んでゆく。
「アハト……私の命をあげるから……ウノさんを守って……」
ドスは胸元から溢れ出る血を右手でぬぐうと、それを俺の背中にあるヌル・アハトの刀身に塗り付けた。そして、俺の腕の中で息絶えた。俺の愛した、俺を愛してくれた女は死んだ。俺より何倍も生きる種族なのに、こんなにあっさりと……
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