ドラゴン・スレイヤー・スレイヤー
西玉
第1話 ダンジョンという名の異世界
俺は、ある異世界で魔王城に侵入した。
捉えられ、食べられる寸前の仲間を救出し、魔王城の際奥、玉座の間を見下ろす屋根裏の梁の上にいた。
魔法の石版を取り出す。
この世界に来るためにも、魔法を使用するにも、アイテムを収納するのにも使用する、スマートホンの形をしている万能の道具だ。どうやら、俺の魂の結晶らしい。
俺は画面をスライドさせ、目的の地図を表示させる。
「どうです?」
俺のしていることを察したのか、助けたばかリの俺の仲間、オークのウーが覗き込んできた。
ウーはオークの仲間でも、ピンクオークと呼ばれる種族で、見た目は二足歩行の家畜の豚である。毛も薄く、全身が血管の浮いたピンク色に見えるため、ピンクオークと呼ばれるのだ。
さまざまな魔物に大人気のため、絶滅の危機に瀕している。大人気なのは、とにかく美味そうだからだ。
「間違いないな。あの魔王がオーブだ」
俺は、別の異世界からいくつもの異世界を出入りしてきた。その異世界からは、他の異世界はダンジョンと呼ばれ、他の異世界にあるオーブと呼ばれる丸い玉を破壊しなければ、元の異世界に戻ることはできない。
これまで、ゾンビで溢れる異世界や、科学技術が発達した異世界もあった。俺はさまざまな異世界に行った結果、剣と魔法の世界では入手不可能なはずのアイテムを手にしていた。
「やった。それじゃ、あの魔王を倒すだけですね」
ウーは、元の世界の支配者であるドラゴン族に作られた魔物だ。
忠誠心が厚く、ドラゴン族に命じられたとおりに、オーブを破壊することを喜びとしている。俺がいた異世界から、ダンジョンという名の他の異世界に入ると、その異世界には必ずオーブと呼ばれる丸い玉があり、そのオーブを壊さない限り、元に異世界には戻れない。
魔法の石版を作ったのもドラゴン族であり、ドラゴン族はオーブを壊したいらしい。俺のような人間を助けるために、現代から来た人間には魔法の石版を与え、助けるためにウーのような魔物を放っている。
「で……どうやって魔王を倒すんだ?」
俺は、屋根裏の高い位置から魔王を見下ろしている。
玉座に座る魔王はとても小さく見えるが、おそらく身長は3メートルにおよび、長い角を生やし、全身を厳しい鎧で覆っている。
「そ、それは……ソウジが得意じゃないですか」
ウーは俺に丸投げした。
「俺が得意なはずがないだろう。でも、魔王だからって、いつもあんな風に武装しているはずがない。警戒するだけの理由があるんだ。ウー、捕まっている間に、侵入者の噂を聞かなかったか?」
「ええ。聞きましたけど……侵入者って、ソウジのことじゃなかったんですか?」
「いや。侵入者は別にいる。俺も、魔王城の入り口まで、そいつと一緒だった。俺が暴れても問題ないと思って、ウーの救出に集中できたのは、あいつがいたからだ」
「……誰です?」
「来たみたいだぜ」
俺が言うと、玉座の間の扉が開いた。
「貴様が勇者か」
玉座の魔王が、立ち上がりもせずに問いただす。
扉を勢いよく蹴り開けたのは、きらびやかな鎧で全身を覆った、勇者と呼ばれる人間だった。
※
俺が見下ろしている玉座の間で、魔王と勇者が戦いを始めていた。
互いに目立つ魔法を使い、武器を振り回す派手な戦いだ。
「行け。魔王、頑張れ」
俺の隣で、オークのウーが拳を振り上げる。応援をしているだけで、意味はない。ウーの声が魔王に聞こえているはずもないので、全く意味はない。
俺はいくつもの異世界でオーブを破壊して来たが、それは拠点としている世界があり、ダンジョンという名の異世界にあるオーブを破壊することで、俺がいた世界の支配者だった者が復活すると言われているからである。
復活する世界の支配者を敵視している人間たちがおり、その人間たちは俺のことも目の敵にしている。
俺を支援しているドラゴン族の者たちは、その人間たちを勇者と呼んでいるため、ウーは勇者が嫌いなのだ。
「ウー、オーブを壊すには、魔王が死なないといけないぞ」
「でも、勇者に勝って欲しくありません」
「魔王が勝ったら、俺があの魔王を殺さなくちゃいけないじゃないか」
「ソウジなら、できますとも」
「魔王を応援する割に、俺が殺すのはいいのか?」
「この世界の魔王に義理はありませんから」
「この世界の勇者にも、恨みはないだろう」
「気分の問題です」
「そういうものか」
言っているうちに、勇者の一撃が魔王によって弾かれ、勇者の剣が飛んだ。
「ああ……あの勇者じゃ勝てないな」
「頑張れ魔王」
「ウー、わかったから、少し黙ってくれ」
俺は、魔法の石版と呼んでいるスマホ型の道具を取り出した。画面をスライドさせ、ゾンビが溢れる異世界で拾って持ち帰った、ライフル銃を取り出した。
「オーブの位置がわかるんですか?」
「ああ。どうやら、あの王冠がそうらしい」
戦っている魔王の被っている王冠の上に、丸い玉が飾られている。
魔法の石版でオーブの位置を確認すると、王冠の動きに合わせて揺れているし、肉眼で見ても丸い玉が飾られているのがわかる。
「狙えるんですか?」
「止まってくれればな」
ライフルの照準を合わせた。
武器を拾いに行こうとする勇者を、背後から魔王の魔法が襲う。
勇者が倒れ、魔王が高笑いをあげる。
「今です」
「わかっている」
俺はライフル銃の引き金を引いた。
狙い違わず、魔王の被っている王冠に飾られたオーブを撃ち抜く。
オーブが砕け散り、俺とオークのウーは、白い光に包まれた。
※
オーブを破壊し、元の世界に帰ってくる。現代ということではない。俺は、オークやドラゴンが実在する異世界に転移し、そこからさらに別の異世界に行って、オーブを破壊する作業を繰り返しているのだ。
俺とウーは、川べりの洞穴にいた。
この世界から見ての他の異世界は、ダンジョンと呼ばれる。
ダンジョンと呼ばれるほかの異世界には、必ずオーブが存在し、オーブを破壊しなければ戻ってくることはできない。他の異世界で手に入れた物は、魔法の石版に収納することで持ち帰ることができる。
川べりの洞窟の奥が、ダンジョンの入り口だったのだ。
「やりましたね。これでまた、オーブを破壊しました。ソウジは優秀な魔法士ですね」
ウーが喜んでいる。
この世界には、元々人間はいなかった。この世界にいる人間は、全て現代から連れられてきた異世界人かその子孫だ。
異世界人は、転移するとスマホにそっくりな魔法の石版を与えられる。その石版を持つ者は、この世界の魔法を使用できるため、魔法士と呼ばれるのだ。
だが、魔法士になっただけではダンジョンには挑めない。ドラゴン族に認められ、石版のバージョンアップをしてもらう必要がある。
だが、ドラゴン族は見た目が敵そのものなので、実際にバージョンアップして、ダンジョンに挑んでいる魔法士は俺だけらしい。
ほかの魔法士がどうしているかというと、魔法の石版に込められた魔法の力を取引で一人の魔法士に集め、ドラゴン族に対抗しようとしているらしい。
そういった魔法士はドラゴン族から敵視され、勇者と呼ばれるのだ。
「結局、魔王城には金はなかったな。財宝はあったけど……金貨じゃないんだ……」
俺は、魔王城で見つけたマジックアイテムを石版に収納してきた。
俺がダンジョンに挑むのは、この世界でできた恋人をドラゴン族から買い戻すためだ。
ドラゴン族からは、金貨500枚集めろと言われているが、この世界にはそもそも金貨が流通していないのだ。
異世界に行って金貨を集めるしかなく、俺にダンジョンに行かせるために、ドラゴンは俺に金貨を使っての取引を持ちかけたのだと、今ではわかる。
「まあ……次がありますよ。全部のオーブを壊せば、きっとドラゴン様もソウジのことを認めてくれます」
「全部って……オーブがいくつあると思っているんだ……」
俺はぼやきながら洞窟の中を歩く。
外に出る光が見えてきた。
「また、次の洞窟に連れていってくれるドラゴンがいるかな」
「もしいなかったら、警戒してください。きっと、ダンジョンを攻略するのをやめさせようとする人間たちがいるでしょう」
「そうかもな」
今までの経験で、ダンジョンを攻略した後に待っているのは、次のダンジョンまで案内するドラゴンか、俺の邪魔をする人間たちだと相場が決まっていた。
俺は、魔法の石版を手に、慎重に洞窟を出た。
外には、ドラゴンはいなかった。
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