第1話 恋の成就屋
「恋の匂いはどこから来てるかな~?」
俺は純白の羽根を羽ばたかせながら匂いを辿っていく。すると、一人の男子高校生の元にたどり着いた。見た目は長身でなかなかのイケメンだ。
「おっ、アイツだな。さて、ちょっと様子を見てみるか」
成就屋の仕事は偵察から始まる。恋の相手、二人関係性などをまずは調べるのだ。
「おぉ、あの子が今回のお相手か! へ〜、可愛いじゃん!」
男子高校生が見つめる先には、同じデザインの制服を着た女子高校生が立っていた。
彼女は男子高校生の視線に気がつくと、花が咲いたような笑顔を見せ、手を振りながらこちらへと走って来た。
「ハヤト~! 一緒に帰ろ~!」
「おぉ、ユウナ!」
二人は肩を並べ歩き始めた。笑い合い、仲睦まじい様子はまるで恋人のようだ。
「かなり仲がいいな。俺の出番必要か? でもまぁ、もう少しだけ様子を見とくか」
『ハヤト』と呼ばれた男子高校生は彼女を家まで送り届けると、自分の家に向かって歩き始めた。その距離なんと数十歩……。
「なんだよ! 家、隣同士かよ!」
ふと視線に気づきそちらを見ると、『ユウナ』と呼ばれた彼女がハヤトを熱っぽい表情で見つめている。そして彼女からもハヤトと同じ恋の匂いがした。
「こりゃ楽勝だな。よしっ、ちゃっちゃとくっつけてマシュマロをいただくとするか!」
俺はハヤトの部屋のベランダに降り立った。
「おいっ、お前」
「えっ!? あ、あなた誰ですか!?」
「俺か? 俺はサン。天使で恋の成就屋だ」
「こ、恋の成就屋? なんですかそれ?」
「人の恋を叶える仕事だ。お前、あの『ユウナ』って子に惚れてるんだろ? だからその恋叶えてやるよ」
「はっ!? 余計な事しないでください!」
「なんでだよ!?」
「だって俺たち幼馴染ですから!」
「は? それが何だって言うんだよ?」
「もし別れたりしたら気まずくなるじゃないですか? そんなの嫌だ。だからこのままでいいんです……」
「そんな終わる前提で考えてどうするんだよ! お前のことは俺が守ってやるから安心して告白しろって!」
「もうほっといてください! あんましつこいと警察呼びますよ!?」
ハヤトはそう言うと、俺の鼻先で窓をピシャリと閉めてしまった。
「て、天使の俺を閉め出しただと!? ぐぬぬ……、許さん!」
せっかく両想いなのに、なんて頑固なヤツなんだ!
ふんっ、もういい! 勝手にすればいいさ。俺だって忙しいんだ。
仕事を断られたのはこれが初めてかもしれない。怒った俺は、鼻息荒くハヤトの家から飛び立った。
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