恋の成就屋と恋の破滅屋

元 蜜

プロローグ

 はじめまして、サンです。天使です。

 あっ! 同じ『天使』でも、よく古典絵画に描かれるあのお腹がプクっと出た幼児体型のアレじゃないですよ? 一応『恋の成就屋』を名乗らせてもらってるんで、それなりに恋のスキルを揃えた高身長銀髪さわやか系イケメンです。ちなみに背中には純白の羽根が生えてます。


 『恋の成就屋』っていうのは、片想いしてる人のアシストをするのが仕事。そんでもって、俺は仲間の中でもやり手な方なので、バンバン人の恋路を叶えて報酬をもらいまくってます。


 報酬は何かって? 

 報酬イコール俺たちの食料でもあるんだけど、一つの恋が叶うと、その恋の叶い具合によって色んな味のハート型のマシュマロが出てくるんだ。俺たちは成功報酬としてそれをもらって生活してるってわけ。なかなか素敵な仕事だろ?

 でもさ、『恋は甘くてキラキラ輝く素敵なもの』ってよく言われるけど、それは恋をしている当事者たちの感情の問題であって、俺たちはそうは思わない。俺たちにとって恋とは戦いなんだ。


 え? 何と戦ってるのかって?

 それは—―


「あっ! サンく~ん! こんな所にいたんだ~?」


 ほら、噂をしたら来たぞ! 俺の商売敵、恋の破滅屋だ。


「サンくん、何一人で語っちゃってんの? ウケるんだけど~」


 この金髪ツインテールの女の名前はムーン。悪魔だ。笑うと尖った八重歯がちらりと見える小悪魔系美少女。コイツは俺と真逆で、叶った恋を壊す『恋の破滅屋』という仕事をしている。


「おいっ、ムーン! お前、また俺がくっつけた恋を壊しただろ!」

「だって彼女さんから別れの匂いがしてたんだもん! ちゃんと見守ってなかったサンくんが悪いんだよ?」

「おいおい、マジかよ……。だってまだ付き合い始めて3か月だぜ?」

「仕方がないよ~。最初の倦怠期を乗り越えられなかったんだから」

「クッソー……」

「はいっ、じゃあお約束のマシュマロこちらに寄越してくださーい!」


 恋の成就屋は、自分が結んだ恋を破滅屋に壊された場合、獲得したマシュマロを一つ破滅屋に譲らないといけない決まりになっている。


 ムーンは俺から受け取ったピンク色のマシュマロを口いっぱいに頬張りながら、俺に話しかけてきた。


「それよりもサンくん、あの噂話聞いた?」

「噂話って?」

「最近さ、破滅屋でもなく成就屋でもない仕事をしているヤツがいるって」

「何だそれ?」

「う~ん、詳しくは忘れちゃった! ……あっ、ケンカ別れの匂いがする! 私、行かなきゃ! じゃ~ね~!」


 成就屋でも破滅屋でもない仕事って一体なんだ……? まっ、俺にはきっと関係のないことだな。

 おっと、恋の匂いがしてきた! 俺の出番だ! じゃ、いってきます!

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