第1話 まほうつかいってなんだ
シシカ村へ続く道を歩きながら、ノマは自分が名乗っていなかったことに気付いた。
「申し遅れました。僕はノマと言います」
「ノマさん、ですね。よろしくお願いします」
それにしても気になることが多すぎる。だが、初対面の人に向かって色々訊いたら失礼にならないだろうか。
ノマは悩んだ末、おずおずとリリアに尋ねた。
「あの……リリアさん、まほうつかいっていうのは……?」
リリアは質問を投げかけるノマに嫌な顔ひとつしなかった。
そのことに安堵してしまったノマは、話しやすいリリアの雰囲気をいいことに次々と彼女を質問攻めにしてしまう。年齢が近そうなこともあって、リリアに対して親しみが持てたのも大きい。
──魔法使いとは。
自然界に存在している目には見えない力を、一か所に集めてエネルギーを発する「魔法」を扱う者のことを指す。
この「魔法」には色々種類があるらしい。火や水を自由自在に操ったり、寒くない場所でも氷を作ったり。
通常の人間には不可能であろうことが可能になる。夢のような能力だ。
しかしもちろん誰彼もが使えるわけではない。魔法を使うには生まれ持った能力が必要で、赤子の時点で能力の有無がわかるとのこと。
ただ、能力があるからと言ってむやみやたらと魔法を使ってはいけない。この国では「
リリアは最近免許を取得した新米魔法使いで、まだまだ修行の身。なのでこうやって城の指示で村や街に派遣され、人助けをしつつ魔法使いとしての力をつけてゆく。
それが、リリアが属する『魔法団体リリック』の方針だそうだ。
リリックには数多くの魔法使いが所属していることも教えてくれた。所属する魔法使いはその能力の強さに応じてランク分けされる。ちなみにリリアは自身も言っていたように下級ランクだ。
「派遣される村は王が決定します。魔法使いがいない地域もたくさんあるので、ノマさんのように魔法の存在を知らない方々も大勢います。最初は驚かれるかと思いますが、だからこそ、わたしたちの存在が役立てると思うのです」
そう語るリリアの瞳には、強い意志が宿っているように見えた。魔法について話すリリアは生き生きとしていた。
「好きなんですね、魔法が」
「はい! 魔法で人助けをするのが、わたしの夢ですから」
リリアは淀みなく自らの夢を語った。彼女の話を聞きながら、ノマは彼女に眩しさのようなものを感じていた。
自分とは違う。特別なものを彼女は持っている。
ノマは農家の息子として生まれ、農民として生きている。そのことが当たり前だと思っているし、特に不満もない。
けれどノマの胸の奥で何かが微かにうずいたような気がした。
丘から数分歩いたところで、シシカ村の入口が見えてきた。村の名前を示す看板は、木が朽ちてきていたため最近ノマが修理したものだ。
「あそこがシシカ村です。このまま村長の元へ案内しますね」
緊張した面持ちのリリアを連れて、ノマは村の中央に位置する小さな家へ向かった。
木造の家の周囲には大きな畑が広がっている。村の特産品であるポポの実が採取できるポポの木や、今の時期が旬のロレソンの葉がのびのびと育っている。
扉を開けると、髭面で大らかな雰囲気の男性がノマとリリアを出迎えてくれた。
「あ、は、初めまして! わ、わたし、魔法使いのリリアと申します」
ノマへの自己紹介の時よりも更に固くなったリリアは、がちがちのお辞儀をした。
初対面だと彼の大きな体格に恐縮してしまうのも無理はない。
「おうおう、ノマがいねぇと思ったら、まさかこんなべっぴんさんを連れてくるなんてなぁ! 全く隅に置けないな」
「やめてよ父さん。リリアさんに失礼だよ。村のお客様なんだから」
「おっ、とうさまっ!? ということは、ノマさんは」
リリアは素っ頓狂な声を上げた。目を丸くしてノマと髭面の男性を交互に見比べている。
ノマは首を掻きながらリリアに告げた。
「リリアさん、こちらがシシカ村の村長ウルマ。僕の父さんです」
「よぉ初めましてリリアちゃん。ウルマだ」
ウルマは笑顔でリリアに手を差し出した。リリアは慌ててウルマの手を取った。
「まっ、魔法使いのリリアです。この度は、村のみなさまの手助けをさせていただきたく、城より参りました」
「おぉ! 王様の関係者か! 大歓迎だ!」
朗らかな笑みをたたえたあと、ウルマは首を傾げた。
「ところで、まほうつかい、っていうのは一体なんだ……?」
疑問を持つところはみんな同じらしい。ノマとリリアは目を合わせて小さく笑った。
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