空から落ちてきた物語 ヴァンパイア編
にゃべ♪
第1話 古城での出会い
ヨーロッパのとある小国。冒険の果てに俺はここに辿り着いた。ここには伝説のヴァンパイアがいるとかいないとか。別に本物に会いたいと言う訳ではないけど、そう言う伝説の残る土地を歩くのは楽しい、そこで見たもの、聞いたもの、食べる食事、土の感触、風の肌触り、何もかもかもが記憶に刻まれる。
首都を離れ、伝説の残る集落へ。まずは情報収集だ。地元の人から話を聞き、古文献から資料を漁る。専門家に話を聞くのが早かいのも知れないけど、こうやって地道に足で情報を稼ぐ方が俺の性に合っている。
様々な情報を集め、俺は伝説に残る古城の事を知った。それは、次の目的地が決まったと言う事でもあった。
「さて、しっかり準備してと」
俺はメガネの位置を直し、食料やキャンプの準備を入念に行う。その城は人も入り込めないような山奥にあるのだ。きっとかつては集落もあったのだろう。城だけが独立して存在するはずもないからな。多分流行病かなんかで住人がいなくなって頑丈な城だけが残り、伝説が生まれたのだと思う。
そう言う伝説の舞台を訪れるのはいつだって興奮する。俺の冒険は、そう言う歴史の息吹を実感するためのものなのだ。
準備が整ったところで、早速人里を離れて歴史の足跡を辿った。山を登り、谷を下る。暗闇で火を焚いて、雨の日は洞窟で時間を潰した。
全く人に出会わずに山の中を歩き回って数日、ついに俺は忘れさられた古城を発見する。それは現代に残る伝説そのものだった。
「マジでヴァンパイアが眠ってそうだ……」
その城はおとぎ話に出てくるような観光地化したヨーロッパの城のような造形をしていて、俺は1人静かに感動で胸を震わせる。城の周りにも古い民家は残っていたものの、情報通りそこには人が1人もいなかった。
人がいない分保存状態はかなり良く、まるで映画のセットのようなその街並みを俺は城に向かって歩いていく。そして、呆気なくその中に入る事が出来た。
「こんな山奥に、昔は栄えていた国があったって事か……」
誰も知られていない、今は誰もいない古い王国。もしかしたらこの国は人間じゃないものが暮らしていたのかも知れない。この奇跡の場所に辿り着いた俺の中で妄想が広がっていく。
城の中も外の景色と同じで、何も音もしない静かで冷たい気配が支配していた。いつ物陰から突然モンスターが出現してもおかしくない雰囲気の中、俺は入れる場所全てに入ってその室内を観察する。
「一体、ここはいつまで人がいたんだろう……?」
俺は学者じゃない。専門家でも研究者でもない。ただの好奇心で世界を冒険しているだけの人間だ。だからきっと色々なものを見落としているのだろう。一般人視点で分かりやすい事柄だけを記録し、記憶していく。
デジカメの撮影枚数が増え、城の雰囲気をメモに書き残す。残っている調度品や、飾られている絵など、俺の目は何もかも新鮮なこの城の全てを記憶に強く刻みつけていく。
地上の部屋をある程度調べ尽くしたところで、地下室の入り口を発見。廊下の燭台にろうそくが残っていたので、火を灯しながら先へと進んでいった。
ひんやりとした地下室はそれだけで緊張感を高めていく。今度こそ、モンスターと出会わないのが不思議なくらいだ。今怪物と出会ったら、武器も何も持っていない俺は逃げるしか出来ない。一応ナイフはあるけど、きっと役には立たないだろう。
「聖水でも準備しておいた方が良かったかな?」
魔除け的なものを全く持参していない事を軽く後悔しながら、俺は目についたドアを開ける。鍵もかかっていなかったようで、すんなりとそれは開いた。
「ちょ、マジかよ」
俺の目に飛び込んできたのは、部屋の真ん中に鎮座する立派な棺。地下室だから、それがあっても不自然ではないのかも知れない。とは言え、部屋にぽつんとひとつだけ棺が置かれていると言うのは、違和感しか感じられなかった。
「こ、この国はそう言う文化的なアレ……だったのかな?」
俺は出来るだけ棺を視界に入れないようにして、この不気味な部屋の観察を始める。旅を終えた時に、旅行記にまとめて出版社に売り込むためだ。そう言う内容の場合、行き先が特殊であればあるほどウリになる。
だからこそ、俺はこの城を見つけた時に目がお金の形になっていたと思う。
「しかし、このタイプの部屋は初めてだな……」
棺のある部屋の間取りは真四角で、周囲の壁には絵が飾られている。光の入らない地下室だけに保存状態は良好だ。しかも地下室なのに天井が高い。目測でも10メートルはあるのではないだろうか。その高さの理由はさっぱり分からなかった。
俺は部屋の足元をしっかり確認しながら、慎重に足を動かす。
「こう言う部屋は罠がつきも……うわっ!」
何かを踏み抜いた訳でもないのに、その一歩を踏み出した途端に部屋中央の棺が爆発する。突然の爆発音と爆風に俺は尻餅をついた。
俺の体は必然的に爆心地、つまり棺のあった場所に向いている。身動きは取れなかったものの、顔は必死に情報収集しようと微妙な変化にも敏感になっていた。
「え?」
爆風の中から何かが飛んでくる。しかも、それはへたり込んでいる俺の方に向かってきていた。ただ、それが確認出来たところで俺にはどうする事も出来ない。突然の出来事に体が一切反応出来なかったからだ。
飛んできているものは一体何なのだろう。俺は危険でないものである事を祈りながら、ギュッとまぶたを閉じた。
「うぐっ!」
その何かにぶつかった俺は、そのまま強い衝撃を感じて倒れ込む。その感触から、飛んできたものが生き物である事は分かった。割と小さくて柔らかい。人間のような大きさ――爆発した棺から飛んできたもの――。俺の思考回路が信じがたい結論を導き出す。
「うわああっ!」
死体が飛んできたと結論付けた俺は、それを思いっきり投げ飛ばした。鼓動が激しくなる。何が起こってしまったのか、理解が追いつかない。動いたらまた何か起こってしまうかも知れないと考えると、恐怖でやはり体は動かないままだった。
「お、落ち着け……落ち着かねば……落ち着こう……」
しばらく心を落ち着かせていると、その内に爆炎も消えていく。割と激しめの爆発だったのに、部屋に備え付けられた燭台のろうそくはひとつも消えていなかった。
やがて明るさと視界が戻った時、俺が放り投げた何かがゆっくりと立ち上がる。
「お主、姫である我を放り投げるとは中々の命知らずじゃのう」
「え?」
それは、数日ぶりに聞いた人間の声だった。何百年も前に滅んだ国の無人の城の棺から蘇った――人? 本当に人なのか? 姫と言う事は、この城の関係者?
この状況に混乱した俺は、頭の中が真っ白になる。
「ちょっと暗いのう」
姫はそう言うと指をパチンと鳴らす。すると、部屋全体が強く発光して周りもよく見えるようになった。なので、俺の目の前にいる『姫』の正体もはっきりと確認出来る。
身長は140センチ前後だろうか? 中世の貴族が着るようなドレスを着た可愛らしい少女がそこにいた。肌は驚くほど白く、大きくて赤い瞳。艶のある美しい黒髪。はっきり言って見とれてしまう。
「この盗賊め! 我が直々に始末してくれる!」
「ちょ待って! 俺はそう言うんじゃないから!」
「では何者じゃ?」
「お、俺の名前は鬼塚タケル。冒険家だ。この城の話を聞いて興味を持った。それだけだ」
俺は両手を上げて無害アピールをする。すると彼女は俺に近付き、ジロジロと観察を始めた。飽きるまで視線を這わせて納得したのか、彼女は顎に指を乗せて軽くうなずく。
「なるほど。確かに盗賊ではなさそうじゃの」
「で、君は誰なんだい? この城には、いや、王国全体でも人の姿はなかったけど」
「ふふん、知りたいか?」
質問を耳に入れた姫は腕を組んでニヤリと笑う。このシュチュエーションに、俺はゴクリとツバを飲み込んだ。
「我の名はキララ。何を隠そう、ヴァンパイアなのじゃ!」
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