第20話 買い物

 朝起きるといつもに増して調子が悪い。

 これは明らかに二日酔いだろう。

 昨晩の記憶がほとんどない。

「あいたたた」

 思い出そうとしても頭が痛くなるだけだ。

 買い物はお昼からでいいか……。

 ということで、二度寝をする。

 お昼近くになりミキに起こされやっと目を覚ます。


「マレック様、そろそろ起きられないと、買い物に行かれる時間もありますし、昼食くらいは食べてください」

 そういえば朝食は抜いてしまったから、お腹が空いているな。


「ああ、起きて食べるよ。ところで、アリサたちはどうした?」

「アリサ様たちは隣の部屋に戻りました。買い物に出かけるときに声をかけてくださいということです」


「ククリは?」

「ククリさんでしたら、そちらで寝ています」


 ミキがボクの横を指差すので布団をめくってみると、そこにはククリが寝ていた。

 なんでボクのベッドに一緒に寝ているのだ?


「ククリ、起きろ。なんでここで寝てるんだ」

「うう、大きな声を出さないで、頭に響く……」


 どうやらククリの二日酔いはボクより酷いようだ。


「買い物に行かなければならないから、起きてご飯を食べよう」

「ううう……。まだ無理」


「ククリさん、起きて、スープくらいは飲んでください」

「ほら、起きろよ」

「ううう、イケズ……」


 なんとかククリも起こして食事も済ませる。

 スープを飲んで、ククリもだいぶ回復したようだ。隣の部屋のアリサたちも誘って買い物に出る。


 道具屋に到着すると、みんなで必要な物を物色する。


「坑道の中だから寝袋があればテントはいらないのかな?」

「えぇー! 外から丸見えなのはちょっと……。できればテントは欲しいわ」

 男のボクは気にならないが、女のアリサはそうもいかないのだろう。こんな場合はククリに聞いてみるのが一番だろう。


「ククリ、どうなんだ?」

「そりゃあ、ポーターが三人もいるんだから持っていった方がいいだろ。それに、あたしも人から見なれながらというのはちょっと……」


「そうか、じゃあ、テントは用意するとして……」

 慣れているククリがそう言うなら従った方がいいだろう。それにしても、女性なら誰でも寝ているところは見られたくないものなのか? その割には、ククリはボクのベッドで寝てたけど。


「テントを用意するなら、三人用が二つがいいですよね」

「それがいいんじゃないか」


 アリサとククリでテントの大きさを決めているが、それだとボクはどうすればいいのだろう?

「四人用と、一人用がいいんじゃないのかな?」

「四人用は嵩張りますし却下だな」

「一人で寝るなんて寂しいじゃないですか」


 ボクの提案はアリサとククリから却下されてしまった。

 まあ、最悪ボクはテントがなくてもいいけどね。


「一人寝が寂しい時はこれがお奨めだ」

「え! なんでこんな物がここで売っているのよ」


 ククリが持っている物を見てアリサが驚いているが、それはボクも変わらなかった。あれって男の股間のアレだよな?


「これは、あたしたち女性が長い時間坑道に潜る場合の必需品だよ。アリサは持ってないの?」

「どこが必需品なのよ!」


「どこって、坑道でおしっこしたくなった時に必要だろ」

 そう言ってククリは手に持ったそれをアリサに渡す。


 え! おしっこって、あれで栓をして我慢するわけじゃないよな?


 アリサは押し付けられたそれを仕方なく手に取って眺めた。

「穴が開いてますわね。ああ、これ、女性が立ちしょんするためのものなんですね。それでしたら形は違いますが持ってますよ」


 女性が立ちしょん! 女性が坑道でトイレに行きたくなった場合、どうするのかと思っていたが、あれを使って立ちしょんしていたのか。お尻を丸出しで座っていたら危ないもんな。


「でも、なんでこれは男性のあれと同じ形なのよ? 同じ形にする意味があるの?」

「それは、だから、夜一人で寂しい時に使える一品二役なんだよ」

 寂しい時って、どうやって使うんだ!


「まぁっ!」

 アリサは真っ赤になって、それをククリに押し返していた。


「マレック様、盗み聞きは良くないですよ」

「ひゃっ!」

 レナさんに背後から声をかけられてビックして飛び上がる。


「レナさん。別に盗み聞きしていたわけでは……」

「まあ、そういうことにしておきましょうか」


「いや、本当に、ボクがいるのに二人が気にせず話をしていただけだから。たまたま、聞こえてきていただけで、盗み聞きする気なんかこれっぽっちもなかったから」

 何か、弁明すればするほど言い訳にしか聞こえなくなってくるのだが……。


 そんなこんなで、買い物も無事に済ませホテルの部屋に戻る。


「それで、なんでククリは自分の家に帰らないんだ?」

「どうせ、明日は朝から一緒なんだから、ここに泊まっていってもいいだろ」


「今日は酒は出さないぞ」

「そんな! せめて一本だけ」


「一本だけって……。そこは普通一杯だけというところだろ」

「一杯で足りるわけがないだろ」


「はぁー。明日から泊まり込みなんだから、本当に今夜はお酒はなし。さっさと飯食って寝るぞ」

「仕方がないなー。それじゃあ寝る方に期待しよう」

 ククリの家にあるベッドよりここのベッドの方が寝心地が良いのだろうか?

 だから帰ろうとしないのだな。

 まあ、明日からは寝袋だから、今日はここのベッドを使わせてあげようか。


「ところで、アリサたちもここで一緒に夕飯を食べるのか?」

「もちろん、一緒に食べますわよ」

 もちろんなのか……。


「そして、当然、一緒に寝るわよ」

 なんで、当然なんだ? 隣の部屋はまだ片付いていないのか?


 なんだかんだで、今夜もみんな一緒に寝ることになったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る