第19話 打合せ
警備隊からの事情聴取から解放されてホテルの部屋に戻ってみると、ボクのベッドでククリが気持ちよさそうに寝ていた。
部屋の中には空になったお酒のビンがあちこちに転がっていた。
これ、全部ククリが飲んだのか?
「ちょっと! この子、ポーターをしてた子よね。子供にお酒を飲ませて何をする気なの!」
なぜかボクの部屋についてきたアリサが騒ぎ出した。
「いや、ククリはもう大人だから」
「そういえば前にそう言っていたわね。なんて鬼畜なの」
「何を勘違いしてるか知らないけど、ククリは二十五歳だから」
「二十五歳! そんなわけないでしょ。どう見ても十代前半よ」
「ボクにもそう見えるけどね。まあ、アリサはボクの言うことを信じる気はないようだから別にもういいよ」
「ウッ……。ごめんなさい……」
アリサは俯いてモジモジしながら何やら呟いた。
「え?」
「マレックのこと疑ってごめんなさい! それから助けてくれてありがとう」
聞き取れず、小首を傾げると、今度は大きな声でハッキリと話し始めた。
「マレックがガリウスの剣を折ったのは、気を使ったのよね。実際にあれだけ気を使いこなせる人を私は初めて見たわ」
「やっぱりあれはアリサのいう気なんだ。ボクはマナと呼んでるけどね」
「そうだったわね。マレックにとって気を使うことは魔法なのよね」
「そうなるね」
実際に使っているところを見たことによって、魔法を認めてもらえたようだ。
「私にも魔法を教えてもらえないかしら?」
アリサはボクの手を両手で握り、顔を近付けて目を潤ませながらお願いしてくる。
「いいけど、簡単じゃないよ」
「やった! ありがとう」
アリサの唇がボクの頬に触れた。ボクはキスをされたのか?!
「ちょっと、あたしが寝ている間に他の女を連れ込んでいちゃつかないでくれる!」
最悪のタイミングでククリが目を覚ましたようだ。キスをされるところを見られてしまった。
「ククリ、起きたのか。もう暗くなったから、仕事の打ち合わせは明日にして帰った方が良くないか?」
「なによ、あたしを追い出してその女といいことするつもり?」
「そんなことはしないけど」
「なら、あたしは泊まっていく。初めてじゃないんだし、いいよね?」
「うん、まあ、もう暗いし、その方が安全かな」
「やった。今晩はあたしとトコトンやろうね」
それって、仕事の打ち合わせだよね?
「なら、私もここに泊まるわ」
「アリサは隣の部屋だから戻ればいいだろ?」
「だって、隣の部屋は荒らされたままだし、何より、私はマレックの女になったじゃない」
「女にって、あれはガリウスが勝手に言ってただけで、アリサもそういう扱いは嫌だろ?」
「マレックだったら、今更だし、私のこと好きにしていいわ」
好きにしていいのか! でも、なにが今更なんだろう?
「まあ、隣の部屋が使えないなら、ここを使ってもいいけど。ベッドどうしよう……」
「一緒に寝ればいいじゃない」
「あたしが一緒に寝るから大丈夫だ」
アリサとククリで一緒に寝るのか。それなら大丈夫か。
「それじゃあククリ、早速始めるとしようか」
「え、あの女が見ている前でやるの?」
そうだよな、ポーターを受ける場合の交渉条件は秘密にしたいよな。
「アリサ、悪いんだけど……」
「わ! 私なら一緒で全然構わないから。なんならレナも付けちゃうし」
「アリサも一緒にやりたいということか?」
「ダメかな……」
「ボクはいいと思うけど、ククリはどうかな?」
「あたしは……。マレックがどうしてもというなら……」
「なら、その方向で話し合いをしようか」
「わかったわ」
「まあ、いいけど」
「思ったんだけど、五人で行くならEランクのワームでなくて、思い切って、Dランクのモグラオオカミにした方が効率がいいんじゃないかな」
モグラオオカミは集団で行動している。一人で狩るのは危険であるが、アリサもいれば安全に狩ることができるだろう。
「それに、ポーターが三人になるから、泊りがけで狩に行けると思うんだが、どうかな?」
逆に、そうでもしないと、ポーターが三人にも必要なくなってしまう。
「それはいいけど……」
「いつから狩の話になったんだ?」
「あれ? 話が通じてなかった?」
「いえ、そんなことありませんよ」
「そうそう、泊りがけだろう。いいんじゃないか」
アリサもククリも取って付けたような返事をした。やはり何か勘違いしていたのか?
「いいですよね。坑道の中で周りを気にかけながら、ヤルんですよね。しかも五人で。今から興奮しちゃいます」
ミキも賛成のようだし、これで話を進めていいかな。
その後、いろいろと細かい条件を決めて、明日は泊りがけに必要な物の買い物に当て、明後日からD5坑道に二泊三日の予定で狩に行くことになった。
「それじゃあ、条件も決まったし、乾杯といこう!」
「ククリ、また飲む気なのか?」
「いいじゃないか、減るもんでもなし」
「いや、減るだろ、ボクのお金が」
いや、この量だと、ここ数日稼いだ分は既に使い果たし、ミキのお金を使っているのではないだろうか?
「減った分は、稼げばいいんだよ。モグラオオカミなら一トウ四万にはなるから心配するなって」
「モグラオオカミは四万にもなるのですか。それなら剣を新調できそうですね。楽しみだわ」
そういうのを取らぬ狸の皮算用というのだが、まあ、いいか。
「さあさあ、マレック様も飲んでください」
「レナさん、ありがとう」
「お礼を言うのはこちらの方です。お嬢様を助けていただいて、ありがとうございました。大したことはできませんが、誠心誠意お仕えさせていただきますね」
「当然のことをしたまでですが、こちらこそよろしくお願いします」
レナさんにお酒を注がれて、それを飲んでいるうちに、ボクはいつの間にか寝てしまったようだ。なぜかみんなで一緒にベッドに寝ていた。
一体なにがあったのだろう。もしかして、ボクは彼女たちに変なことしていないだろうな?!
「マレック様、これは夢ですよ」
眠っている思われた女性の中からミキが起き上がった。そして、アロマキャンドルに火を灯す。
「ですから、存分に楽しんでから、ゆっくりお休みください」
そう言って、ミキはボクに抱きついた。ボクもそれに応えて、ミキに抱きつき夢の中に溶け込んでいった。
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