名門魔術師を騙る詐欺師一族の三男は、ワザと不器用なフリをして狙い通り勘当されハンターになるが、なぜかメイドがついてきてエロエロな生活を送る

なつきコイン

第1話 勘当

「マレック、お前のような不器用な奴は、この魔術の名門アートランク伯爵家に相応しくない。勘当だ! この屋敷にお前の居場所はない、すぐに出ていくがよい」

「まったく、上の兄二人はちゃんと真剣に練習しているというのに、真面目に練習に取り組もうともしないのだから、母親として恥ずかしくて仕方がないわ。今後、アートランク家の者だとは名乗らないでちょうだいね」


 豪華なリビングに呼び出されたボクは、両親から勘当を言い渡され、屋敷から出ていくように言われた。


 練習をサボり不器用なフリをして、自分でそうなるように仕向けたわけなのだが、両親からここまでボロクソに言われると少しは悲しくなってくる。

 なら、なぜそんなことをと思われるかもしれないが、これには少し理由がある。


 ボクの家は代々魔術師として名を馳せ、国王陛下から伯爵の爵位まで賜っている、由緒正しい魔術師の家系だ。

 と、十歳になり、魔術を教えてもらえるようになるまで、ボクはそう思っていた。



〈回想、マレック十歳〉


「お父様、やっとボクも魔術を教えてもらえるのですね」

「うむ、マレック、お前ももう十歳だ。秘密を守れるようになっただろう」


 この家では十歳になると魔術を教えてもらえるようになる。それは、兄二人も同じだった。兄たちは既に魔術をいくつか取得し、自慢げにボクに見せてくれる。

 ボクも早く魔術が使えるようになりたくて、ワクワクしてこの時を待っていた。


「秘密ですか?」

「そうだ。我が家に伝わる魔術は絶対に外には漏らしてはならない重大な秘密なのだ」


 一般に魔術が使える者はいない。この国で魔術が使えるのはボクの一族だけだ。きっと、魔術を悪用する者が現れないように秘密にしているのだろう。


「マレック、お前は秘密を守れるか?」

「もちろんです!」


 魔術師になるからには、約束を守るのは当然だ、と思っているボクは元気に返事をした。


「よし、よい返事だ。では、まずカードの魔術から教えるぞ。よく見ておれ」

「はい!」


 こうして、ボクは魔術のタネと仕掛けを教えてもらった。


「わかったか? 後は地道な練習あるのみだ。手先の器用さがものをいうからな、日々の練習を怠るなよ」

「お父様、これは魔術でなく、手品なのでは?」


「……まあ、そうともいうが、タネがバレなければそれは魔術なのだ。我が家は代々それで生きてきたのだからな」

「……」

 これって、ボクの家は代々詐欺師の家系ということでは……。



 その後、正義感が強いボクは詐欺師の一族であることに良心の呵責を感じていた。

 そんな状態で、練習に身が入るわけもない。

 と、清廉潔白なことを言ってみたが、これは言い訳だ。本当は詐欺師の一族だということがバレて、処刑されるかもしれないと思うと怖くて練習どころではなかたのだ。


 そのうち、魔術という名の手品が一向に上達しないボクを、兄たちはバカにするようになった。

 兄たちは、失敗して詐欺であることがバレ、処刑されることがないように、それこそ死に物狂いで練習していたのだ。バカにされるのも仕方がないことだった。

 そして、両親はボクより、出来の良い兄たちを優先した。


 そうなると、家族に対する愛情も感じることができなくなり、余計に練習が嫌になった。

 悪循環が重なり、兄たちはボクに暴力を振るうようになり、両親はボクをいないものとしてふるまった。


 そんな状態が続き、使用人からも馬鹿にされるようになり、ボクは詐欺師の家族とは縁を切り、屋敷を出ようと考えるようになった。そこで、ある計画を実行に移した。

 その計画は、わざと不器用なフリをして練習をサボり、両親から勘当されるというものだった。

 そして、ついに今、計画通りに勘当を言い渡されたのだ。


「わかりました。ただ一つ、手切れ金代わりとしてこの本をいただけないでしょうか?」

「その本は、魔導書ではないか。お伽噺の本だが、そんな物が欲しいなら持っていくがよい」


 二年ほど前に、書庫の奥でホコリを被っているところを見つけたこの魔導書は、魔術という名の手品のタネが書かれた魔術書ではなく、魔力であるマナを使い不思議な現象を引き起こす魔法について書かれていた。

 ボクはこれが本物の魔術だと思い、両親や兄たちに話をしたのだが、みんなからはお伽噺だと笑われてしまった。


「だけど、この世には魔石があり、魔道具を使っているじゃないか。だからこそ、魔術が信じられているのでしょ。マナを使った魔法が有ってもおかしくないだろう?」

 ボクはそれでも諦めずに説得を試みた。

 魔法が使えるようになれば、手品を魔術と呼ぶ詐欺をしなくて済むだろうから。


「そこまで言うなら、自分で魔法を習得してみればいいじゃないか」

「まあ、魔法が本当にあっても、魔術の練習もまじめに取り組まないお前には、とても習得できないだろうがな」

 だが、結局、兄たちからバカにされて話はそこで終わってしまった。


 それでも、ボクは魔導書を本物だと信じて、そこに書かれた鍛錬を重ねた。

 その結果、最初はまるで成果が上がらなかったが、ここにきて、やっと、少しだけだがその成果があり、魔法が使えるようになったのだ。

 しかし、その魔法は身体強化魔法だったため、その効果が目に見えて分かり難く、兄たちからは気のせいだとバカにされただけだった。


 それでも、このまま鍛錬を続ければ、きっともっとすごい魔法が使えるようになるはずだ。

 そのためには、どうしても魔導書は手元に持っていたかった。


「ありがとうございます」

「それを持って、さっさと出て行け!」

「二度と顔を見せないでちょうだいね」


 はぁー。本当に追い出されてしまうのだな。

 割り切っていたつもりだったが、割り切れてはいなかったようだ。

 ここで、泣いてすがればまだ家に残してもらえるのではないかという考えが頭をよぎってしまう。

 自分で後腐れないよう、追い出されるように仕組んだのに、人間の感情とはおかしなものである。


 だが、このままこの家にいては良心の呵責に耐えられなくなって、いつか魔術の秘密を暴露してしまうかもしれない。

 それに、何より、いつか詐欺であることがバレて、家族と一緒に処罰されることは真っ平ゴメンだ。


「お父様、お母様、不出来なボクをここまで育てていただきありがとうございました。何もお返しできませんでしたが、それではお元気で」


 ボクは気持ちにケリをつけ、両親に別れの挨拶をするとリビングから廊下に出て、そのまま玄関に向かったのだった。

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