第11話 崖
ミラージュは、崖のすぐ下の窪みに滑り込んだ。
その窪みは死角になっており、崖の上からでは見つける事ができない。母ラナリーンは、風に煽られ落としてしまった帽子を探している時に気が付いたみたいだった。
母も公爵邸から逃げる時に、この崖から落ちて窪みに入り込み難を逃れた。
崖上から声が聞こえる。
ギガリア公爵が叫んでいるようだ。
「くそ!阻害品が落ちた。忌々しい娘だ。自ら死を選ぶとは!それより、妊娠だと。ルルアーナ!」
ギガリア公爵は、しばらく崖下を覗き込んでいたみたいだが、荒々しくその場を離れる気配がした。
ビュービュー、ザバーーン、ザバーーン。
風が激しく吹き荒れ、波が崖に打ち上げる音が聞こえてくる。
崖下の窪みに身を潜めて、ミラージュは一息ついた。
視界には茶色土壁と星空だけが広がっている。母ラナリーンが逃げた時は、妊娠していたはずだ。ミラージュをお腹に宿したまま母は逃げた。
夢の中で見た腹の中のミラージュを必死に庇いながら公爵邸を後にする母の姿をミラージュは思い出していた。
「ありがとう。お母さん。」
ミラージュは一言呟き、体を動かした。窪みの奥は洞窟になっており、ミラージュは這いながら暗闇を進んでいった。母ラナリーンがそうしたように。
洞窟は、緩やかに下っていた。しばらく進むと急に開けた。
光苔が群生し、薄緑の光に包まれている。大きな水たまりがあり、反対側から水が流れ落ちてきている。水が流れてきている方向へミラージュは進んだ。
暫く進むと、光が見えてきた。いつの間にか朝になったらしい。
洞窟の出口からオレンジ色の朝日が、差し込みミラージュを照らした。
ミラージュは、眩しそうに眼を細めながら、一人微笑んだ。
(ああ、逃げ切れた。帰ろう。愛する人の元へ。)
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