『やましんさんとやきそばさんと、たま』

やましん(テンパー)

『やましんさんとやきそばさんと、たま』


 これは、おとぎ話し、というか、怪談というか、謝罪、であります。



        🍝



 あるひのこと、やましんさんは、山道をえっちらおっちら、上がっておりました。


 山の上に、古墳があると聴いたので、探しに来たのです。


 自動車は、麓に置いてきました。


 ただし、特に有名な古墳とかと、いう訳ではないらしいです。


 暑い暑い夏も、ようやく収まりかけて、散歩するには良い時期になりました。


 やましんさんも、歳を取りました。


 山道というものは、甘くみてはなりません。


 小さなお山でも、迷子になることがあるものです。


 それでも、あまり、深い藪のなかとかでもなくて、まあまあ、歩きやすい道でした。


 ちょっと、遅く出掛けたので、もう、夕方が近づいてきておりました。


 さいきんは、スマホというものがあり、あと、10分ほどだと、教えてくれます。


 ところが、なにやら、後ろから、迫ってくるものがあるように感じたのです。


 そうして、その、後ろから来るものは、どんどんと近付いてくるようでした。


 いのししさんとかでしょうか。


 それとも、くまさん。


 どちらも、厄介です。


 でも、なんだか、おかしな雰囲気なのです。


 やましんさんは、小さな双眼鏡を出して、後方を眺めました。


 すると、なにやら、茶色の塊みたいなものが、わしゃわしゃ、わしゃわしゃ、と言いながら上がってくるではありませんか。


 『ややや、なんだい、あれは。怪物か。けものか。ばけものか。』

 

 やましんさんは、ちょっと、道の端っこに寄りながら、さらに、相手を観察しました。


 すると。

 

 『おわ。あれは、やきそばさんではないか。』

 

 そうです。


 あきらかに、やきそばさんです。


 赤い紅しょうがさんと、青のりさんも、いっしょに交わりながら、わしゃわしゃ、上がってくるのです。


 どうやら、鉄板さんの上にいるらしく、じゅうじゅう、やけながら、わしゃわしゃあがってくるのです。


 さらに、お皿さんと、お箸さんが、ぜいぜい言いながら、追いかけてくるではありませんか。


 やきそばさんを乗せた鉄板さんは、微妙に地面からは浮かび上がっていて、土が混じったりはしていないようでした。


 あきらかに、普通の光景ではありませんが、なにやら、吹き出してしまいそうなくらい、ユーモラスだったのです。


 やましんさんが、感心していると、やきそばさんたちは、すぐに、追い付いてきました。


 『やあ、やましんさん。こんにちは。』


 やきそばさんは、親しげに言いました。


 『やましんさんでよかった。うっかり、人間にであったら、巻き込んで、やきそばにしてしまわなければならない。やましんさんは、仲間みたいなものだから、気にしないでください。』


 お皿さんと、お箸さんも、ぎたぎた、と、笑いました。


 『はあ。それは、ども。』


 『では、出前したかたが、お待ちなので、ちょっくら、おさきに。わしゃわしゃ、わしゃわしゃ、じゅうじゅう。』


 やきそばさんたちは、前にも増して、ものすごいスピードで、頂上に向かい、突き進んで行きました。


 『あらまあ? さて、どこで、知り合ったかなあ。』


 やましんさんは、にわかには、思い出せませんでした。


 そこから、頂上までは、もう、距離はたいしてなかったのですが、最後には坂がきつくなり、15分は、かかって、やっと、頂上にたどりついたのです。


 

       ◎◻️◎


 頂上には、確かに、大きな岩が、いくつか、ごろんと、ありました。


 むかしは、たぶん、きちんと組まれていたのかもしれません。


 さらに、長い年月の間に、重ねられていた盛り土などは、崩れてしまったのでしょう。


 そうして、その、一番大きな岩の上には、焼きそばを食べる、女性が座っていました。


 『うわっ。』


 彼女は、焼きそばをほうばりながら、こちらを向き、にたり、と、笑いました。


 『ほほほほ。やっと、来てくださいましたね。やましんさん。あれほど、おしたいしておりましたのに、あたくしを捨ててゆかれました。さあ、お礼をいたします。死ぬまで、焼きそばを召し上がれ。』


 やましんさんは、その美しい女性が、だれなのか、まだ分かってはいませんでした。


 『さあ、どんどん、焼きそばを持っておいで。この遺跡には、遥かな昔の、我らが大王のご先祖さまがいらっしゃいます。やましんさんは、ここに、あたくしと、末長く、はいるのです。ほ、ほほほほほ。』


 『あいよ。では、ばんばん、持って上がります。』


 そう言ったのは、鉄板さんでした。


 鉄板さんは、降り際に、やましんさんに、ささやきました。


 『おいら、むかし、あなたの父上に作られた鉄でできてます。あいつは、たま、ですぜ。死にたくなければ、おいらを、あいつに投げつけなさい。いま、すぐに。』


 やましんさんは、はっとしました。


 そうして、言われたとおり、鉄板さんを、その女性に投げつけました。


 鉄板さんは、彼女の頭にぶつかりました。


 『ふぎゃあ〰️〰️〰️〰️。この期に及んで、まだ、あだなすかあ。にゃあ〰️〰️〰️〰️。しっくん、かまってにゃ。』


 女性は、煙となって消えました。


 後には、小さな骸骨が転がっていたのです。


 『ああ。たま、だったのか。ごめんね。たま。待ってくれていたのか。』


 もう、50年以上むかし、東京近郊から引っ越した先の借家で、やましんさんは、のらねこの、たま、と仲良しになりました。


 たべものを、毎日のように、たまに、与えておりました。


 なかなか、新しい土地に馴染めず、さみしかったのです。


 しかし、新しい団地に入ることが決まり、やましんさんは、たまを、ほったらかしたまま、引っ越したのです。


 その後、たまは、そのあたりで、泥棒猫になったと、となりのおばさんから、聞きました。


 たまは、じっと、やましんさんが、帰ってくるのを、待っていたのでしょうか。


 最後には死に場所として、ここを、選んだのでありましょうか。


 やましんさんは、丁寧にたまを葬りました。




 ※ たまがいたことは、事実ですが、その最後は分かりません。たま、ごめんなさい。たま、安らかに。気持ちだけしかできませんが。たまに、ささげます。

  

       🐈


 


            たまたま


 

  


 


  


 

 

 


 


 


 


 


 

 

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『やましんさんとやきそばさんと、たま』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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