君の彼女は恐らく殺人鬼だ

うたろ

君の彼女は恐らく殺人鬼だ

 いや、君をこんな人気のない所に急に呼び出して悪いとは思っている。


 けれどもね、この事を君に伝えないのは僕が君を見殺しにしたみたいで目覚めが悪いからね。

 この話をするのは君が僕の親友だからさ。この話をすれば君は怒るかもしれない。だけれど、落ち着いて聞いてくれ。


 前置きはそれくらいにして本題に入れって?

 分かったよ、じゃあ単刀直入に言おう。



 君の彼女は恐らく殺人鬼だ。



 おいおい、そんな顔するなよ。良かったじゃないか、殺される前に知れたんだから。誰にだって失恋はあるさ。僕の失恋はいつだったけな。え~と、確か…

 えっ、そうじゃないって?

 僕のこと信じていないのかい?


 ほう、そこまで言うなら僕がそう思った根拠を教えてやろうじゃないか。


 そうだね、僕が最初に彼女を疑い始めたのは、そう3年前。大学のサークルの皆で映画を見に行った時だ。確か、君の思い付きで流行りのアクション映画を見に行こうってなった話だよ。


 席順は、水谷、守屋、田中、上野、僕、彼女、君、松谷の横一列だったはず。


 よく覚えてるなって?、まあ君より大学の成績は良かったしね。自慢話はこれくらいにして本題に戻ろうか。

 その映画の中盤の砂漠で主人公がテロリストから逃げるシーンでね、流れ弾が当たったコンドルが地面に横たわっていたんだ。


 そこで僕はとんでもなく面白い冗談を思い付いたんだよ。他の人の邪魔をするのは悪いと思ったけどね、僕は言いたくてたまらなくなってしまったんだよ。


 左隣の上野はあまり笑わないほうだったから、僕は右隣の彼女の肩を叩いてこう言ったんだ。


 ほら、あれ見て、コンドルがめり込んどる。

 ってね。


 そしたら彼女、僕の方をとても冷たい目で見たんだ。


 あの目はね、人を何人か殺してる目だよ。サスペンスドラマ好きの僕が言うんだ、間違いない。


 そんなの根拠にならないって?

 君は疑い深い奴だな。

 じゃあ、他の根拠も教えてやろう。


 そうだな。最近、君達が同居しているアパートに行っただろう、確か2週間前。新居祝いにさ。


 古いながらもなんていうのかな、味があるっていうか、いいなって思うようなそんなアパートだったよ。


 嫌味にしか聞こえないって?

 本当だよ、本当にそう思ったんだよ。


 話を戻そうか。


 そこで、彼女にパスタとサラダを作ってもらっただろう?

 もう、お昼が近いからって。

 いや〜、あのとき食べたパスタは本当に美味かった。また、食べに行ってもいいかい?


 ゴホン。まぁ、冗談はこれくらいにして。

 

 彼女がサラダの入れるトマトを切っているとき、僕は思ったんだ。



 なんて包丁が似合う女性なんだ、って。



 トマトに包丁を入れる姿勢も、勢いも、容姿も、何もかも。


 包丁とベストマッチしていた。

 

 あれほど、包丁が似合う女性を僕は見たことがない!

 本当に美しいと思った!


 

 え?

 僕がおかしいって?

 誰だってあの姿を見たら、美しいと思うに決まっているさ、本当さ。


 そんなに信じないなら、他の人に聞いたってもいい。誰もが、彼女が世界一包丁の似合う女性だと答えるさ。


 そうだね、一人でもそう言わなかったら、死んでやったっていいね。


 そう、例えば、君の彼女に殺されたっていい。

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