京大ロンダしたけど手取りが18万円な件について
源カイバ
京大ロンダしたけど手取りが18万円な件について
タイトルの通りである。
私は関東の四年制大学を卒業した後、高給取りを目指して京都大学の大学院にて見事学歴ロンダリングを成し遂げたが、社会人5年目になる今でも、手取りは18万円より上がらないままでいる。
京都大学のような名門大学に入学することは、とても難しい。合格基準点が高いうえに志願者数も多いので、より高みでの戦いに勝利しなければならないからだ。
一方同じ京都大学でも、その大学院に入学することは、大学入試ほど難しくはない。もちろん大学院入試の試験問題はそれなりに難しいが、大学入試の倍率が3倍から6倍であるのに対し大学院入試の倍率はせいぜい1.3倍程度なので、しっかり勉強して合格基準点よりも多少高めの点を取っておけば、そうそう落ちたりしないためである。
そして京大から京大の院に進学した人も、京大ではない大学から京大の院に進学した人も、卒業してしまえば等しく【京大院卒】の学歴となる。
このように、名門大学に院から入学し、最終学歴を立派なものに塗り変えることを、日本では学歴ロンダリングと呼んだりする。(熾烈な大学入試を乗り越えずに名門大学の学歴を得ることを卑怯だと揶揄する言い方なので、人に向かって言っちゃダメである。)
大学入試の難易度が高いこの国では何かと白眼視されがちであるが、学歴ロンダは役に立つものだ。
何故ならこの世は学歴社会であり、たとえロンダでも最終学歴に名門大学の名を飾ることができれば、就職活動で大きく有利になるためである。
しかし冒頭でも言ったとおり、私は社会人5年目の今、当時の専攻とはほぼ関係のない職場で、毎月稼ぎの60%を中抜きされる派遣技術者(つまり非正規研究員)として働いている。つまりは折角手に入れたアドバンテージを活かすことなく、就活で大爆死したのである。
多くのチャレンジャーにとって、失敗者の談というのは時として成功者のそれよりも有益になりうるものだ。
可愛いロンダの後輩たちが私のように汚い花火を咲かせなくて済むよう、私がロンダ生活、そしてロンダ就活を経て得た教訓を、今回お話しさせていただこう。
【1】研究室の人と仲良くしよう
思い返すと、研究室には在学中、全然馴染めなかった。
馴染めなかったといっても、ロンダを理由に苛められたりしていたわけではない。研究室の人たちはみんな、一人一人は聡明で優しい人たちだった。ただ、彼らはなぜか集団になると関西とテニサーの悪いところを煮固めたような“ノリ”を醸したのだ。
研究室新歓では毎年新人たちに一発芸が強要されたし、卒業生歓送会では後輩たちが各々で出し物をする決まりになっていた。そして研究室旅行では、なぜか私以外のメンバーらが男女2人1組で一つの布団に入るという異常事態が発生した。
新歓では、下ネタしかウケないという教授のために初対面の後輩を亀甲縛りにしたり、歓送会ではwith B なしのブルゾンちえみをオリジナルの台本で演じきるなど、研究室に馴染めるよう最大限の努力をしていた私であったが、あのときばかりはどうすることもできなかった。せめてどれかの布団に幻の三人目として堂々参入していくくらいの勇気があれば、少なくともその布団の二人とは仲良くなれたのかもしれないが、そんな勇気がなくて良かったと今も心から思っている。
話が脱線してしまった。
とにかく、そんな性道徳の乱れた研究室に、私は2年間の在学中全く馴染めなかった。研究室に全く馴染めないと、どういうことが起きるのかというと、先輩とも同期とも話す機会がないので、就職活動に関する情報がほとんど入ってこないのである。
私に言われるまでもないだろうが、就活というのは情報戦である。
普通、就活のために有益な情報というのはサークルや研究室の先輩、特に既卒のOB、OGから得られるものなのだが、他大学から院進してきた人間には、そういう話を聞くツテがまるでゼロなのだ。そのため先輩や同期に紹介してもらうしかないのだが、先述の通り私は研究室のメンバーと信頼関係および交友関係を築くことができなかったので、そのような機会を得ることは終ぞなかった。
そういうわけで学歴ロンダの教訓その①は、研究室の人と仲良くしよう である。
【2】二番手、三番手の会社を受けよう
私が就活で大爆死した原因として最も大きいのが、受けた企業の数が少なかったこと、そして業界最大手の企業ばかりを受けたことである。
今、ロンダのくせにそんなことしたらそりゃ死ぬだろ、と思ったことだろう。私も今ではそう思う。しかし当時の、本当に就活と己の分際に対する理解が浅かった私は、これだけ受ければ何社かくらいは拾ってくれるだろうと本気で思っていたのだ。
これについては、少し言い訳をさせてほしい。
まず、一つ上の先輩たちの内定先があまりにも良すぎたのだ。どの人も毎日CMを見るような業界トップクラスの企業から内定を貰っていて、その輝かしすぎる戦績が、私に就活のハードルを低く見せた。
また就活開始当時、私は就職に有利な人というのは「研究を頑張った人」だと思っていた。
というのも、私が就職を目指していた業界は食品メーカーの商品開発という、れっきとした研究畑であったからだ。修士一回生の段階でそれなりに面白い(と自分では思っていた)研究成果をいくつか得られていた私は、「この話をすれば行けるだろ」と考えてしまったのだ。
しかし実際に就活を経験して学んだのは、ロンダではない純正京大生でも、大手企業に就職できる人はそんなに多くはなく(あくまで体感であり、そもそも大手に興味がない人も多々いる)、そして少なくとも食品業界の新卒採用で重視されるのは、研究の成果や自身の専攻分野に対する理解ではなく、普通に学歴と能力と人柄であるということだ。
思うに、就活における学歴は、ラッピングのようなものだと思う。ESや一次面接といった人数が多い段階では、いちいち各人の長所や短所などを吟味していられないから、とりあえずラッピングの良さげな奴から選んでいくのではないだろうか。
この第一関門を抜けるための手として、学歴ロンダはかなり役に立つと感じた。ここで目立って残ることができれば、他の長所をアピールするチャンスも得られる。
しかし問題はその後だ。ある程度選定が済み、ラッピングの差が目立たなくなれば、次は包装紙をひっぺがして中身の検分が始まる。つまり能力を測るSPIや筆記テスト、そして人柄を推し量る面接やグループディスカッションである。
私の場合、ES通過率はかなり良かった。26社ほど出して、22社は通った。
しかしSPIと面接がまるでダメだった。SPI・一次面接を通過したのが5, 6社で、二次面接を通過したのが2社。片方は3次で落ち、もう片方は本命の面接と日が被っていたので蹴った。そして本命も落ちた。
世間一般から見て、私のSPIと面接がどれくらいダメだったかはわからない。少なくとも「研究室の人との関係はどうですか?」と訊かれたときに、「あまり良くないです」とバカ正直に答えるのだけはやめた方がよかったかもしれない。ただはっきり言えるのは、学歴のラッピングを取っ払ったとき、私には周囲と戦えるほどの中身がなかったのだ。
自分を卑下しているわけではない。しかし周りを見る限り、大手企業が内定を出す人材というのは、高学歴かつ頭脳明晰であることに加えて、海外留学経験があったり何ヵ国語か喋れたり、モデル経験があったりスポーツの全国大会で優勝したり魔性の女だったりする人たちだった。つまりは、ちょっと装備を良くした程度の一般人が敵うはずもない、規格外の怪物たちだったのだ。
とはいえ、学歴ロンダリングに意味がないということではない。学歴ロンダリングをすれば、確実に狙える企業の層は上方修正される。
私のES通過率が高かったのは、私の文章力の高さによるところが最も大きいが、しかしその文章さえ、最終学歴欄の【京大院卒】がなければ読まれもしなかった可能性が高い。
私はSPIや面接で全く輝くことができなかったが、それは身の程もわきまえずにディアルガvsパルキアvs小林幸子inルミナリエみたいな戦場に突っ込んでいってしまったせいであり、もう少しだけ顔の角度を下げれば、私の経歴や人間性でも輝ける戦場がきっとあったはずなのだ。
そういうわけで、学歴ロンダの教訓その②は、大手企業は絞って、二番手・三番手の企業をいっぱい受けよう である。
まぁ、こんなもんだろうか。
意外と少なかった。というか、研究室の人と仲良くしろとか、あんまり高望みするなとか、普通の人なら言われなくてもやってることばかりな気もする。事実、私の一つ下のロンダの後輩は、配属されたその日から研究室に馴染み、最大手ではないが全国的に名の知れた企業に内定を決めていた。
今の手取りが18万円であることについてはガチ憤り山の如しであるが、食品開発の仕事に就けなかったことについては、実はあまり悲しくない。
今思えば、本当に食品開発をやりたかったのなら、大手にばかり絞らず受けられる企業はどこでもESを出したはずだ。でも私はそうしなかったし、就職浪人もしなかった。きっと私は食品開発を「やりたかった」のではなく、大手企業の食品開発の人に「なりたかった」のだ。
気づくのが少し遅かったし、大学1年生から修士2回生までの奨学金の返済が痛すぎるが、まぁ人生、学びが多くて悪いことはないだろう。
人の一生は恐ろしいほど長いから、先の方ばかり見ていると足がすくんでしまうことがよくある。だから私はなるべく今の自分を見て、何がしたいのかをよく考えて生きていくことにした。
今の私は──────まず、金が欲しい(奨学金返済のため)。あと文章を書いていたいし、絵も上手くなりたいし、最近始めたゲーム実況なんかもどんどんやっていきたい。
多分こういう気の多すぎるところが、私の人生がいつまでたっても覚束ない最大の原因であると思うのだが、それは一旦置いておこう。
とにかくここ数年、私は好きなことで少しでも金銭を稼ぐため、ブログをアフィリエイト化したり、LINEスタンプを作ってみたり、バーチャルユーチューバーになったりしてみたが、今のところどれも鳴かず飛ばずである。
なので、この記事を読んで「面白い」「役に立った」「ざまあみろ」と感じた人は、ぜひこの記事をSNSでシェアし、バックナンバーの記事も読んでほしい。もし反応がもらえたら、ロンダ生活中の学生寮の話とかもさせてもらいたい。
まぁ最悪、これら全てが実を結ばなくとも、今この瞬間をやりたいこと、楽しいことで埋めていけば、積み上がったそれらがいつか少しだけ良い未来を見せてくれる気がするのだ。まぁ気がするというだけで、確証はないのだけれど。
私は京都大学で学歴ロンダリングをした。結末はまだ先にある。
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