損得と忖度と選択した洗濯ものの善悪は銭湯食う探索する感覚幻覚降格されて参りましたの二十畳なりけり

三日月てりり

損得と忖度と選択した洗濯ものの善悪は銭湯食う探索する感覚幻覚降格されて参りましたの二十畳なりけり

 その子に忖度という名前を付けられたのは親の親による子の為の親心からであった。いつ何時でも誰の心良さもくすぐる癖として忖度する能力を身につけさせることが出来たなら、この子が誰の元へ行っても可愛がって貰える、上手いこと立ち回れる、愛される、そんな人生を送るであろうと、送ってくれるであってくれよと、子の人生の運命を願う親心、幸せを掴めよと願う親心、嫌な目にあうんじゃ無いぞと祈り捗る親心。果たしてその行く末は、何処へ続くか続かぬか、わからないのが人の道、生まれて損損炊く炊くと、損をしながら米を炊く、そんな立場の忖度だった。

「おいソンタク! 早くお前の賃金でワシの食物を買ってきて、炊いて食わせるのじゃ! それがワシという老いさらばえた齢112歳の御老体への供物として適切なものなのじゃ! ワシを生かせば生かすほど、ワシは珍しい年齢であることに拍車がかかり、おまんまの炊く炊くが、んまんま美味しい、美味ちいなあ、とワシは喜びに塗れ、余計にほうら、食っちゃ寝、食っちゃ寝、と喜びを貪れるのじゃったにしてどっとはらい」

 身銭を切って御老体の世話を何故に忖度がするかというと見せ物としての価値が多少なりともあるからであって、このまま10年20年と時が経てば経つほど御老体の希少価値があがって群がる客達のチャリンチャリン鳴るお賽銭はきっと増えるに違いないと来て、忖度は忖度することで、忖度以上の算盤を弾くのだった。

 その夜、一人になった忖度は、誰に言うともなく言葉を発する。

「112歳の御老体の息子は90、その子は70、みんなもう御老体と言っていい。だからまとめて同じ部屋に住まわせて、御老体の不気味なる館として売り出した方がいいのだろうか、と。そこで70の御老体の50になる子とその子である30の子とその子である12の子もまとめて住まわせたなら、もしかしたらこれは不気味さではなく暖かい団欒を持った家庭に見えるのかもしれない。いいやきっと親子の連なりに人々は家庭を感じ、どこぞの犬も放り投げたらきっと番犬となって、見事な人間の家庭の領域が完成してしまうことになる。これは素晴らしい案だ。そうと決まったら早速の忖度だ。損して得取れだ。つまり損得だ。素晴らしい名案だ。皆を集めて覗き窓を付けた集合住宅の中身を見せてしまうんだ」

 今後の展開に思いを馳せ、笑いが止まらなくなった忖度は、御老体の一族を見せ物にして大層働いた。御老体は115を超え、ますます貴重な存在となっている。12だった子は15になった。その子は女で、忖度のことが好きだった。忖度はまだ18になったばかりだったが、自然の成り行きでその子を嫁にすることとなった。

 忖度たちは祝言を挙げて夫婦になって、忖度は御老体の一族の一員となった。そして忖度自身も見せ物として覗き窓付きの屋敷に住むことになった。不思議なことに忖度はそこでも忖度し、屋敷から出ても忖度した。そして家族皆の服を洗濯しながら、沢庵を食べた。誰のものでも無い沢庵を、忖度は貪り食ったのだ。

 するとどうしたことだろう、忖度は光り輝き、身長は100倍にも達し、心ならずも人間を踏み潰してしまっていた。なんという大罪、なんという悲劇、忖度は自らの罪を呪って山葵を山ほど食べ、その苦しみによって死ぬことを選んだのだ。食べすぎた忖度は、自分が倒れる場所に住む人々のことは忖度できなかった。背が伸びたことで人を踏み潰してしまうことだって忖度出来なかった忖度に、自らの予想を超えたところでの忖度などしようも無かったのであった。忖度は言った。

「沢庵よ、我が空腹を満たしてくれたこと、感謝なりけり。御老体の一族よ、踏み潰してしまい申し訳なかりけり。我は我とて私になって、鶴の羽を黄金として空へ羽ばたこう。それ優雅な飛翔を見て、永遠の心の慰めとして我を許したもれ」

 忖度は美しい18歳の鶴の女人として、空に舞い上がった。見世物小屋を覗いていた人々は皆、空を仰ぎ見て感動に打ち震えた。鶴は人々にうっとりと見送られながら、どこまでもどこまでも、羽ばたいて行くのだった。




2021/12/15 11:14

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