ハートフルランド暴走事件。

さんまぐ

第1話 記憶喪失の男。

「人は皆、生まれた時は善人だ」




遠くから音が聞こえる。

心地いい音ではない。

騒音だ。


この男は音が何か気になったので起きる事にした。


目が覚めた男は白い部屋にいた。

ドンドンドンドンと聞こえて来る。




「起きたかな?無事かい兄さん?」

そう言われた男は声の方を見ると扉に寄りかかった老齢の男性が「まだわかんないか?」と聞いてくる。


「あの…ここは?」

「俺たちの休憩所」


「俺たち?それは俺もですか?」

「ん?違うだろ?俺はお前さんを知らないよ。お前さんは客で俺は駅員だろ?お前さん頭大丈夫かい?もしかして思い切り打ち付けたか?だがこの状況で医者には連れて行ってやれないしな…」




とりあえず男は落ち着くまでこの駅員と話をする事にした。


駅員の見立てでは記憶喪失か一時的な記憶の混濁かも知れないと言われた。

駅員は駅員だから専門的な事は何もわからない。

だから医者に行くように言われた後で「だが、無理かもな」と続けた。


疑問に思う男に「これだけの騒ぎなのに警察も消防も来ない。それに電話もスマホも何一つ反応しない」と駅員が言う。


男は会話もできて警察や消防、スマホなんて事を理解できていたので駅員と少し話をした。


ここは人工島に作られた小さな地方都市「ハートフルランド」、島と本土を繋ぐのは1本の幹線道路とその上を走るモノレールだけ、それでここがそのモノレール駅の1つ「エンドランド」だった。


「駅は5つ、後はバスが細かく動いてる。エンドランドが島の1番奥、始発駅だな。それで次が病院がある病院前、その次が役場なんかのあるセンターランド、それで警察や消防のある警察前って駅になって…スタートランドに繋がって、本土にある終点…まあ本土風に言うなら始発駅に繋がるんだ。お前さんは乗客でモノレール事故に巻き込まれて記憶を失ってここに居る」


この後で駅員は「なんか身分証とかわかるものないのか?」と聞いて男が身体を調べると尻のポケットから財布が出てきた。


中にはハートフルランドの住所が記載された免許証が出てきた。


住所にはセンターランド5丁目となっていて駅員は驚いて「お前さん、金持ちか?何もんだ?」と聞いてくる。

意味がわからないので話を聞くとハートフルランドは最初にセンターランドが作られて、その時から開発に関わった人間か、住民募集を募った時にセンターランド移住権を有料で買った者しかセンターランドには住めないらしい。


「まあ今となっちゃだな。名前は?名無しの権兵衛は困るだろ?」

「…凱。五里裏 凱と書いてあります」


「へぇ、名は身体を表すんだな。兄さんはゴリラみたいにガタイがいいもんな」

「はぁ…そうですか?」


「まあいいが災難だったな」

「災難?」


「よりによって乗ったモノレールが事故ってだよ」


ここで凱は何が起きたかを駅員に聞いた。

駅員は「ハートフルランドのモノレールはセミオートで基本的に事故なんかは起きない設計になってる。まあ将来的にはフルオートにすると言う話だが今はまだ出来て3年だからホームには駅員が居て運行表を毎日確認して先に登録したダイヤでモノレールが動くように設定をする」と説明し、「今回はそれが仇になった。間違ったダイヤを指定した奴が居たんだ」と続けた。


「エンドランドに向かってきていたモノレールは正確な時間…日曜のダイヤでこの駅に入ってきた。

本来ならそれが到着して安全確認が済んだら今度は始発が出発する。

それなのにこちらの始発が予定の3分前、土曜ダイヤで出発を始めた。

減速中のモノレールと微速出発中のモノレールの正面衝突。

運悪く乗客はゴリラ1人で助け出したらこの結果だ」


凱はこの結果も気になったが「あの?こちらの始発は発つのが遅いのですか?」と聞いた。


「あ?ああ、記憶が無いんだよな。ハートフルランドは完全自給自足のモデルケースに用意された島だからな。どうしても島民だけだと回らない点があるから本土からの始発は早いがこっちから本土に始発で行く用事は殆ど無いんだよ」


ようやく駅員の説明に納得の行った凱が「成る程、ではこの結果とは?」と聞くと駅員は物凄い表情で「お前さん、ゾンビ映画って信じるか?」と聞き返してきた。


「は?」

凱はこの駅員は何を言い出したのかと耳を疑った。

自分の聞き間違いかと思ったが駅員は大真面目に「事故の少し後から俺以外の駅員がおかしくなっちまってよ。お前さんを休憩所に連れてきて横にさせて消防を呼ぼうとしたり外を見てたら襲われて慌てて避難したんだよ。

アイツら目が血走って会話にならねえし俺の事もわからねえのか本気で襲い掛かってくるんだよ」と言う。


そして寄りかかったドアを指差して「これ、ドンドン言っているのは攻め込まれている音な」と言った。

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