第2話 英雄の墓場
ダグラスの追放宣言にロクサスは必死で抵抗する。
「ちょ、ちょっと待ってください! あの場所は魔獣の巣窟になっていると聞いています! そんな場所に捨てられたら、僕は一体どうやって漫画を読めばいんですか!?」
「知るか! 死ね! 死んでください!」
ダグラスの意思は固いようだった。
話術ではどうにもならないと悟ったロクサスは最終手段に出る。
「くそっ! こんなところに居られるか! 僕は部屋に引きこもるぞ!」
「あっ! おい、逃げるな卑怯者! せめて戦え! 戦えぇぇ!」
ダグラスとのやり取りを静観していたアダムは大きなため息を吐く。
そばにあった燭台を掴んでそれを槍のように扱い、いとも簡単に逃げるロクサスを押さえつけた。
「よくやったアダム! 手足を縛って馬車に乗せろ!」
「弱すぎる……。全く、お前みたいな情けない男は見たことがない」
「いやだぁぁぁ! 俺は部屋で漫画を読むんだぁぁ!」
「はぁ……分かった、じゃあ漫画を一つだけ持たせてやる。それで向こうでも読めるだろう」
「あっ、じゃあ――」
ロクサスが漫画のタイトルを言おうとすると、アダムがそれを遮った。
「いや、持たせるのは俺の好きな漫画だ。それを読め、マジで面白いから」
「お前が布教したいだけかよ」
かくして、泣き叫ぶロクサスは別に読みたくもない漫画と共に馬車に積み込まれてしまったのだった。
◇◇◇
「――ぐべぇ!」
――数時間後。
馬車から蹴り出されて、手足を拘束されているロクサスは情けない声を上げる。
どうやら、『英雄の墓場』に到着してしまったらしい。
目隠しもされて、周囲の状態が分からないロクサスの耳に、ガラの悪そうな使用人たちの声が聞こえた。
「へっへっへっ、霊媒師だが何だか知らねぇが一人でブツブツ喋ってるお前を見て俺たちは正直気味悪いと思ってたんだ」
「大人しく野垂れ死ぬんだな。ここは立ち入ったら最後、『二度と出れない』と言われる濃い霧の中だぜ?」
「……お前らはどうやって出るの?」
「……あ」
ロクサスが素朴な疑問を口にすると、静寂が訪れた。
まさかのまさか、こいつらはそのことを考えていなかったらしい。
「い、いや! 俺たちには馬車がある! ここまで入って来れたんだから帰りだって余裕だぜ! じゃーな!」
……馬車が出発して間もなくすると遠くから悲鳴が聞こえた。
ここは霧が濃いと言っていた。
恐らく来る道の馬車の音で魔獣が集まり、帰り道でやられたんだろう。
(くそ、どうにかこの状況から生き残る方法を探さねぇと……。何が不毛の土地だよ、不毛なのはテメーの頭だろーが!)
心の中で悪態をつきながら、ロクサスは生きるための方法を必死に模索した。
まだ読んでいる途中の漫画の続きが気になるのだ。
その作品が完結するまで、ロクサスは死ぬわけにはいかなかった。
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