英霊使いの劣等生~最強の元英雄は正体を隠して平穏な学園生活を送ります~

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第1話 理不尽な国外追放


「ロクサス! お前を我がクーフーリン家より追放する!!」


「あっ、やっぱり?」


 槍使いの騎士の名家クーフーリン家。


 その当主、ダグラス=クーフーリンに追放を言い渡され、ロクサスはそのような返事をしてしまった。


 ロクサスは慌てて言い直す。


「そ、そんなっ!? お父様あんまりです! ご自分の愛する息子になんたる仕打ちですかっ!?」


 表情筋が死んでいるロクサスだが、本人なりに必死の演技をしている。

 何とか追放を免れようと、死んだ魚のような覇気のない瞳を潤ませる。


 しかしダグラスは呆れた表情でため息を吐いた。


「いや、お前……実はウチの一族の人間ではないだろう?」


 図星を突かれ、ロクサスはダラダラと滝のような冷や汗を流す。


 指摘の通り、ロクサスはクーフーリン家の者ではない。


 異世界転生して来たのだが、チート能力なんてもらえず。

 死にかけの中、衣食住を手に入れるために生き別れの息子だと嘘を吐いてこの屋敷に転がり込んでいるだけなのだ。


 ロクサスはなんとかお得意の話術で乗り切ろうとする。


「な、何をおっしゃるのですか!? 正真正銘、お父様の息子です! 目も耳も2つありますし、口と鼻は一つずつあります、こんな偶然ありえますか!? 確かにお父様と頭髪の毛量は大きく違いますが――」


「ワシの頭はハゲているわけではない! これは……焼き畑農法だから! また生やすために一旦リセットしてるだけだからぁぁ!」


 ダグラスはロクサス以上に涙目になりながら頭を手で隠し、必死に叫ぶ。

 そんなバカげた様子を隣で見ていた次男のアダムがしびれを切らして横槍を入れた。


「父上! 今は父上がハゲ散らかしていることなどどうでも良いのです! いつものロクサスの話術に誤魔化されてはいけません!」


「だからハゲてねーって! 髪がワシの成長についてこれてないだけだから! 戦闘のインフレについてこれない初期キャラみてーなもんだから!」


 ギャーギャーと騒ぎ立てるダグラスを諫めると、兄のアダムは厳しい瞳でロクサスを睨んだ。


「ロクサス、お前が本当に俺の弟だと言うのであれば、なぜお前には槍の才能がないのだ? 我がクーフーリン家は伝説の英雄クー・フーリン様の正当な血族である。それなのにお前はどれだけ鍛錬を重ねても一向に槍が上手くならんではないか!」


 ダグラスも自分の頭髪を隠すように頭に王冠を載せると、疑念をさらにぶつける。


「しかもお前、ステータス判定の結果全部最低値だった上に『霊媒師シャーマン』とかいう外れジョブだったと聞いたぞ? 生きてて恥ずかしくないの?」


 2人の追及にロクサスは落ち着いて答える。


「お父様、落ち込むことはありません。ご自分の髪すらも育てられないのですから、僕を立派に育てられないのも仕方がないことだと思います」


「何でワシが励まされてるの? いや、お前だよね? お前が鍛錬サボって漫画ばっか読んでるからだよね? せめて魔術書とか歴史書とか読めよ」


「ですが、お父様。漫画は『友情・努力・勝利』を僕に教えてくれます。僕の人生の教科書なのです」


「全てお前が手にしてないモノだよね!? 友達いないし、努力しないし、負け続けの人生だよね!?」


「お父様、またロクサスに話を逸らされていますよ、話を戻しましょう! 最近の漫画は割と王道なコンセプトから外れた挑戦的な作品も人気で――」


「そっちに戻してどうすんだぁ! お前らどんだけ漫画好きなんだよっ!?」


 ゼェゼェと切らした息を整え、ダグラスは今一度ロクサスをじっと見つめる。


「……そもそも、我が一族はみんな黒髪のさらさらストレートヘアなのに、なんでお前はモサモサ頭なの? ずっと寝癖付いてるの?」


「確かに僕の髪はクセっ毛です……アダムお兄様のようなストレートヘアが凄く羨ましいです。お父様、ですが……」


 ロクサスは少し我慢したような表情を見せた後、口を開いた。


「――髪が無いよりはマシだと思います」


「それもそうか! あっはっはっ!」


 ロクサスの言葉にダグラスは大笑いする。


「そうですよ! あっはっはっはっ!」


 そんな様子を見て、ロクサスもホッとしたように便乗して笑った。


「あっはっはっはっ! ――ふぅ」


 ひとしきり笑った直後、額に血管を浮かび上がらせてダグラスは屋敷中に響き渡る声で宣言した。



「ロクサス! お前を不毛の地『英雄の墓場』に国外追放する!!!」



 こうして、外れジョブ『霊媒師シャーマン』のロクサスは凶悪な魔獣たちがのさばる土地『英雄の墓場』への追放を宣言されたのだった。

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