第10話 遮断障壁
そもそも俺が勇者の使徒などという面倒な存在の訳がなく、人違いであるに決まっているのだ。
だから卑怯とかせこいとかは今回に至っては通じない。自覚してるからあんま責めないで心折れるから……
表向きは旅支度になるが、なるほど通貨や物価がなんとなく分かってきた。
1レーネ=10円=レーネ小銅貨
10レーネ=100円=レーネ銅貨
50レーネ=500円=レーネ大銅貨
100レーネ=1000円=レーネ銀貨
1000レーネ=1万円=レーネ大銀貨
といった感じだ。基本1桁デノミしたようなもんだ、計算が楽でいい。
つまり1000レーネ は 1万円 感覚ってこと。
物価はほぼ同じだが旅人が多く利用するため、宿屋や酒場の値段はかなり安いという印象だ。
王都の商店街は、多くの人がごった返す活気にあふれた街の匂いを運んでくれる。
嗅いだことのない香辛料の香が鼻をつき、干し肉や野菜、食べ歩き用の屋台などが立ち並び食糧事情はかなり豊かなほうだと思わせてくれる。
そういえば出された食事は中々の質と量だった。この俺に対してもだ。
豊かな国なのだな。という俺の第一印象は、ある路地を通りかかった時に脆くも崩れ去ることになる。
獣の耳を持つ子供たちや大人、いわゆる獣人族たちがスラムのような荒れた路地裏で、擦り切れたボロ布を身に着け暗くじっとりとした目で行きかう人々を見つめていた。
ああ、彼らはこの社会からはじき出された弱者なのだ。
見放され、やせ衰えた痩躯で食べ物を探す姿に、胸がズキリと痛む。
何甘えたことを言っていたんだ。
俺が見ていたのは王国の光と影、そしてこの国の歪みだ。
勇者神殿の司祭や利権を持つ貴族たちは肥え太り、香水の匂いをまき散らし贅沢をしていることは一目瞭然であったし、街に出て分かったことは勇者神殿や騎士団の多くが金髪であるということ。
身分が下がるにつれて、金髪がくすみ、茶色になり灰色になっていく。
俺のような黒髪を蛇蝎のように嫌う理由の一端が少しだけ分かったような気がした。
想像だがラナも輝く金髪であることからも、勇者の容姿に近いいわゆる金髪の白人系が優位を占めているのは言うまでもない。
そして獣人は忌み嫌われている。
ケモミミの子供たちはすごくかわいかったのに――いや、俺はそっち系ではない。同世代が好きなタイプでロリ属性はない。発現する可能性は否定しないが今のところない。
大きなおっぱいのお姉さん属性に弱いただの童貞です。でもあの耳をモフモフしてみたい……
ふと考えてしまった。
ある街でドラゴンが暴れていると、これを止めることは彼らのような弱者を救うことに繋がるのかってこと。
大きな流れでは繋がるだろうし災害では弱者が一番割を食うことになる。
ただ単に己が生き残りたいから逃げ出せばいいっていう考えをしていたことに、わずかながら罪悪感が付きまとい始めた。
魔石売却の隙がなく、いや貧民街の有様にショックを受けとぼとぼ城の一室に帰ることになった俺はしばらくぼんやりと考え事をしていた。
< 精神状態の変動により、遮断障壁スキルを獲得しました >
遮断障壁?
襖程度の半透明の薄暗い壁が目の前に出現している。
強度はどのくらいなのだろう?
テキストの説明によれば――人との関わりに抵抗を感じる精神が生み出す障壁とあるから、なんだATフィールド系?
どちらにしても、俺の覚悟が生み出す障壁であればたかが知れているし、どうせ強度だって障子並みだろう。
暇なときにラナをテストに利用してみるか。
こうして俺はまた流されるままに、王都を出立した。
ラナと二人しかいない乗合馬車に揺られて宿場村を利用しつつ、二日かけて目的地であるフォルボロイの街へ到着した。
言い忘れていたが、この国の人々は極度に暗がりや夜闇を恐れ嫌う傾向がある。そのために宿場村が整備されており、よほどの物好きでなければ道中で野営などまずしないらしい。
気になったのは王都へ向かう荷馬車が多かったこと、御者が聞き込んだ話によれば街から王都へ避難している人々らしい。
王都リシュタールと比べるべくもないが、こじんまりと湖に面した街は非常に落ち着いた雰囲気の観光地という印象が強い。
だが、暴れる白竜のせいで街には日中でもあまり人がおらず、かろうじて営業していた宿に部屋を取った。
主人は疲れた表情の爺さんで、俺たちを歓迎してはくれたが白竜の被害は思った以上に深刻だったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます