第5話 陰キャの力
「固有結界 トイレ 発動! 陰キャの聖地で好き勝手しやがって。聖騎士だかなんだか知らねえが、卑怯だと? 3人がかりで丸腰の相手を嬲り殺すことが正義だとでもいうのか?」
「だ、だまれ!! このような能力を隠していた貴様が卑怯だというのだ! キースの仇いいいいいい! ぐぼっつへぇ!」
恐らく通常で戦えば、1秒とかからず俺はなます切りにされて息絶えていたことだろう。
だが、職業【 陰キャ 】の特殊能力である固有結界:トイレの中では能力が数倍から数十倍に跳ね上がる。
しかも、【 反骨精神 】の補正つきだ!
猛烈な突き技を仕掛けてきた剣先をくるりと避けながら、背中に回って後頭部を掴み思い切りトイレの壁に叩きつけてやった。
トイレ内での狭い身のこなしについては場数が違うんだよ! 実習棟の最上階トイレ個室で何度昼飯を食べたと思っている!
ぐしゃりと嫌な音がして崩れ落ちるダリル。大きな体をびくつかせながら小剣を抜いた騎士が距離をとっている。
オマーだったか、レベル31だが巨体の割に慎重な男だ。
「姑息な技を使いやがって、正々堂々と勝負しやがれ!!」
「お前が言うな! 3人がかりで丸腰の相手を殺そうとしてた奴が言うセリフじゃねえだろ」
「ぬぅうう!」
本気で言っているであろうから質が悪い。
ならば……試してみるか。
「シャドウマスク」
脳内ステータスの補足メモに、習得魔法は詠唱が不要なものがありシャドウマスクもその一つだった。
手元からぬめり気のある影がべちゃりと飛び出すと、奴の顔に向けてシュンっと着弾した。
小剣で切り払おうとしたが実体のない影魔法のため空を切り、アイマスクのように視界を奪うと悲鳴をあげながら拭き取ろうと必死だ。
壁に激突し、鏡を割り、のたうち回って恐怖におびえている。
「ぎゃあああああ! 闇だ! 影だ! おのれ悪魔の手先めえええええ! やだああああとってええええええ!」
そこで俺は壁にめり込んだままのダリルの頭を掴むと、再びのたうつオマーへぶん投げた。
「ぐへっ!!」
無防備に人の体の直撃を受けたオマーも失神し、3人共に生きてはいるがそれなりの怪我を負い戦闘は終了した。
その様子を見つめていたラナは目を丸くしながら、呟いた。
「なんでトイレ? ああああ分かった! きっと訓練場を汚したくなかったからなんだ! カゲミツ様ってやっぱりすごい!」
◇◇
ここだけの話です。絶対誰にも言わないでね……
でもよく考えたらトイレだからさ、そのここでは漏らしたことにならないよね。決して人を傷つけたことにびびっておしっこ漏らしたりしてないから!!
トレイする場所がちょっとずれてチャックを降ろす手順飛ばしただけだし!
ごまかすために水を何度も浴びたこととかも絶対ばれてないから!
「さすがですカゲミツ様! 最初はびびって漏らししたのをごまかすために水浴びしてるかと思ったけど、水をかぶって高ぶる精神をコントロールしようとしてたなんて……私本当に早とちりでした!!」
馬鹿のくせに鋭い!
「……はい、すいません」
ばれてたし! ……ああ、死にたい。
・
・
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予想外の事態に再び尋問室へ放り込まれた俺は、世話役のラナと一緒に待つことになった。
この子は物おじせず、すぐに着替えを持ってきてくれたので、若干漏らした事への自己嫌悪で死にたくなっていた俺は素直に受けることにした。
ラナはおしゃべりな子だった。
「カゲミツ様はすごいです! あれだけ強ければ私だったらすごいだろ~えっへん! って自慢しちゃうのに、実力を隠しておくタイプなんですね。かっこいいなぁ」
「……」
どうせお世辞だろう。
それよりも、俺には確認しなければいけないことがある。戦闘ログのチェックだ。
脳内ビジョンに、戦闘ログのようなデータが表示され――あった!
< レベルが上がりました。経験補正スキルにより取得経験値が増加しました。レベル1からレベル4へアップ >
何々補足事項が……敵モンスターを討伐した状態では全経験値が取得できますが、対人戦闘かつ戦闘不能状態での決着のため取得値は20分の1に減少します。
それでも3上がったのか?
何々?
ステータス系は多少伸びてはいるが、影魔法の枠が一つ増えていて――シャドウスネア?
< ※ 影魔法Lv2 シャドウスネア >
影で敵の足首を捉え一時的に動きを止める男らしくない呪文……ほっとけ。
シャドウマスクが非常に有用な呪文だったが、これも使い勝手が良さそうだ。下手な攻撃呪文よりもこういう妨害系を使いこなすほうが俺の好みにあっている。
シャドウマスクは射程があまり長くはないが、スネアはほどほどに長いようだ。
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