第4話 固有結界
「ロドム団長、早く始めてはいかがかな? このような偽物はとっとと化けの皮を剥がして処刑するに限る」
「処刑はやりすぎだが……丸腰という訳にもいかぬだろう、好きな武器を」
「待たれい! 勇者の使徒として多くの魔族を打ち破った至賢者ユノスは武器など必要なかったと伝えられている!! この者に武器を与えることは認めん!」
勇者騎士団? 光の勇者神殿? などと似通った組織があるようだが、ようは勇者の名を利用しているだけの奴等で一枚岩ではないんだな。
じっとりと闇を愛でるような俺の視線に司祭たちが目を逸らしていく。
対戦する予定の聖騎士たちの眼光は鋭く、逆にそんな視線を合わせるなんて高等スキルは持ち合わせていない。
< 固有特性 【 びびり 】 が発動しました >余計なお世話だ!
現状のUIのおかげでなんとか思考速度が上がっているから対応策を考えることができているけど、実際の経過時間は1分もない。早急に俺を始末しようという意図が奴等に見て取れる。
この状況を打破するには何かないか、ずるでも卑怯でもいい……
「あっ……」
思いついてしまった。というよりこれ以外に対応策はない。俺のような貧弱な体格で奴等に勝つ方法……
大きな声を出すのが怖いけど、精神を大きく削ることになるが叫ぶしかない!! 死ぬよりましだ!
「ひ、一つだけ条件が……あ、ある!」
開始の笛を吹こうとしていた審判役が明らかに不快な視線をぶつけてきた。
「聞こうか」
反応したのは騎士団長のロドムだ。
「こ、このく、訓練施設、全部を戦場……にしても……」
大きい声を出したことだけでも心臓が張り裂けそうだ。もう陰キャになんてことさせるんだよ!
「我々は構わぬが、神殿の皆様もよろしいか?」
「やれやれ! 好きなようにやって早く蹴りをつけてしまえ、面倒だな、開始!」
慌てて吹かれた笛に合わせ、聖騎士たちが舌なめずりをしながらゆっくりと迫っていく。たいそうな肩書だが表情は邪悪で聖騎士らしさも感じられない。
一方ラナだけは元気にまったく疑うことなく応援してくれている。
泣き出したくなりそうな心を、背中をそっと押してくれるような気がした。
さてやってやるか! パッシブの反骨精神が恐怖を奥にとどめおいてくれているのを感じる。俺はラナが高速移動でこの訓練場に来たルートを脳内で再現する。
恐らくあの場所に辿り着ければ。目標設定が明確になったことで反骨精神のスキルが怯む足を一歩前へ押し出してくれた。
意を決すると俺は全速力で訓練場から飛び出す。
逃げると勘違いした俺を奴等が怒鳴りながら追いかけてくる。
「卑怯者!」だって。
3対1でフルボッコしようとしてる相手が言うセリフかね。
石材と木造の混合建築であるが、頑丈な造りであることには違いがない。
廊下を駆け抜け、目的地とあたりを付けた場所に転がり込むとドアを閉めて中に隠れる……
そう、ここはぼっちの……陰キャが最後に逃げ込める場所……
呼吸を整えながら、奴等が部屋へ入ってくるのを待ち構える。
「おいおい、新しい使徒が偽物ってのは本当らしいぞ、しかもドアがひとつだけ締まってやがる!」
聖騎士たちが嘲笑と侮蔑の笑いをドア越しにぶつけてきた。
誰かが戸を蹴り、剣の柄でゴンゴンと乱暴にノックをしている。
「怖いでちゅか~? ママのおっぱい吸っておいで?」
「哀れな奴だぜ、3人で相手することもねえ、キースお前に手柄をくれてやる」
「待ってくれよ、こんな奴一人で倒したところで手柄もくそもないだろ」
「そいつは言えてるぜ、じゃあとっととこいつを引きずり出して両腕でも切り落としておけ」
両腕を切り落とす?
随分荒っぽい世界だったんだなここは……
レベル1の貧弱な俺がレベル30以上の屈強な騎士3人を倒すなんて、逆立ちしたって無理だ。
だからこそここに逃げ込んだんだ。
< 固有技能発動条件を達成…… >
「くたばれこの軟弱根暗野郎!!」
「固有結界、発動」
破壊されたドアに入り込もうとした聖騎士のキースが突如、仲間の視界から消えた。
遅れて響いた衝撃音が後方から聞こえたことにオマーとダリルが振り向くと、全身の骨を砕かれ壁にめり込む瀕死のキースの姿が目に飛び込んできていた。
「なっ!? って、てめえがやったのか!」
「よくもキースを!」
「くくくく……ここがどこかも知らずに飛び込んだお前らの負けだ、ここはなぁ! 陰キャの聖地だぞ! 固有結界 【 トイレ 】 発動!!」
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