第2話 職業 陰キャ

 奴等の尊大不遜な態度と言動に腹は立ったが、そもそも言い返せるほどにコミュ力や度胸があるわけでもないので、流されるまま連行されることにした。


 どうやらあの秘密結社ぽい儀式スペースのような場所は城の地下にあったらしく、年季の入った螺旋階段を登っていくと体力のない運動不足の俺のことである、すぐに息切れする始末。


 その様子に、衛兵らしきプレートアーマーを着た男が侮蔑の視線を投げつけてくる。


 連行されたのは尋問室のような場所で木製テーブルと椅子、一応窓ガラスがあり調度品はサイドボードや壁かけのランプや暖炉ぐらいなものだ。

 かび臭さが鼻につくのであまり使っていない部屋だったのだろう。


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「えっと、暗沢影光くらさわかげみつ ……18歳、だいがくせい? 職業【 陰キャ 】と、ステータスウインドウにはロックがかかっていてこちらからは閲覧できないな、まあどっちにしても大外れな部類だろうから気にもしないがな」


 尋問官のような中年の男が嫌味を言いながら質問を続けていくが、ぼそぼそとしか話さない俺の態度に怒りを蓄積していくのが分かる。


「ちっ目を合わそうともしねえし、暗いし、こんなのが勇者様どころか使徒のわけがねえ! こっちまで気持ちが沈んできやがるぜ」


 椅子を蹴って立ち上がった男は飽きれたのか、記録係を連れて部屋を出て行ってしまう。


 はぁ……人との会話がきつい……ましてや尋問となれば言うに及ばず。


 さて……


 陰キャ? 


 そんなの知ったことじゃないが、どうやらこの先のセリフはお決まりのテンプレなのであえて言わない。絶対言ってあげない!!


 光輝く資質や驚異的な知識や技術を持って生まれ変わったのであれば、異なる世界へ順応することも可能だろう。


 だが俺のようにただの陰キャにできることなんてたかが知れている。


 奴らの言い分としては、勇者が出現した際には共に使徒として邪悪に立ち向かう存在らしいが……


 RPGではモブ雑魚として処理される衛兵ですら、逆立ちしてもかないそうないし。


 元々体力はないし、運動神経は普通レベルだと思うけど持久走? 殺す気ですか?


 勉強はまあやることなかったし、いじめる奴等を見返したいという思いがあったおかげで都内の国立大学に入れる程度の学力にはなんとか到達した。(東大じゃないよ)

 だとしても特技があるわけでもなく、音楽や美術に造詣が深いわけでもなくアニソン好きで、思いついたように買ったペンタブでイラストの練習をちょっとしたぐらい。


 コミケも興味はあるが怖くて参加できないヘタレで陰キャなんです。(お腹壊したらすごいことになるらしいし)


 どこにでもいると言えば、平均値付近の皆様に申し訳がないのでヒエラルキーかなり下の人間ですよはい。


 元の世界に未練がないかと言われれば、かなりある。非常にある。


 陰キャな俺でも、好きなアニメやゲームの続編をプレイしたいからがんばって受験も乗り越えたし、大学生活だって……


 初日のオリエンテーションで見事にボッチレールの敷設に成功したので、快適なソロプレイを楽しめるはずだったのに。


 いかれたサークルなんぞに関わることや、面倒ごとのリスクを避けたかったから丁度いい。


 計画通りです。


 計画通りです……



 いかんいかん。となれば元の世界に戻る方法を探すべきだ。目的設定は重要だ。


 俺の行動目的、優先事項は元世界への帰還方法を捜す。


 VRのエロゲー買ったばっかりなのに!!


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 とりあえず、目的達成のために必要なことは情報収集と分析だな。


 この押し込められた部屋は欧州で見られるような西洋式の城や建築物に近い。


 カーテンや紙製の本、ランプなどがあることから文明レベルはそこそこ。


 衛兵が来ていたプレートアーマーも、モブキャラが装備しているにしては細工も加工もかなりの技術水準に思えるから、基礎的な技術レベルは高いのかもしれない。


 最も気になるのが【 勇者 】 というキーワード、そして魔法、もしくは魔法に準ずる技術体系の存在だ。


 様々な考察をし確認しなければいけない事項が山積みだが、思考実験をしているようで若干楽しくはあった。


 俺を陰キャ呼ばわりしたければ勝手にしてくれ、事実だからね。


 でもただ死ぬつもりはない。


 内向的というのは、深く考え洞察する訓練を日々しているのと一緒だということを忘れてもらっては困る。


 唐突に思考へ空白を作るようなイメージ想起と同時だった。


 脳内モニターにステータスウィンドウらしきものが浮かび上がる。視覚情報ではなく、思考内にくっきりと投影される情報というべきだろか。


 そのため視野を圧迫したり邪魔することはなく、確認したい項目がするりと表示? 想起されるイメージ、整理するとこんな感じか。


 UI (ユーザーインターフェース) が自分の思考レベルや意識する状態において自由自在に変わるという印象だ。


 名前: 暗沢影光 くらさわ かげみつ

 年齢: 18歳


 クラス: 陰キャ


 レベル:1


 ステータス


 筋力:7

 耐久:5

 知力:16

 器用:15

 敏捷:13

 魔力:9

 コミュ力:2


 スキル・魔法


 影同化  Lv1

 影魔法  Lv1 シャドウマスク

 鑑定   Lv3

 経験補正 Lv4



 なるほどこれらをウインドウ形式ではなく、意識するだけで項目が変わるのは便利だ。


 ステータスの補足情報が呼び出せたけど、一般人の平均数値が9ってことは俺相当打たれ弱いんだね、心も体も…… そして気付かないとでも思ったか!

 コミュ力なんてステータス項目まで用意しやがって……2って、まあ妥当かな。


 そして気になるのは、【影魔法】 ?? 陰キャって魔法使えんの!? 童貞だけどまだ30になってないよ?

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