異世界転移したら、職業「陰キャ」だった件

鈴片ひかり

第1話 異世界転移

 『 異世界転移現象の免疫実験? 』


 神よ、異世界間での転移が多発し問題が起きているようです。


 干渉未経験の世界同士で影響力の小さいゴミ、いわばこの世界に不必要な無能を相互交換して世界に抗体・免疫を持たせるという実験になります。


『 なるほど、ワクチン接種みたいんもんね。無能だったら何もできないしなぁ、よしやっちゃって 』


 では、さっそく連れてきておりますので送ってしまいましょう、名前は 暗沢景光(くらさわ かげみつ) 根暗そうな名前ですなぁ。



 ◇


「えっと、話聞いてた? 分かった? 分かってなくてもまあいいや」


 ”

 何もない真っ白い空間に浮かぶ光の塊みたいな奴が、やる気のない口調で言い放つ。


 俺は大学で授業を受けていたのに、突然こんな場所に連れてこられ偉そうに命令されなければいけないんだ。


 イラっとしながら、どこのどいつだと声の主を探すが誰もいない。お高くとまった何かえぐい存在なのだろうか。


 パチンと指が鳴ったと同時に、足元の床が抜け俺は自由落下で落ち続けていた。


 悪態や文句を言おうにも抗う術もなく、ただ意識が遠く掠れ消えてくのを味わうのみ。


 一つだけ心残りがあるとすれば、勝手に拉致してこのような目に合わせる連中に対する怒りだったと思う。

 ”


 誰もいなくなった床を閉めると、天使はあーめんどくせーと悪態をついていた。


「根暗そうな奴だったな、さすが無能だ……ん、あれ? あっ! リスト間違えちゃった。えっと、陰キャだが可能性を秘めた人材リスト1位……まあいっか!」


 天使は書類を投げ捨て、スマホでチャラい会話を始めるのだった。


 暗沢景光は、世界と神から捨てられた。一言の別れや謝罪の言葉すらなく。



 ◇◆◇



 ガツンと、頭を何か固いもので小突かれていた。


 痛みから広がる波のようなものが全身の感覚を蘇らせていく。どうやら石のようなひんやりとした滑らかな床に俺は寝ていたようだ。


「起きろ!」


 荒々しい男の声で意識が覚醒に向かい、はっと起き上がるとそこは……


 薄暗い地下室ような空間で、周囲の壁には青白く燃える炎の松明が掛けられている。


 一瞬脳裏に浮かぶのは邪悪な儀式? 俺はその生贄なのか?


 そう思えるほどに周囲の状況は禍々しいモノとして俺の目には映っており、どちらにしてもまともな状況とは言い難かった。


 俺がいたのは部屋の中央にある円形状に加工された大理石のような儀式台?


 幸いにも怪我はなく、バックは失っていたがスニーカーも黒系のスプリングコートも無事だ。もちろんスマホは喪失している。


「おい、なんだこいつは!? 勇者様とは似ても似つかぬ貧相で死体のような男ではないか! しかも至高の黄金の髪ではなく、汚らわしい黒髪とは!」


 年配のじじいが何やら叫んでいるが……なんだあの服は?


 ローブを着た連中を怒鳴りつけている。 コスプレパーティー?


 ロールプレイゲーム?


 様々な推測が頭を駆け巡るが、話している内容や口調からどうにも嘘を言っているようには思えない。



 ”

 ええい! 女神めがみ神殿の連中が、この地! この時に、勇者の使徒が降臨するというから待っておれば、なんだこのぱっとしない貧相な男は!


 しかも勇者のお姿とはかけ離れた、あの死に損ないの奴隷のような有様はなんだ!? 


 黒髪に猫背、陰湿そうなあの三白眼と特徴のない顔つき。


 しかもだ、目を合わそうともしないあの態度は何なのだ!?


 ”


 司教猊下とちやほやされている太った男が大声で不満をまき散らしている。


 つまり俺はこっちの世界に……定番の、手垢すら付きかけたあの、異世界召喚されてしまったと……


 勇者の使徒! と期待していたら、俺のような期待外れの最低閾値を引いてしまったと。


 失礼にもほどがあるが、まあ俺がそうなら同情もしたくはなる。


 ローブ姿の小男が俺に水晶玉を向けながら、震える声で語りだした。


「ゆ、勇者の使徒として……しょ、召喚されたことをありがたく思うがよい! して貴様の適正職業を判定する!」


 水晶玉が徐々に変化を遂げていく。明滅を繰り返し光が落ち着いた時、ローブの男は眉をひそめゴミでも視るような目で呟いた。



「職業…… 陰キャ ?」



 どうやら俺の職業は【 陰キャ 】 だったらしい。




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