架空読書日記
西桜はるう
1冊目 『シャーロック・ホームズの不倫』
寒い。とにかく寒い。ニュースによると大寒波が押し寄せているらしい。
雪は降っていないのに、空気がぴんっと張りつめているがわかる。
とりあえずストーブをつけよう。父にねだって買ってもらっただるまストーブのスイッチを入れ、その上でやかんでお湯を沸かして部屋の加湿もする。女に乾燥は大敵だもんね。
今日はたまたま本屋で目が合った『シャーロック・ホームズの不倫』を読む。
ハーレクイン系かと思ったら全然ちがうようだ。
シャーロック・ホームズは正典では確か結婚していないはずだから、相手の女性に旦那がいたということになる。いや、そもそもの設定を踏襲していなければ、なんでもアリか。
あらすじを読んでみる。
『かの有名な私立探偵シャーロック・ホームズは不倫をしていた!?相手は依頼人でもあったさる侯爵夫人。やさしい夫も持ちながら彼女はなぜホームズとの不倫に手を染めたのか?彼女を惹きつけた「男」としてのホームズの魅力とは?そしてホームズ自身もなぜ不倫を選んだのか……?』
ふーん。ホームズが不倫をしていた可能性を解説する解説書かとも思ったけれど、こりゃ完全にパロディ小説だ。
表紙にはビクトリア時代を思わせるドレスを着た女性(お世辞にも美人とは言えない)と超絶美形のホームズが描かれている。この表紙に釣られて女性が買いそうだな。
冒頭はこんな感じだ。
『かの有名なシャーロック・ホームズが不倫をしていたのを読者はご存じだろうか。これはその秘めた恋をつづった物語である』
ほお。ホームズも『男』だったということかな。とりあえず読んでみることにする。
文庫にして総ページ数は348ページ。そこまで分厚くないし、そんなに時間はかからないと思う。
うーん。
読了してみてびっくりしたのは、ホームズの不倫相手である侯爵夫人が二股をしていたこと。ホームズでは飽き足らず、別の私立探偵とも不倫関係にあった。探偵フェチなのだろうか。
しかももう一方の私立探偵がどう考えてもダメ男でホームズとは正反対。ホームズの変人ぶりも正典では大概だけれど、片っぽは探偵業だけで生活でき、片っぽは探偵業だけでは生活できていない。そういう意味で正反対なのだ。
彼は侯爵夫人にほぼ生活費を全額負担してもらっていたのだ。しかし、ヒモではない。なぜなら、貴族間での浮気調査や貴族のペット探しなどの現代の探偵と似通った探偵業で微々たる収入があったからだ。でも微々たるものすぎて生活はしていけない。じゃあ別の仕事を掛け持ちすればいいのに、勝手にホームズをライバル視して探偵の仕事以外しないのだ。
侯爵夫人はそこに母性を感じちゃったんだろうね。
『こんなに頑張ってるんだから、わたくしこの子をが守ってあげないと!』って。
で、逆にホームズは侯爵夫人にとって完璧な探偵だった。
そのコントラストがなんとも言えない物語だったなあ。
なぜ侯爵夫人が『探偵』という立場の人にこだわって不倫したのかは最後まで謎だったけど、特殊職業フェチでもあるのかもしれないな。
しかしこの本のいちばんのサプライズはミステリじゃないという部分だ。
これ、ただの不倫ものの恋愛小説だった。
海外文学の棚の、しかも正典のシャーロック・ホームズの横にあったのに……。
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