アライさんとゆく未来

@tyma_kfpg

第1話

あの日のことは今でもときどき夢に見てうなされる。

迫りくるセルリアンの大群、どこかで上がる誰かの悲鳴、壊されていくセントラルの建物……。

もう一度奇跡を。

きっとそこにいた誰もが願っていたはずなのに、二度目の奇跡は起こらなかった。


私は今度こそ、私が好きなこのパークを、私を救ってくれたこの手の温もりを守りたい。

起こるかどうかわからない奇跡に頼らなくてもよい手段があるのなら、それを選ばない理由はない。


======


その日、私は定期検診を受けるため、パークセントラルにあるけもの病院を訪ねていた。

この姿になってからは昼間に活動していることの方が多いのだけれど、動物のときの活動時間に合わせてわざわざ夕方の遅い時間の予定を入れてくれたようだった。

滞りなく検診を終えて、病院を後にする。丸い月が見え始めた東の空を見ながら伸びをしたそのとき、頭の中に声が聞こえた。


『明朝、パークセントラルにセルリアンの大群がやって来ます』

『戦える者は心の用意を、弱いものは逃げる用意を』


内容の不穏さとは裏腹に、暖かで不思議な力を感じる声だった。

私と同じように周囲を見回している子たちやパークスタッフさんたちと目があい、どうやらこの声はみんなに聞こえたらしいことがわかった。


セントラルにセルリアンがやってくること自体は珍しくない。セルリアンが輝きに引き寄せられる性質を持つ以上、パーク最大の都市であるセントラルは必然的にセルリアンを引き寄せるからだ。

ヒグマを筆頭に、力自慢の子たちが交代でセントラル周辺のパトロールをしていて、今までそれで大きな問題があったという話は聞いたことがない。

だから今回も大丈夫だろう……とは私には思えなかった。あの声は、もっと恐ろしいことが起こると警告している。


スタッフさんたちが慌ただしく動いている様子をぼんやりと眺めながら、私は思考を続ける。

パークセントラルはジャパリパークの中心地として、ヒトの居住地、商業施設、そしてサファリに出ていない動物たちの管理や展示などを行う1つの大きな街として機能している。

『弱いものは逃げる用意を』、あの声はそう言っていたけれど、ヒト、アニマルガール、そして動物たち全員が朝までに安全な場所に避難することは、簡単じゃないはずだ。

意思の疎通ができて歩ける者たちなら、一時的に別の場所へそれぞれ移動してもらうことはできる。けれど、動物たち、特に病気や怪我でここに入院している子たちは、誰かの手を借りなければ動くことができない。

私はヒトの世界のルールをよく知っているわけではないけれど、いわゆる猛獣たちや毒をもつ生き物たちをどこかへ移すのだって大変なはずだ。

もちろん、セルリアンを迎え撃つ準備も並行してやる必要がある。手はいくらあっても足りないだろう。今から準備して明日の朝までに間に合うのだろうか。

ヒト、アニマルガール、動物たち、そしてこのパークセントラルの街並み。その全てを本当に守れるのだろうか。それこそ、奇跡でも起きないことには――。


そこまで考えたところで、急に目の前が明るくなり、私は顔を上げた。

てっきり自動車のライトかなにかだと思ったその明かりは、けもの病院を……いや、セントラル全体を包んでいた。

この光は、うーん、あえて言葉するなら『想い』が可視化されたものだろうか。説明するのは難しいけど、私にもなんとなくわかる。

強い者たちで手を組んでセントラルが直面する危機に立ち向かうため、弱い者たちで助け合ってセントラルから逃げ出すため、けものたちの想いが通じ合って起こる、それはまるで奇跡のようなハーモニー。


数瞬ののち光が消えたセントラルはさっきまでとは違う意味で大騒ぎになっていた。

目に見える範囲に大きな変化はないけれど、まだ気持ちが通じ合っている私たちにはわかる。

新たにアニマルガールになった子たち、怪我が治ってはしゃぐ動物たち、何が起きたかわからず呆然としているパークスタッフさんたち。

アニマルガールと動物たちと、それから少し遅れて状況を理解し始めたヒトとが手をとりあって、一世一代の大脱出劇が始まった。


私も少し遅れて誘導に手を貸す。

動物とアニマルガールたちのなす列の先頭でみんなを先導するあの子。

モデルのようにスラリと長い手足と、大きな耳のシルエットだけでは誰なのかわからなかったけれど、街灯に照らされ、オレンジ色の髪の毛を見てようやく気が付いた。彼女は……。


======


「あの時……セルリアンが襲ってくる前の夜、けもの病院で声を聞いた」

「やっぱり、サーバルも"けもハーモニー"の体験者だったのね」

サーバルがサーバルだということに、ギンギツネはいつから気付いていたんだろう。

「パーク・セントラルがセルリアンに襲撃される前、オイナリサマは、けもの病院のけものたちに呼びかけを行った。その呼びかけに応じて、助け合って逃げ出そうとしたけもの達は、みんな奇跡の回復を起こしたのよ。それがおそらくは、"けもハーモニー"の力」

あの時起こった、たった一度の奇跡。

「その中でも、一番大ケガをしていたサーバルが皆の先頭に立って助けようとしていたってわけ。あの時のサーバルは"特別"だった気がするね。私が思うに、あの時の"特別"はサーバルの中に宿ったままになってたんだ。サーバルは感受性が強いからかな」


「オイナリサマは今、パーク・セントラルでセルリアンの親玉――女王ってヤツかな、これを結界で身動きが取れないようにしてる。今は色んな状況が重なり合って、お互いの力がきっ抗した状態になってるけど、セーバルはサーバルから奪ったハーモニーを使って明らかに"何かをしようとしている"。……多分、女王の命令を受けて、きっ抗状態を崩すための何か――」

「あるいは、もっと凄い何か、をね……」


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大脱出劇から一夜明け、動物たちの避難はほとんど終わり、ヒトの避難も着実に進みつつあった。

スタッフさんたちの情報によれば、セントラルから少し離れたところに不自然なセルリアンの群れがあり、今日の昼前にはセントラル付近にまでやってくるだろうという話だった。


アニマルガールの物理的な力は、およそ元の動物の力に比例するらしい。

元が小型動物の私では、トラやライオンたちのような大型肉食獣ほどの戦力にはならないだろうけれど、それでも私は逃げるのではなく戦うことを選ぼうと思う。

私も以前に何度かセルリアンと戦った事はある。自分にできることとできないことはわかっているつもりだ。


日もだいぶ昇り、セルリアンと戦う覚悟を決めた子たちが、セントラルの外の平原に続々と集まってきていた。

「みんな、よく集まってくれた。指揮を任されたバーバリライオンのバリーだ。今回の戦いはセルリアンの数が多く、今までに前例のない規模の戦闘になると予想される」


私たちはセントラルから少し離れたここに陣をとり、セルリアンの群れを迎え撃つ。

力の強い者は前衛で中型以上のセルリアンと戦ってくれ。この大きさのセルリアンを相手にできる者は数が限られている。

それ以外の戦闘要員は後衛で小型のセルリアンの対処だ。空を飛べる者は戦闘には直接加わらず情報の伝達と収集に努めてくれ。

私は数名とチームを作り遊撃部隊として手の足りないところに加わる。

作戦の目標はセルリアンの群れの撃退だ。以上、作戦開始だ。


そして、戦闘が始まった。

戦闘が始まってすぐ、おそらく私たちはみんな同じことを思ったはずだ。……セルリアン達が強い。

個々のセルリアンの能力はおそらく今までと変わらないのだろうけれど、セルリアン達が連携を取って攻撃を仕掛けてくる。

隙きのない多段攻撃や死角からの不意打ちを受け、消耗させられる。私たちが相手にしているような小型が相手であれば、多少のダメージを受けても致命的なものではないけれど、前線で大型と戦っている子たちはやりにくいだろう。

いつもとは違うセルリアンとの戦闘が、私たちの体力をじわじわと削っていく。

セルリアン達は倒しても倒しても切りがない。最初に見たとき、数はさほど多くないように見えたけれど、二陣三陣が到着しているのかもしれない。


太陽が真上を過ぎようかという頃。

「キャーーーーーーー」

「うわあああああああ」

誰かの悲鳴が上がる。遠くてよくわからないが、おそらく、前衛の手が回ずに後衛のところまで大型セルリアンがやってきたのだろう。

トリの子たちが空を飛び交い、バリーたちが走っていくのが見える。

戦闘が始まってはや数時間。はっきり言って戦況は悪くなる一方だった。

おそらく誰の顔にも疲労の色が浮かんでいると思うが、正直私自身もう周りの様子を伺うだけの余力がない。

セルリアンの数は増え続け、私たちは明らかに窮地に立たされていた。


それからいくらも間を置かずに、終わりはやってきた。

「撤退ーーー! 撤退するですよーー!」

「作戦は中止ー! 全員西の丘まで避難するです!」

羽音が聞こえなかったからフクロウたちだろうか。空から拡声器で叫んでいる。

「オレたちが引いたらセントラルはどうなる!」

誰かが叫び返す。

「セントラルの全住人の避難は先刻終わったのです」

「そうことじゃない!」

「セルリアンの数は増え続けているです。このままでは撤退戦すらままならなくなるですよ」

「でも!」

「自分がどれだけ傷ついているかもわからなくなっている者をこれ以上戦わせることはできないのですよ」

「こんな結果になって、悔しくないわけがないのです。……それでも、今は引くのです」


セントラルから西に少し離れたところにある丘に私たちは集まっていた。

ここから見えるセントラルは、あちこちから土煙が上がっていた。セルリアンたちが建物を壊しているせいだろう。

「全員の無事を確認しました」

「そうか。ひとまずは良かった」

後ろの方では戦闘の後処理のために何人も慌ただしく動いていたけれど、ここにいるアニマルガールたちの大半は、セルリアンに蹂躙されていくセントラルをただ呆然と眺めていた。

やがて日が傾き、そして沈み、一人また一人とこの場を後にしていく。立ち上がることさえ億劫になっていた私は、座り込んだままセントラルの方を見続けていた。


======


「セーバルは"特別"のおかげで、本来セルリアンが持つはずの無い自我を持っている。それがどういうことか、分かる?」

「セーバルから、"特別"を取り上げると、どうなっちゃうの……?」

「おそらく、セーバルは消滅する、だろうね」

「よし、じゃあ"特別"を取り返すプランは無しね!」

サーバルのこの反応は予想していたので特に驚きはなかった。

「サーバル様……もう少し、こう……」

「だ、だって、セーバルが消えちゃうんだよ!?」

誰も傷つくことのない結末が存在するなら、私だってそれを選びたい。そんな奇跡が起こるのなら。

だけど、サーバル。奇跡は起きなかったんだよ。

「全ての輝きが奪われたら、どうなると思う?

こうして話して笑いあうことはできなくなるし、吹く風も風景も"何もないもの"になっちゃうんだよ」

パークセントラルのように。

「私はね、サーバル。パークでアライさんや皆と馬鹿なことして面白おかしく過ごすのが大好き。絶対に失いたくないなー」

もう二度と。


======


セントラル陥落から数日、私は砂漠エリアに戻ってきていた。

この数日の間、私の予想とは裏腹に周りの様子には驚くほど変化がなかった。

セントラルがセルリアンの襲撃を受けたという噂は流れているようだが、まだ被害のほどが正確に知られてはいないみたいだった。

あのとき以上の戦力を整えるのは難しい以上、あの統率の取れたセルリアンの群れがやって来れば、どのエリアも壊滅的な被害を受けることは免れないはずだ。

また別のエリアが、あるいはまさにこの砂漠エリアが、セルリアンの襲撃を受けるんじゃないか。巣穴に戻って来てからもそんなことを考え続けてしまい、うまく眠れなかった。


私はあのときどうするべきだったんだろう。ずっとそんなことを考えていたけれど、結論はまとまらなかった。

あのとき、あの場にいた誰もが自身の役目をしっかり果たしていたし、迎撃のために立てられた作戦も妥当なものだった。

私たちは間違いなく最善の選択をした。だから後悔するべきことは何もない。……そう割り切れればどれほど楽だろう。

悔しさと、無力感と、恐怖が私の中を渦巻いていた。


それでも生きていればお腹がすく。ジャパまんを受け取るため、私は今日もオアシスまで足を向けた。

「……」

その途中、行き倒れのアニマルガールを見つけた。

絵に描いたようなその姿に感動の念すら覚えるが、砂漠の真ん中で倒れていてはしゃれにならない。砂漠の昼はとても暑く、夜はとても寒い。

まだ息はあるようだし、巣穴まで連れて行って介抱しよう。


「助かったのだ! ……えっと」

「私はフェネックー」

改めてオアシスで水とジャパまんを調達し、行き倒れの介抱をした。

セントラルの機能がマヒしている以上、高度な医療を受けることはできないだろうから、すぐ回復してくれたことには安堵している。

……目の前の何かを助けられない経験はもうごめんだ。

「アライさんはアライさんなのだ! フェネックは命の恩人なのだ!」

縞模様の尻尾、ニギニギと落ち着かない手、アライさんという自称、たぶんこの子はアライグマだろう。

「たまたま私が通りかかったからよかったものの、砂漠をなめてたら死んじゃうよ。きみ、なんでこんなところにいたの?」

「アライさんって呼んでほしいのだ!」

「アライさんね」

「パークセントラルで大事件が起きてると聞いたのだ! それをアライさんの手で解決して、一躍有名けものになるために、セントラルを目指してるのだ!」

「……そうなんだ。それで、どんな大事件なのかアライさんは知ってるのー?」

「知らないのだ!」

めまいがする。

とはいえ、このお馬鹿さんをセントラルへ向かわせるわけにもいかない。

「セントラルはセルリアンに襲われて大変な事になってるって聞いたよ」

「つまり、このアライさんパンチでセルリアンを全部ふっ飛ばせば済む話なのだな!」

「……無理だよ」

「なんでそう思うのだ? そんなのやってみないとわからないのだ」

「やったよっ!」

私の叫び声が巣穴に残響する。

……大丈夫、もう落ち着いた。

「……やったんだよ……」

涙はこぼれていない。大丈夫。

「フェネックは……。フェネックは、セントラルでセルリアンと戦ったのだ?」

さすがのこの子も真面目な顔をしている。

「そうだね。あのときあの場にいた私たちは、セントラルに来たセルリアンと戦った。……そして負けた」

「……」

「いまのセントラルは、エリア全体をセルリアンが占拠してる危険な場所になってる。だから、行くのはおすすめできないというわけ。わかってくれたかなー?」

「……」

「アライさん?」

「フェネックはそれでいいのだ?」

「どういうこと?」

「フェネックはなんでセルリアンと戦おうと思ったのだ?」

少し考えて言葉にまとめる。

「助けが必要とされていて、私にはその手伝いをするだけの能力があったから、かな」

「えっと……?」

質問してきた側がそんな顔をしないでほしい。難しいことは言っていないつもりなのだけど。

「フェネックはジャパリパークを守りたかったんじゃないのだ?」

そうなんだろうか。


アニマルガールとしての私の今があるのは、ジャパリパークのおかげだ。

動物のフェネックとして砂漠で暮らすのも悪くなかったけれど、アニマルガールになってから、動物のままでは行くことのできない場所に行き、知ることのできないことを知り、そして、会うことのできない子たちと会った。

私は素敵なものにあふれるこのジャパリパークが好きだ。風にそよぐ木々の音が、果てしない水平線に沈む夕日が、個性豊かなパークのみんなが好きだ。

この素敵なものたちが、自然に保たれるものではなく、みんなの意志と力で守られている奇跡のようなものだということを私は知っている。私もその力になりたかったんだ。


長い間黙り込んだままの私の顔を、アライさんはまだじっと見つめている。

「やー…………そ、そうなのかなー?」

「だったら、セルリアンからセントラルを取り返すのだ!」

「でもそれは」

「50人、100人、1000人、パーク中のみんなの力を合わせれば、きっとなんとかなるのだ!」

その言葉に論理的な裏付けが一切ないことは私にもわかっている。けれど揺るぎない自信に満ちているその瞳は、過去に囚われ未来に怯える私の心を動かすには十分だった。

過去は取り戻せない。奇跡は起こらない。だから私たちは、より良い未来を自分たちの手で掴むために、前を向いて進まなければいけない。

その道は、きっと想像さえできないほど険しいものだろうけれど、それでも。

「フェネック! これからよろしくなのだ!」

「よろしく、アライさん」

アライさんの差し出した右手を握り返し、握手を交わす。

……握手だよねこれ? アライさんは、私の手の感触を確かめるように両手で私の右手を包みもぞもぞとしている。少しくすぐったい。

「アライさん?」

「アライさんはアライグマなのだ」

「知ってる」

「アライさんは手で感じるものを信じるのだ」

「うん」

「アライさんの伸ばした手をフェネックは握り返してくれた。だから、アライさんはフェネックを信じるのだ。フェネックも、アライさんの信じる手を信じろなのだ!」

「うん」

「じゃあまずは、セントラルに乗り込むための仲間を100人集めるのだ! レッツゴーなのだ!」

私もアライさんのことを信じようと思う。

ちょっと足りないところがあって危なっかしい子だけど、その無限の前向きさは、私たちがより良い答えを出すためにきっと必要なものだから。

「アライさん、まだ外は暑いよー。日が暮れるまでここで涼んでいきなよー」


こうして、私たちはセントラル奪還のために活動し始めた。

……のだけれど、活動を始めてすぐに"けもの姿をしたセルリアン"の情報を耳にしたアライさんは、先にそっちを追うことにしたようだ。

セントラルは近寄らなければ危険はないけど、未知のセルリアンはいまこの瞬間にも誰かの隣に現れるかもしれないから、だそうだ。

少し残念にも思ったけれど、一方で少し安心もした。


======


「というか、フェネックはこっちに来て良かったのだ?」

「んー? 人手は多くないとヤバイんじゃないかな?」

「サーバルはセーバルの"特別"を取り返さない、という選択をするかもしれないのだ」

答えをはぐらかした私の返事に騙されず切り込んでくる。アライさんは、ときどき妙に鋭い。

「あー…………。まあ、彼女が一緒にいるからねー」

不思議なお守りを持ち、オイナリサマにも目をかけられているヒト。

寡黙で、一見何を考えているのかわからないところがあるけれど、危険を押してサーバルたちに付いてセントラルまで来てくれた。

「ギンギツネは彼女とサーバルのキズナが起こす奇跡を信じたんだ。私もその気持ちは少し分かるっていうか……」

私たちはサーバルたちと違って、彼女とそう長い時間を過ごしたわけではない。

それでも、その瞳から感じる強い想いに、私も少しだけ期待をしてしまった。

「でも……サーバルが取り返さなくてもきっとセーバルの運命は変わらない」

女王のもとにたどり着いたセーバルは、"特別"を女王に渡し、消滅する。どのみちセーバルが消えてしまうなら、"特別"はサーバルが取り戻すべきだ。

もはや奇跡でも起きなければ、全てを助けることは難しい。

「それなら…………」

我に返って顔を上げる。アライさんといると、つい喋りすぎてしまう。

結局私は、サーバルたちに全てを委任するという選択をした。サーバルを信頼して委ねたカラカルたちと違って、私は自分で選べなかっただけだ。

「やー、なんで私、こんなことグチグチ考えちゃうかなー。あはは、不思議だよねー」

取り繕った言葉で、大げさにおどけてみせる。これはもう終わってしまった話なんだ。だからこの話はこれでおしまい。

「何が不思議なのだ?」

「あれ?」

「フェネックはジャパリパークが大好きなのだ。でも、サーバルたちも大好きなのだ。だから、グチグチ考えるのも不思議ではないのだ」

「やー…………そ、そうなのかなー?」

「ともかく――――心配は無用なのだ、フェネック。どんな大変なことになったって、アライさんが絶対に全部まるごとなんとかしてやるのだ。だから、今は迷わずアライさんについてくるのだー!!」

「………………」

まっすぐに前を見るその瞳は、あの時と同じように輝いていて。

「やー……うん、やっぱアライさんには、かなわないなー」


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