14.夏風邪は誰が引くか知ってます?―b
―瑠維―
「…焦げ臭いんだけど気のせいか?」
「…すみません…」
真っ白な器に盛ったせいで、お粥にあるまじき茶色味がやたら強調されて居た堪れない。
「おかゆ"くらい"、作れるって言わなかったか?」
「違っ…ちょっと、考え事してて…!」
「考え事?」
切れ長の目元がこちらを向く。目が合ったら、一気に頬に血が上った。
「何でもないです!」
誤魔化すようにれんげを手に取り、お粥を雑に掻き回す。
底の方に隠れていたらしい、焦げついた塊を掬ってしまった。
「美味そうな…”おこげ”、だな」
「…も、いいです」
「は?」
「ごめんなさい、何か違うもの用意します!ちょっと待ってて…」
そう言って器を下げようとしたのに、世良先生の手が伸びてきて僕の手首を素早く掴んだ。
「いい、食べる」
「は?!いいです、やめてください!」
「せっかく作ったんだろ」
「無理しないでください!ほら、見てこの”おこげ”…!」
さっき器の底から出てきた、焦げ付いた塊をれんげで掬って見せた。
世良先生の眉間に、僅かに皺が寄る。
ほらね、そういう反応になるじゃん―そう思ったのも束の間、れんげを握っている方の手を、世良先生の白い手に掴まれた。
「?!」
強引に僕の手を引っ張ると、止める間もなく世良先生はれんげの中身を口の中に入れてしまった。
「ちょ、ちょっと先生…っ」
「美味いじゃん」
「は?!嘘ばっかり…!」
「貸せ」
世良先生は自分の前に器を引き寄せ、僕の手かられんげを取ると、黙々とおかゆを食べ始めた。
「先生、お腹壊しますよ」
一応声をかけてみたけれど、世良先生は知らん顔のまま、とうとう器の中身は空になった。
「ごちそうさま」
「…ごめんなさい、気を遣わせて」
「何が」
「だって、失敗したのに…った!」
急にでこぴんされて、額を押さえた。
「何するんですか!」
「いつまでもしみったれた声出すなよ」
あのな、と、世良先生は少しだけ照れくさそうに鼻先を擦った。
「人が作った飯、久しぶりに食べた。…ありがとな」
こつん、と優しく頭を小突かれる。
「…先生…」
「ん?」
「…あ、えっと…り、りんご食べます?」
「りんご?…いや、これ以上無理するのは」
「え、無理って何ですか。皮くらいは剥けますよ!」
「さっきも似たようなセリフを聞いたばっかなんだけど…」
「なっ…見ててください、うさぎりんごにしてきますから!」
急いで器を片付け、立ち上がる。
「手ぇ切るなよー」
「気を付けます!」
シンクに器を置き、さっき一緒に買ってきたりんごを冷蔵庫から出して水で洗う。
ぬめりの残る赤い実をこすりながら、頬が火照るのを抑えられなかった。
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