風/音
成瀬哀
1-風
「もう日が暮れるね」
「そうだね」
まだ春とは呼び難い冷たい風が私に向かって吹き付ける。思わず、ブルブルと震えた。
「寒い? もうすぐ帰る? 4時だし」
親友は振り向くと訊いた。口端の笑みが今日もちょっと頼りないけど、瞳はいつものように輝いている。
「えー、それは嫌」
「じゃあ何する?」
別に。かと言って何がしたい、って訳じゃないのに。
ジャングルジムの上で、ぶらぶらと揺らしていた足からスポッと靴が脱げた。
「あ」
「ったく、しょーがないなあ」
隣に座っていた親友は、よっという掛け声と共に下へ飛び降りると、私の靴を拾ってついでに腕を伸ばして私に履かせた。
「ありがとう」
恥ずかしいのか、くるっと私に背を向けると、大きく伸びをする。
「あーあ、何か楽しいことないかなー」
欠伸混じりに呟く彼。そんな彼の後ろ姿を見ていると、私はどこか嬉しくなる。
私は楽しいよ、貴方と一緒にいて。今度『親友』じゃなくて『彼氏』って呼んでやるから、覚悟してなさい!
なんて、言葉に出来るはずもない。
ただ代わりに彼の姿を目に留めておくだけの私の日々は、一体いつまで続くのかな。
「きっと、気づいてないだけだよ」
小さく呟くと、私もジャングルジムから降りて彼の隣に並んだ。
これだけで、いいの。
赤くなった夕陽は美しく辺りを染めていた。
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