第19話 再開した幼馴染。
『追放処理班』の業務が今日も始まる。
冒険者ランクに固執する冒険者達が、用済みとなった冒険者を排除、追放し、より高みを目指す世界。
追放ブームは未だ尽きない。俺の仕事が繁盛しているとはつまり、それだけ多くの人が苦しんでいるという事。なんとも複雑な気分でもあった。
「ベリアルさん、聞きました? 最近国王様が異世界召喚を行ったかもしれないって。また情勢が荒れますよ」
アイシャが苦言を呈した。
先日、マイスター家が戦争を引き起こそうとした件が露見し、国民から凄まじい量の批判が集まり失墜した。
しかし、このタイミングで異世界の人間を呼び込んだと他国が聞けばやはり戦争準備を行っていると勘繰ってしまう。
「面倒な事にならないといいですが……」
「また、ベリアルさんの仕事が増えちゃうんじゃないですか?」
「『
その時、冒険者ギルドの扉がガチャリと開かれた。
新たな冒険者が現れたのか、と雑談を止める。
しかし、俺は次の瞬間言葉を失った。
「ご、ごめん下さい……」
その少女はキョロキョロと室内を見渡しながら歩いてくる。明らかに場違いな格好、白のブラウス胸元には可愛らしいリボン。チェック柄のスカートに制定の白靴下。
学校の制服だ。
『あの、ここって……冒険者ギルドですか?』
「ベリアルさん、外国の方でしょうか。私彼女が何を言っているのか何も分からないんですけど」
両手を胸の前で握りこんで不安げに近寄ってくる。
長くしなやかな胡桃色の前髪から素顔を覗かせた。
嘘……だろ。そんな偶然があり得る訳。
「あの……ベリアルさん。どうしたんですか、ずっとあの子の顔を見て。知り合いですか?」
俺がよく見知った人物だ。
少し成長しただろうか、女の子らしい身体つきになっただろうか。
「奏……」
俺は、日本語で話した。
「えっ───」
その少女は本気で驚いていた。何しろ、ずっと見知らぬ言語で語られていたのが急に言葉が通じるようになったのだ。
声の主を探し、やがて視線がかち合う。
「う、そ……どうして。
「奏、ごめん……俺、はっ」
忘れ訳がない。ほとんど毎日会っていた。
だが、俺が突然死んだ事でそれきりだった。
三年前の話だ。
「悠里、ゆうりぃ……っ」
俺は奏を出迎えた。
外見は変わっても中身は三年前と同じだ。
寂しがり屋で、ちょっぴり不幸体質。
ここに奏がいるのも、きっとトラブルに巻き込まれたのだ。
「ベリアルさん……いったい何が」
しまった。ここは職場だ。
抱き合った状態から顔だけをアイシャへと向ける。
「すみません、アイシャさん。この子は、俺と同じ故郷の幼馴染なんです。あまりに久しぶりに会えたから、その……取り乱してしまって」
言語の違いから、話の内容が分かっていないようだ。
『念話』なら、簡単に会話する事も可能だが、『
「そうだったんですか。随分親し気でしたから、少し驚きました。ベリアルさんっていつも機械の様に事務的でどこか達観した感じで話していますけど、そんな優しい顔もするんですね」
意外、というよりも少し寂しげだった。
複雑な表情を浮かべたアイシャは、繕って笑う。
「あの……別の部屋でお話されてはどうですか。久しぶりに会ったのなら、積もる話もあるでしょう。ここは一人で十分ですから」
アイシャは俺の背中を押して突き放した。
戸惑いつつも、今はその好意に甘えさせてもらう。
「奏、とりあえず歩くぞ」
「悠里……もう、離れない?」
「離れないから、腕を離してくれ。歩きずらい」
突然現れた来訪者。
俺の幼馴染の話を伺う事にした。
□■□
「一つ聞いてもいい?」
個室に入った途端、奏はそう切り出した。
何から話そうと迷っていた瞬間だった。
「三年前、悠里は死んだよね。例の男達に殺されて。どうして、生きてるの。ここで何をしてるの、そもそもこの世界は」
「奏、落ち着け。一つと言いながら、何個聞くつもりだ」
この三年間、彼女はどんな思いで生きていたのだろう。
それに、三年経った今奏がこの世界にやって来たのは、死んだからだろうか。
俺は悪い想像ばかりを浮かんで首を振る。
まずは、お互いの状況を把握すべきだと思った。
相変わらず、奏は不安げで組んだ腕を離すつもりはないらしい。
とはいえ、14だった三年前とは違って今では立派な女性だ。胸のふくらみが直接腕に当たって僅かながらに意識をしてしまう。
仕方ない。
「じゃあ、まずは俺がこの世界に来た頃の話をしようか」
ここから語るのは、悠里がベリアルに名を改めるまでの話。
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