第2話 絵描き旅行者の旅立ち(後)
おじいさんは次の話に移る。
「絵は2枚あるので、それぞれ3人ずつ2つのグループになるように分かれてほしいんじゃが…」
そう聞いて、透__とおる__と鈴良__すずら__が小さく話す。
「どういうふうに分けるんだろうね」
すると優志__ゆうじ__がもっともな意見をいった。
「普通、男女別になるだろ。
ちょうど3人ずつだしな」
しかし明里__あかり__の考えは違っていた。
「それなら大丈夫!
もちろん実__みのる__と星成__ほしなり__は、あたしについてくる!よねーっ?」
明里はそうにっこりと、実と星成を振り返って聞いた。
「えっ?」
うすうす想像はついていたが、実はやはり驚いた。
「やっぱりな…」
星成も小声でつぶやく。
「…ってことは、俺はおまえ達と一緒かよ」
優志ははっと気付いて、透と鈴良を指差す。
透はぱっと明るい顔になって答えた。
「!そうだね。
じゃあこれからしばらく、3人で頑張ろうね」
そう透は鈴良と優志を見比べる。
「野村くん、よろしく」
鈴良もそう笑う。
「……」
透達がそう仲間結成をしている一方。
おじいさんと明里達は話を進めていた。
「グループのリーダーには、わしや、もう片方のグループと連絡が取れる電話を渡そう」
そうおじいさんは、2つの電話機を差し出した。
明里達の方は当然決まっている。
「もちろんあたしがリーダーだな。3年生だし。
透ちゃん達の方は、誰をリーダーにする?」
明里がそう透達を向いて聞く。
「え?」
決まっていないので、透は返事に困る。
すると面倒なことはやりたくない優志が提案した。
「おまえがなれば?」
すると透を信頼している鈴良も賛成する。
「そうよ。透ちゃんがなるべきよ」
そう2人に勧められて、透はうなずいた。
「…うん!じゃあわたしがリーダーやるね。
明里先輩、わたしです」
そうおじいさんから電話機を受け取りに行く。
おじいさんは2色の電話機のうち、水色を明里に、桃色を透に渡した。
そう2人が手に持つと、おじいさんはそれについて説明した。
「それにはボタンが2つついているじゃろう。
そのうちの丸のボタンはわしに、星のボタンはもう片方のグループにかかるようになっとるからな」
話の途中に透が質問した。
「でも電池が切れたら、かけられなくなるんじゃないですか?」
「それは今いおうと思っていたことだったんじゃが、それなら心配ない。
それは魔法電話じゃから、いつでもどこでもかけられる」
そうおじいさんは力強く答えた。
「それは魔法道具なんですか」
鈴良がその電話を見ながら、感慨深げにいう。
いつのまにかもう、誰も魔法といわれても驚かなくなっていた。
「では最後に、どちらの絵にするか決めてもらいたい。
まずこっちの山の絵の方は?」
おじいさんは片方の絵を腕で指し、たずねる。
山が堂々と大きく描かれている絵だ。
明里はすぐに気に入って、元気よく手を挙げた。
「あたし、行きたい!実も星成もいいよね」
実も星成もどちらの絵でも良かったので、うなずいた。
おじいさんはそんな様子に、6人を見回して感謝した。
「ありがとう、みなさん。
わしの願いを聞いてくれて…」
それから明里達に山の絵の説明を始める。
「この山の絵は、わしがつい昨日描き上げたものじゃ。
自分ではとても気に入っとる。
春、夏、秋、冬と四季が楽しめるんじゃ。
旅に必要な物は、その都度わしが送るようにするからのう。
とりあえず今は、このリュックを持って行っておくれ」
そうおじいさんは、6人それぞれにリュックサックを渡した。
「絵の中に入っている間は、この世界の時間は経たないから安心していい。
気を付けて行ってきておくれ」
その言葉に、星成はほっとため息をついた。
良かった。何日もどこに行っていたのか、説明するのが大変だと思っていたけど。
「では送るぞ」
準備が終わったおじいさんはそういって、何やら呪文を唱え始めた。
明里達には、何といっているのかわからない。
そんな中、しばらく別れることになる透達に、明里は声をかけた。
「じゃあ、行ってくるね。
優志、真面目にやりなよ。
透ちゃん、鈴良ちゃん、よろしくね」
そんな先輩に、透もにっこりと返す。
「はい。先輩達も頑張ってきてくださいね」
すると透達を慕っている実と星成も返した。
「先輩達も」
最後に鈴良も付け加える。
「3人とも気を付けて」
そう別れのあいさつが済むと、おじいさんは大きな絵筆を取り出した。
明里達3人の周りに、赤い絵の具らしきもので円を描く。
その円が出来ると、明里達はぱっと消えてしまった。
すごい。これが魔法…。
鈴良はそれを見て感心した。
「では次は君達の番じゃな」
おじいさんは今度は透達に向き直る。
そしてもう1枚の絵を腕で差し、説明を始めた。
「こっちの絵は村が描かれておる。
だから君達は生活に苦労することはないじゃろう。
村の者達はみな、気のいい連中じゃからのう。親切にしてくれる」
そう聞いて、透達は多少安心した。
「じゃあわたし達は、村の様子を描いてくればいいんですか?」
透の言葉に、おじいさんはうなずく。
それから楽しそうにいった。
「ああ。それからおもしろいものも描けるぞ。
この絵の中には小人など、君達がこの世界では知らないものもたくさんおるからのう」
「小人?」
優志がその言葉に反応する。
どんな世界なんだろう?
透も想像してみた。
「では君達も送るぞ」
そうさっきと同じように、おじいさんは呪文を唱え始めた。
透達はその不思議な言葉を聞きながら、それぞれこの旅について考えていた。
最初はびっくりしたけど、わたし魔法使いや小人とか、そういうファンタジー大好きなんだよね。
本当に会えるなんて感動!
小人さんに会えるのもすっごく楽しみ。
特に透はそう喜んでいる。
どんなところなのかしら。
本の世界みたいに、楽しいといいわね。
鈴良も村に期待している。
何でこんなことになるんだよ。
しかも行くところが、まともな村なのかもわかんねえし。
優志は多少いらだっている。
呪文を唱え終わったおじいさんは、さっきとは違う絵筆を出した。
描きながらおじいさんは、最後の挨拶をする。
「楽しんで、いい絵を描いてきておくれ」
輪が描き終わると、透達もまた明里達のように、ぱっと消えてしまった。
1人だけになり、美術室は静かになった。
その中でおじいさんは、6人の無事を祈った。
そして出来あがった絵を楽しみに思いながら、黙って6人が行った2枚の絵を見ていた。
(私よりも若い世代の人への 時代背景の解説)
作中に魔法道具の電話機が登場するのは、異世界に行くからということもありますが、
1999年のこの時代(私の周りの)中学生で携帯電話を持っている子は少数派でした。今は多数派なのかな…。
高校生以上は殆どの子が持っていたみたいです。私は遅れて17歳から…。
それでメンバーの6人の誰も、普通の携帯電話は持っていません。
ネットで調べてみたら、この平成11年に長文メールやネットを使えるようになって、カメラ系はまだ付いていなかったようです。
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