第30話 明日からも

 2日目。

 オープンを前にして、早くも店の前には行列ができていた。

 朝早くから必死に駆けまわり、村の漁師たちにも無理を言って、何とか昨日の2倍の材料を確保することに成功した。

 実際に昨日は店に来なかった人たちにも、口コミで広まっているようだから、これでも足りるかは分からないんだけどね。


「開店しまーす!」


 お昼ちょうど。

 海鮮料理店「美音」の2日目が始まった。

 すぐに満席になり、続々とオーダーが流れ込んでくる。

 今日は店員の数も増やしているから、昨日よりは幾分かスムーズにまわっている。

 でも調理自体は私とニナの2人がメインなので、ここの忙しさは半端じゃない。


「カルパッチョできました!」


 出来上がった料理をフェンリアに渡すニナ。

 本当に楽しそうに働くなぁ。

 もし2号店をオープンすることがあったら、ニナに店長を任せちゃおうかな。


「ミオンさん」


「どうしたの?」


「楽しいですね!」


「そりゃ良かった」


 え、何? 今の不意打ち。

 急にそんな笑顔を向けられたらお姉さんときめいちゃうよ?

 ……昨日のピノの時しかり、百合キャラと誤認されそうな言動が続いてるな。

 全くそんなことはないんだけど。




 ※ ※ ※ ※




「ふう……」


 2日目の営業が終わり、みんなが村に帰った後。

 私は再び王都に戻って、閉店した店舗でピノとテーブルを囲んでいた。

 テーブルに置かれているのは、昨日と今日の営業成績が書かれた紙だ。

 どちらも予想の2~3倍ほど売り上げている。


「すごいことになりましたね」


「うん。国王パワー偉大なりだよ」


 言ってみれば、大人気インフルエンサーが無名の店を紹介してくれようなものだ。

 ありがたいと言ったらありゃしない。


「こうなってくると……2号店のオープンをありえそうですね。相当な額の利益が出そうですし」


「それはありだと思う。でも先の話かな。人材が確保できないし」


 1つの店で手一杯なのだ。

 とても2号店まで手を広げる余裕は、今はない。

 一番肝心なのは調理スタッフ。

 私とニナで何とか1店舗を回していると考えると、2号店を展開するならさらに2、3人の調理スタッフがほしい。


「そうですね。賢明だと思います。それにしてもこの額……税金もかなりの額になりますね」


「だねぇ……」


 オークションの収入に関しては、税金が課されないというルールになっていた。

 ここは宝くじと一緒だ。

 でも店をやって得た利益に関しては、当然のことながら税金がかかる。

 だから税金のことも計算しながら、しっかり資金繰りをしないといけない。


「プロの目から見て、このペースのまま営業を続けて大丈夫かな?」


「はい、みなさんの身体がもつのであれば大丈夫だと思いますよ。売り上げから費用を差し引いても十分な利益が出ていますし、回転率も良いと思います。今はかなり忙しいですけど、少しすればちょうど良い繁盛具合になるはずですし」


「そっか。ふわぁ……疲れたな」


「でしょうね。寝た方がいいです」


「そうするよ。ピノ、いろいろありがとう。これからもよろしくね」


「何でもお任せください」


 ピノと一緒に店を出て、きっちり鍵を閉める。

 そして私は漁村へ、ピノは王都内の自分の家へと帰っていった。


 ひょんな思い付きから始めた海鮮料理店「美音」。

 まさかまさかの国王来店に始まり、大大大大繁盛だ。

 働くことってこんなに楽しかったんだと実感する。

 リリアちゃんに異世界へ送ってもらって良かった。

 さあさ! 明日からも異世界ライフを全力で楽しむぞー!

 でも今日はもう疲れたので、おやすみなさい。

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