第21話 暗躍する影
「「転移装置?」」
城壁の外。
老人の話を聞いたニナとネロは、同時に首を傾げた。
私はアイテムボックスから買ったものを取り出し、2人に見せる。
「こっちは地力石だな。そう珍しいものじゃない。それで……このオブジェは何だ?」
「穴が開いてます。地力石をここにはめるんですか?」
「そうみたいだよ。物は試しというからやってみようか」
私は右手でニナの肩に、左手でネロの肩に触れた。
「やってみるって何を……」
「【
「「ああああ……」」
2人を、オグリギャップとハニーブライアンと馬車を、そして荷物を全てアイテムボックスに収納すると、私は青色の地力石を転移装置にはめた。
そしてその頭部を掴み、老人がやっていたのと同じように呟く。
「【転移】」
刹那、耳元にざわざわと風のような音がした。
そして一気に目の前が真っ白になる。
次の瞬間、私は村の入口に立っていた。
「すごぉ……」
改めて自分で体感してみると、すごさもひとしおだ。
画期的な移動手段を手に入れてしまった。
王都の地力石もつけてくれておかげで、オークションのお金を取りに行くときもわざわざ日数を掛けなくて済む。
「【
アイテムボックスの外に出してあげると、2人はしばらく呆然としていた。
そして同時に我に返って叫ぶ。
「これは一体どういうことですか!?」
「これは一体どういうことなんだ!?」
「ふっふっふ~。実はね……」
私は自分が開発したわけでもないのに、自慢げに転移装置について話す。
全てを聞き終えたあと、ネロが真剣な顔で言った。
「その老人、どんな見た目だった?」
「うんとね、歳はミョン爺と同じくらいで特徴らしい特徴はなかったよ。普通のお爺ちゃんって感じ。でも力はすごかったな。紫の布に広げてた商品を、ちっちゃな体で背負って歩いてっちゃったんだから」
ニナとネロが顔を見合わせて言う。
「「クレシュさんだ……」」
クレシュさん……。
それがあの老人の名前なんだろうか。
確かに向こうはニナのことを知っていたし、2人が老人のことを知っていてもおかしくはない。
「クレシュさんっていうのは?」
私が尋ねると、ネロが教えてくれた。
「クレシュさんは稀代の天才発明家、天才道具師にしてミョン爺の弟さんだよ。最後に村に来たのは、ニナがまだ赤ちゃんの頃だな」
「私は直接の記憶はないんですけど、ミョン爺やお母さんから話を聞いたことがあるんです」
「それでニナのことも知ってたんだね」
「あの人はどこに定住するわけでもなく、色んなところを回っているらしい。目撃情報は何度か耳にしてたけど、まさか同じタイミングで王都にいたとはな」
稀代の天才クレシュか。
確かに1から転移装置を作ったというのは、すさまじい才能だ。
彼も「また会える気がする」と言っていたし、いつかもう一度会ってみたいな。
※ ※ ※ ※
王都から少し離れた洞窟の中。
焚き火の前に老人が1人。
稀代の天才クレシュだ。
「来たか」
洞窟の中に1つの影が入ってきて、クレシュの前に立つ。
そして頭を下げた。
「分かっていらしたのですか? 私が来ることを」
「当然だな」
「それはそれは……。お待たせしました。お迎えに上がりました」
「それで今回は何の用だ」
「詳しいことは直接お聞きになってください。私は迎えの者に過ぎませんので」
「そうか」
ゆっくりと立ち上がると、クレシュは荷物を荷物を持ち火を消した。
「お持ちします」
「いや、これは自分で持たせてもらう」
影の申し出を断ると、洞窟の入口へと歩き始める。
外に出ると、深くしわの刻まれた顔を月明かりが照らした。
青白い光が浮かび上がらせるクレシュの顔が、ニヤリと歪む。
「行くか」
「はい」
「案内は任せたぞ。エレネ」
影――エレネが大きく翼を広げるのだった。
※ ※ ※ ※
さらに所は変わって、ガルガームの住んでいた竜の巣。
ミオンが回収しなかったガルガームの死体に、静かに近づく男がいた。
手に持った剣の刃が月明かりに照らされて光る。
男は迷わず、剣をガルガームの喉元へと突き刺した。
「……」
男が何かを唱える。
数秒後、突き刺さった剣が眩い光を放った。
そして光が収まると、ゆっくりガルガームが目を開ける。
ミオンが確かに倒したガルガームが、完全に……復活した。
「う……ぐ……」
「手ひどくやられたな、ガルガーム」
ガルガームは男の姿を見ると、驚いて体を硬直させた。
「あなたは……いえ、あなた様は……っ!」
「“機功の竜”。お前にやってほしいことがある」
「何なりと」
男はガルガームの背中にまたがると、指示を出した。
「飛べ。詳しい話は移動しながらする」
「かしこまりました」
謎の男を乗せた竜が、夜の暗闇へと飛び去って行った。
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